J・D・カー

J・D・カー『カー短編集3/奇蹟を解く男』

(収録短編について、内容、犯人等を明かしている場合がありますので、ご注意ください。) ディクスン・カーの第三短編集[i]『奇蹟を解く男(The Man Who Explained Miracles)』は、アメリカで1963年、イギリスで1964年に出版された[ii]。カーの病により、新…

ジョン・ディクスン・カー『カー短編集2/妖魔の森の家』

(本書収録の短編小説の内容に、かなり立ち入っていますので、ご注意ください。) ディクスン・カーの短編集が翻訳されたのは1970年で、創元推理文庫で一気に三冊がまとめて刊行された(第三集は少し遅れた)[i]。それでも積み残した短編は多かったし、その…

J・D・カー『カー短編集1/不可能犯罪捜査課』

(収録短編の幾つかの結末を明かしていますので、ご注意ください。) ジョン・ディクスン・カーの初の短編集は、1940年にカーター・ディクスン名義で刊行された。処女作刊行から十年目というのは、早いのか遅いのか。もっとも、カーは最初の五年間ほどは、ほ…

「密室講義」へと向かう三人の作家:カー、ロースン、乱歩

(『三つの棺』、『帽子から飛び出した死』の密室トリックを、はっきり明かしてはいませんが、かなりばらしています。それ以上に、『黄色い部屋の謎』、モーリス・ルブランの短篇小説のトリックを明らかにしていますので、くれぐれも、ご注意願います。) ジ…

ジョン・ディクスン・カー『三つの棺』(その2)

(本書のトリックのほか、G・K・チェスタトン「マーン城の喪主」の内容に触れています。) 松田道弘は、ジョン・ディクスン・カーの『三つの棺』(1935年)[i]で作者がやりたかったことについて、次のように述べている。 「カーがやりたかったのは、この作品…

ジョン・ディクスン・カーと語りの詐術

(『夜歩く』、『五つの箱の死』、『テニスコートの殺人』、『九人と死で十人だ』、『殺人者と恐喝者』、『皇帝のかぎ煙草入れ』、『爬虫類館の殺人』、『囁く影』、『疑惑の影』、『墓場貸します』、『ビロードの悪魔』、『九つの答』、『ハイチムニー荘の…

カーター・ディクスン『第三の銃弾』

(本書のトリック等のほかに、ヴァン・ダイン『グリーン家殺人事件』の犯人に言及しています。) 「第三の銃弾」は、ディクスン・カーの短編集に収録されている中編小説として親しまれてきた(そうでもないか)[i]が、実は単行本として出版されたものが原型[…

J・D・カー『血に飢えた悪鬼』

(本書の主題やトリック等を明かしています。) ジョン・ディクスン・カー最後の長編小説『血に飢えた悪鬼』は1972年に刊行された。ちょうど50年前のことだ。翻訳出版は1980年[i]。すでにカーは亡くなっていた。一年先輩のエラリイ・クイーンの最終作が1971…

J・D・カー『死の館の謎』

(犯人やトリックは一応伏せていますが、未読の方はご注意ください。それと、似たトリックを用いているカーの他の長編に注で触れています。) 『死の館の謎』(1971年)[i]は、ジョン・ディクスン・カーの70冊目か、そのあたりの作品となる。というより、最…

J・D・カー『亡霊たちの真昼』

(本書の犯人、トリックのほかに、『墓場貸します』およびエラリイ・クイーン『十日間の不思議』のトリックに触れています。) 「ニュー・オーリンズ三部作」の第二作である本書[i]は、翻訳されたのも二番目だったが、なんと、最終作の『死の館の謎』(1971…

J・D・カー『ヴードゥーの悪魔』

(本書の犯人およびトリックは明かしていませんが、ほのめかしてはいます。) 『ヴードゥーの悪魔』(1968年)は、2006年に翻訳出版された[i]。実に38年かかっている。しかし、『エドマンド・ゴッドフリー卿殺害事件』(1936年)に至っては55年かかっている…

J・D・カー『月明かりの闇』

(本書の犯人、トリック等について言及しています。) 2000年に翻訳出版された『月明かりの闇-フェル博士最後の事件-』(1967年)[i]は、副題どおり、フェル博士シリーズの最後の長編である。しかし、別に原題に「最後の事件」と謳っているわけではないの…

J・D・カー『仮面劇場の殺人』

(本書のトリック等のほか、G・K・チェスタトンの短編小説、E・クイーンの長編小説、横溝正史の長編小説の内容を明かしています。) 1966年、ディクスン・カーは前年に引き続いてフェル博士を主役とした長編ミステリを発表した。『仮面劇場の殺人』[i]は、カ…

J・D・カー『悪魔のひじの家』

(本書の犯人、トリックのほか、『孔雀の羽根』、『第三の銃弾』の内容に言及しています。) 1965年、ディクスン・カーは、突然、五年ぶりにフェル博士が登場するミステリ長編を発表した。それが『悪魔のひじの家』(1965年)である。しかし、翻訳が出たのは…

J・D・カー『深夜の密使』

(本書の犯人やアイディアを明かしていますが、わかっていても、あまり差支えはないと思われます。) 1962年に『ロンドン橋が落ちる』を発表した翌年、ディクスン・カーは脳卒中の発作で倒れ、療養を余儀なくされた[i]。このことは当時の日本で紹介されたの…

J・D・カー『ロンドン橋が落ちる』

(犯人やトリックを明かしてはいませんが、ところどころ真相に触れています。) 『ロンドン橋が落ちる』(1962年)[i]は、前年の『引き潮の魔女』に続き、歴史ミステリとして発表された。『ビロードの悪魔』(1951年)以来、カー名義では、現代ミステリと交…

J・D・カー『バトラー弁護に立つ』

(本書のトリックその他のほか、F・W・クロフツの長編の密室トリックを明かしています。) 『バトラー弁護に立つ』(1956年)は、『疑惑の影』(1949年)以来、パトリック・バトラーが7年ぶりに登場したミステリである。といっても、バトラーが探偵を務める…

J・D・カー『引き潮の魔女』

(本書の犯人やトリックを明かしてはいませんが、ほのめかしてはいます。また、『帽子収集狂事件』、『白い僧院の殺人』のトリックに言及しています。) 本書は1961年出版のディクスン・カーの歴史ミステリである。1957年の『火よ燃えろ!』、1959年の『ハイ…

J・D・カー『雷鳴の中でも』

(本書および『ハイチムニー荘の醜聞』の内容に触れています。) ディクスン・カーの小説技法というか、悪癖というか、演出のひとつに、緊迫感を高めるために天候を利用する、というのがある。事態が急転したり、登場人物のひとりが「明日までに、私たちのう…

J・D・カー『ハイチムニー荘の醜聞』

(本書の犯人とトリックを明かしているほかに、アガサ・クリスティの『オリエント急行の殺人』の内容について、注で言及しています。) フェル博士のカムバックを祝した、前作『死者のノック』(1958年)から一転して、再び歴史ミステリに戻ったのが本書であ…

J・D・カー『死者のノック』

(トリックや犯人は明かしていませんが、ちょくちょく暗示的なことは書いています。) 9年ぶりのフェル博士シリーズで、博士はアメリカで探偵の腕を振るう。『墓場貸します』(1949年)のヘンリ・メリヴェル卿に続くアメリカ上陸だが、H・Mのようなおちゃら…

J・D・カー『火よ燃えろ!』

(犯人やトリックは明かしていません。) 第五作『火よ燃えろ!』(1957年)[i]で、ディクスン・カーの歴史ミステリは新たな段階に入ったといえる。 いわゆる「スコットランド・ヤード三部作」[ii]の第一作で、イギリス近代警察誕生秘話(フィクションだが)…

カーター・ディクスン『恐怖は同じ』

(本書のトリックを明かしていますが、犯人は明かしていません。) 『恐怖は同じ』(1956年)は、『騎士の盃』以来、三年ぶりのカーター・ディクスン名義の長編だった。そればかりではなく、同名義の最後の長編小説となってしまった。しかも、ヘンリ・メリヴ…

J・D・カー『喉切り隊長』

(犯人を名指しはしていませんが、気づかない人はいないでしょうね。) 『喉切り隊長』(1955年)は、ディクスン・カーの歴史ミステリのなかでも、もっとも「ミステリ」らしい作品といえそうだ。ただし、パズル小説ではなく、スパイ小説である。ジョゼフ・フ…

カーター・ディクスン『騎士の盃』

(犯人やトリックを明かしてはいませんが、そもそも本書は、たいした結末ではありません。) 『騎士の盃』[i](1953年)は、ヘンリ・メリヴェル卿の登場する22作目の、そして最後の長編となった。デビューが1934年の『プレーグ・コートの殺人』だったので、…

カーター・ディクスン『わらう後家(魔女が笑う夜)』

(本書のトリックについて言及しています。) 1950年代に入ると、ディクスン・カーの作品には明らかな衰えが目に付くようになった。短期的には、『コナン・ドイル伝』(1949年)で精力を使い果たしただけなのかもしれないし、一方で、『ニューゲイトの花嫁』…

カーター・ディクスン『時計の中の骸骨』

(本書のほか、アガサ・クリスティの『五匹の子豚』、『邪悪の家』、エラリイ・クイーンの『フォックス家の殺人』、横溝正史の『女王蜂』、『悪魔の手毬唄』、『不死蝶』のプロット、犯人設定等について言及しています。) 『時計の中の骸骨』(1948年)[i]…

J・D・カー『眠れるスフィンクス』

(本書の内容に触れているほか、『時計のなかの骸骨』およびアガサ・クリスティの長編小説に言及しています。) 1940年代後半になると、ディクスン・カーの創作力もめっきり衰えて、長編小説は急減する。数え方にもよるが、1930年代には、共作を含めて30冊(…

カーター・ディクスン『青ひげの花嫁(別れた妻たち)』

(本書のアイディア、真相に触れています。) 本書はハヤカワ・ポケット・ミステリ[i]に収録されたあと、1982年にハヤカワ・ミステリ文庫[ii]に収められた。訳者は変わっていないので、改題ということになる。旧題だと、単に離婚しただけのように受け取られ…

カーター・ディクスン『赤い鎧戸のかげで』

(本書の犯人およびトリックに触れています。) 1950年代に入って、カーはタガが外れてしまったようだ。それとも外れたのはブレーキか(カーだけに)。 『赤い鎧戸のかげで』(1952年)で、ヘンリ・メリヴェル卿は、自分を狙った賊を相手に、短刀で喉を切り…