江戸川乱歩『妖虫』

(本書のほか、『蜘蛛男』の犯人について触れています。また、横溝正史の某短編小説についても同様ですので、ご注意ください。) 昭和8年12月から翌年11月まで『キング』誌上で連載された『妖虫』(1933-34年)は、第二回目の(に、二回目!?)休筆期間を経…

江戸川乱歩『猟奇の果』

(本作の内容について詳しく触れていますので、未読の方は、ご注意ください。) 『猟奇の果』といえば、大内茂男が江戸川乱歩長編小説論「華麗なユートピア」において、「乱歩の長編諸作中でも、最大の珍作である」[i]と評したように、短編小説に比べ評価の…

江戸川乱歩「パノラマ島奇談」

(本作品のほか、江戸川乱歩の短編小説数編について、内容に立ち入っています。) 江戸川乱歩の連載小説といえば、「陰獣」と「パノラマ島奇談」が双璧ということになるだろう。 いずれも文庫本で100頁を少し越えるくらいの長さで、現代の標準でいえば、どち…

江戸川乱歩「陰獣」

(「陰獣」の犯人等のほかに、エラリイ・クイーンの『十日間の不思議』のプロットを紹介していますので、未読の方はご注意ください。) 「陰獣」[i]は、言うまでもなく江戸川乱歩全作品中、もっともセンセーションを巻き起こした探偵小説である。 『探偵小説…

江戸川乱歩『黄金仮面』

(本書の内容等を、詳しく紹介しています。) 『黄金仮面』は、雑誌『キング』に1930年から翌年にかけて連載された、江戸川乱歩最大のヒット作のひとつである。大内茂男によっても「大衆小説界に乱歩の人気を不動のものたらしめた快作」[i]と評価されている…

エラリイ・クイーン『間違いの悲劇』

(収録作品、とくに「間違いの悲劇」のプロットを細かく説明しているので、ご注意願います。) 本書は、1999年に刊行されたThe Tragedy of Errors and Others[i]に基づいて日本独自に編集されたエラリイ・クイーン作品集である。原書の巻頭を飾るのはタイト…

エラリイ・クイーン『クイーン犯罪実験室』

(本書収録作品の犯人等の内容に詳しく触れている場合がありますので、ご注意ください。) 大変なことに気づいてしまった。『クイーン犯罪実験室』(1968年)[i]の書誌情報を確認すると、1959年から1966年にかけて書かれた中短編およびショート・ショートが1…

エラリイ・クイーン『クイーンのフルハウス』

(収録作品の犯人、トリック等のほかに、クリスチアナ・ブランドの代表作について注で触れていますので、未読の方はご注意ください。) エラリイ・クイーンの第五短編集『クイーンのフルハウス(Queens Full)』(1965年)[i]は、またまた「らしい」短編集とな…

エラリイ・クイーン『クイーン検察局』

1950年代のエラリイ・クイーンを読むなら、まず『犯罪カレンダー』(1952年)と『クイーン検察局』(1955年)をお勧めしたい。 以下、収録された各作品の犯人や推理のポイントを明らかにしていますので、ご注意ください。 エラリイ・クイーンの創作方法は、…

横溝正史『迷路荘の惨劇』

(本書の犯人、トリック等のほか、坂口安吾『不連続殺人事件』、アガサ・クリスティ『ナイルに死す』のトリックに触れていますので、ご注意願います。追記:不正確な部分がありましたので、修正しました。2024年1月21日。) 『迷路荘の惨劇』(1975年)[i]は…

江戸川乱歩『吸血鬼』

(本書の犯人等の内容を明かしていますので、ご注意ください。) 江戸川乱歩の『吸血鬼』(1930-31年)には、吸血鬼は出てこない。九割方読み終わった(言うまでもないが、再読)あたりで、ふと思ったのが、何でこの小説は「吸血鬼」という題名だったのだろ…

横溝正史『夜の黒豹』

(本書および原型短編の犯人、トリック等を明かしています。) 『夜の黒豹』は、1963年3月号の『推理ストーリー』誌に掲載された「青蜥蜴」[i]を改稿して1964年8月に東京文藝社より刊行された[ii]。いわゆる横溝正史の長編化書下ろし作品の事実上の最終作で…

江戸川乱歩『魔術師』

(本書の犯人・トリックのほか、『孤島の鬼』のトリック等に触れています。) 『魔術師』(1930-31年)は、『蜘蛛男』(1929-30年)に続いて『講談倶楽部』に連載された長編ミステリである。連載が開始された1930年は、ジョン・ディクスン・カーが『夜歩く』…

横溝正史『悪魔の百唇譜』

(本書および短編の「百唇譜」の犯人その他について、またジョン・ディクスン・カーおよび高木彬光の長編小説のトリックについて注で触れていますので、ご注意ください。) 「百唇譜」などという、いかにもエロティックでいかがわしくて、読まずにいられない…

ムーディ・ブルース『ディセンバー』

クリスマス・アルバム?何考えてんだ。 そんな風に思った、2003年に発表されたムーディ・ブルースの通算16枚目のスタジオ・アルバム『ディセンバー(December)』。『デイズ・オヴ・フューチュア・パスト』からでは15枚目。そして、最後のオリジナル・アルバム…

横溝正史『壺中美人』

(本書の犯人等に言及していますので、ご注意ください。) 1960年は、横溝正史の書下ろし長編ミステリが三編も発表されている。いずれも東京文藝社から刊行されていた「続刊金田一耕助推理全集」に収録されたもので、第1巻が『スペードの女王』(6月)、第2…

江戸川乱歩『蜘蛛男』

(本書の犯人のほか、モーリス・ルブランの『813』、E・フィルポッツの『赤毛のレドメイン家』の内容を部分的に明らかにしています。) 久しぶりに『蜘蛛男』(1929-30年)を読んだ。創元推理文庫から出た、連載時の挿絵入りの本[i]で、買ったものの、そ…

ムーディ・ブルース『ストレンジ・タイムズ』

1999年、8年ぶりにムーディ・ブルースのオリジナル・アルバム『ストレンジ・タイムズ(Strange Times)』がリリースされた。 1978年の『オクターヴ(Octave)』は、『セヴンス・ソウジャーン(Seventh Sojourn)』(1972年)から6年ぶりのアルバムだったが、本作は…

ムーディ・ブルース『キーズ・オヴ・ザ・キングダム』

1990年代のムーディ・ブルースが進むべき道を示すはずだった『キーズ・オヴ・ザ・キングダム(Keys of the Kingdom)』(1991年)[i]は、しかし、見事にこけた。そればかりか、バンドが時代から取り残された現実を正面から突きつける結果となった。 全米チャー…

横溝正史『幽霊男』

(本書および『毒の矢』の犯人、トリック等のほか、ジョン・ディクスン・カー、アガサ・クリスティの著作の内容を明らかにしています。) いわゆる横溝正史のエロ・グロB級ミステリの皮切りとなったのが本書、『幽霊男』である。『悪魔が来りて笛を吹く』(1…

ムーディ・ブルース『シュール・ラ・メール』

Sur la merって、なぜに突然フランス語? 1988年リリースの本作は、前作『ジ・アザー・サイド・オヴ・ライフ』に続き、アメリカのマーケットを意識したと思われるポップでコマーシャルなアルバム。これまた前作に続き、というか、前作以上にジャスティン・ヘ…

ムーディ・ブルース『ジ・アザー・サイド・オヴ・ライフ』

『ジ・アザー・サイド・オヴ・ライフ』は、1986年5月発売。2年ないし3年に一枚というのが、『オクターヴ』(1978年)以降のアルバム制作ペースとなったようだ。しかし、それ以外にも大きな変化のあった作品で、レーベルがポリドールに変わり、プロデューサー…

江戸川乱歩『孤島の鬼』

(本書との比較で、エラリイ・クイーンの代表作に言及しています。犯人は明かしていませんが、ご注意ください。) 大学に入学した年だったと思うが、図書館に行くと講談社版の江戸川乱歩全集[i]を見つけた。「少年探偵団」のシリーズは、全部ではないが[ii]…

ムーディ・ブルース『ザ・プレゼント』

全米1位獲得の『ロング・ディスタンス・ヴォイジャー』に続くムーディ・ブルースのアルバム『ザ・プレゼント』は1983年8月にリリースされた。 同アルバムもまた、パトリック・モラーツのキーボード群が全体のイメージを決定づけている。前作同様、モラーツの…

ムーディ・ブルース『ロング・ディスタンス・ヴォイジャー』

村の広場に老若男女が集まって、眺めているのはパンチとジュディの人形劇のようだ。傍らには、手持ちのドラムを抱えて、ハーモニカのような楽器を咥えた演者らしき男が立っている。人々の衣装からみると、17、18世紀頃のイギリスを描いた絵画なのだろうが、…

横溝正史『夜歩く』

(本書のほか、『真珠郎』、「神楽太夫」の犯人およびトリック、アガサ・クリスティの『アクロイド殺し(アクロイド殺害事件)』他の諸作、ジョン・ディクスン・カーの『貴婦人として死す』、坂口安吾の『不連続殺人事件』、高木彬光の『刺青殺人事件』、江…

ムーディ・ブルース『オクターヴ』

ムーディ・ブルース通算9枚目のアルバム『オクターヴ(Octave)』は、前作『セヴンス・ソウジャーン』(1972年)同様、1枚目のアルバム『マグニフィセント・ムーディーズ』(1965年)を完全無視の8にちなんだタイトルとなった。 『ソウジャーン』から六年後の1…

エラリイ・クイーン『犯罪カレンダー』

(収録短編の大半について内容や真相を明かしていますので、ご注意ください。) 1952年に出版された『犯罪カレンダー』[i]は、過去二冊の短編集『エラリイ・クイーンの冒険』(1934年)、『エラリイ・クイーンの新冒険』(1940年)にはない新しい趣向が盛り込…

J・D・カー『カー短編集3/奇蹟を解く男』

(収録短編について、内容、犯人等を明かしている場合がありますので、ご注意ください。) ディクスン・カーの第三短編集[i]『奇蹟を解く男(The Man Who Explained Miracles)』は、アメリカで1963年、イギリスで1964年に出版された[ii]。カーの病により、新…

横溝正史『支那扇の女』

(本作品の短編版、長編版双方の犯人を明かしています。短編「ペルシャ猫を抱く女」、「肖像画」についても同様ですので、ご注意ください。) 『支那扇の女』[i]は、横溝正史の長編のなかでも、もっとも改稿を繰り返した作品のひとつとして知られている。原…