エラリイ・クイーン『エジプト十字架の謎』

(『エジプト十字架の謎』のほか、アガサ・クリスティ『ABC殺人事件』、G・K・チェスタトン「折れた剣」、横溝正史『真珠郎』の内容に触れています。) 『エジプト十字架の謎』(1932年)は、エラリイ・クイーンの作品中、もっとも親しまれ、読まれてきた長編…

E・クイーン『ギリシア棺の謎』

『ギリシア棺の謎』(1932年)は、エラリイ・クイーンの最高傑作とされる。 次から次へと推理を組み立てては壊していく、その様は、まさにロジック・ブレイカー、いやスクラップ・アンド・ビルドか。エラリイ・クイーン(作者および探偵)が、目を血走らせ、…

E・クイーン『Xの悲劇』

Xと言えばY、ちょっと離れてZ、というのがエラリイ・クイーンのXYZ三部作の日本における評価だろうか。 『Zの悲劇』も(バーナビー・ロス名義だが)エラリイ・クイーンの傑作とする声は多いが、『X』と『Y』に比べると、旗色が悪いようだ。それほどまでに、…

J・D・カー『テニスコートの殺人』

『テニスコートの殺人』[i](1939年)は、『テニスコートの謎』[ii]として創元推理文庫に収録されていた長編小説の新訳版である。旧訳本は、1980年代にカーの翻訳をいくつも手掛けて、ファンを狂喜させた厚木 淳訳。新訳は、最近のカー作品の翻訳を和邇桃子…

J・D・カー『緑のカプセルの謎』

『緑のカプセルの謎』(1939年)は、ジョン・ディクスン・カーの作品中、比較的読まれてきた長編のひとつであろう。創元推理文庫で版を重ねてきて[i]、近年新訳も出た[ii]。創元社が、カーの改訳に熱を入れている恩恵を受けた格好である。 なぜ本作が版を重…

エラリイ・クイーン『Yの悲劇』

『Yの悲劇』(1932年)は今読まれているのだろうか。 『Yの悲劇』といえば、本格ミステリの最高峰として知られてきた。日本では常にベスト10、ベスト100の上位を占め、あまりの根強い人気に「いつまでも『Yの悲劇』でもないだろう」、という声も多かったよう…

J・D・カー『エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件』

『エドマンド・ゴドフリー興殺害事件』(1936年)[i]が翻訳されたときは驚いた。2007年に創元推理文庫[ii]に収められた時には、もっと驚いた。絶対すぐに絶版になると思って、急いで書店に足を運んだ。 『エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件』は、ディクスン…

エラリイ・クイーンとマルクス

表題のマルクスはマルクス兄弟ではない。 エラリイ・クイーンは、パズル・ミステリ作家のなかでもひときわ異彩を放っている。彼(ら)ほど、論理に拘った推理作家は英米でもまれだろう。同時代のアガサ・クリスティやジョン・ディクスン・カーらに比しても、…

J・D・カー『死時計』

何かと言えばG・K・チェスタトンの影響が云々されるジョン・ディクスン・カーであるが、江戸川乱歩がその典型例として挙げたのが、『死者はよみがえる』(1938年)とこの『死時計』(1935年)である[i]。 カーの「チェスタトン流の味」が苦手だという二階堂…

ビー・ジーズ1972

「マイ・ワールド」(1972.1) 1 「マイ・ワールド」(My World, B. & R. Gibb) ビー・ジーズのシングル・レコードは、「トゥ・ラヴ・サムバディ」が典型のように、メロディアスなイントロが特徴であることが多いが、「マイ・ワールド」はまるでリハーサルの音…

ビー・ジーズ1971(2)

『トラファルガー』(Trafalgar, 1971.11) 『トラファルガー』は1970年代前半のビー・ジーズのアルバムのなかでベストの作品であるという評価に多くのファンが同意することと思う。バリーとロビンの黄金ライター・コンビが復活することで、前作よりもはるかに…

ビー・ジーズ1971(1)

「傷心の日々」(1971.5) 1 「傷心の日々」(How Can You Mend A Broken Heart, B. & R. Gibb) 「ロンリー・デイズ」から半年後に発表された、リユニオン後の2枚目のシングル。なぜこんなに間があいたのか不思議だが、モーリスのコメントによると、「ロンリー…

ビー・ジーズ1970(3)

「ロンリー・デイ」(1970.11) 1 「ロンリー・デイ」(Lonely Days) 1970年8月に、ギブ兄弟3人での活動再開をメディアに宣言した後、最初に発表されたシングル。イギリスでは、脱退騒動の悪印象が影響してか、最高位33位と不評。ドイツでも思ったほど伸びず25…

ビー・ジーズ1970(2)

「アイ・オー・アイ・オー」(1970.3) 1 「アイ・オー・アイ・オー」(I. O. I. O.) ビー・ジーズの7か月ぶりのシングルが出たとき、すでにグループは消滅し、コリン・ピーターセンは解雇され、バリーとモーリスはソロ・レコーディングに取り掛かっていた。も…

ビー・ジーズ1970(1)

ロビン・ギブ「夏と秋の間に」(1970.1) 1 「夏と秋の間に」(August October) ロビン・ギブの第三弾シングルは、前作から間を置かずに1970年早々に発売された。 前作の「ミリオン・イヤーズ」があまりに重々しいバラードだったことを反省してか、こちらはもう…

カーター・ディクスン『読者よ、欺かるるなかれ』

『読者よ欺かるるなかれ』(1939年)は、カーター・ディクスン名義の異色長編である。といっても、カーには異色長編が多い。 例によって、カー作品ではおなじみの怪奇な謎が全編を覆っている。今回いささか異なるのは、SF的な超能力(テレフォース)による遠…

カーター・ディクスン『ユダの窓』

『虚無への供物』(1964年)で、日本ミステリ史上に名を残す中井英夫のエッセイに、『虚無』を書くきっかけとなったミステリについて語ったものがある。鎌倉まで所用があって、車中で時間をつぶすために分厚いミステリを貸本屋で借りた、という話である。読…

J・D・カー『帽子収集狂事件』(補遺)

ジョン・ディクスン・カーの長編を系統的に見ていくと、探偵の交代とともに、作風の変化が見て取れる。バンコラン・シリーズの4作品から、ロシターものの『毒のたわむれ』を経て、1933年の『魔女の隠れ家』でフェル博士のシリーズが始まる。バンコランの無国…

J・D・カー(カーター・ディクスン)『白い僧院の殺人』

『白い僧院の殺人』(1934年)は、カーター・ディクスン名義の第二長編で、ヘンリ・メリヴェル卿シリーズの第二作でもある。 かつては、『修道院殺人事件』の表題で、長谷川修二訳がハヤカワ・ポケット・ミステリに収録[i]され、『修道院の殺人』の書名で、…

J・D・カー『黒死荘の殺人』

『黒死荘の殺人』(1934年)は、カーター・ディクスン名義の第一長編で、いよいよヘンリ・メリヴェル卿が登場する。 本作は、1977年に平井呈一訳が講談社文庫[i]に収録され、同年、仁賀克維訳がハヤカワ・ミステリ文庫[ii]からも公刊されている。近年、創元…

J・D・カー『弓弦城の殺人』

『弓弦城殺人事件』(1933年)はカーター・ディクスン(正確にはカー・ディクスン)名義の最初の長編で、この一作のみの探偵ジョン・ゴーントが登場する。 例によって、本作も日本では長い間絶版が続き、幻の長編と化していた。ところが、1976年にハヤカワ・…

J・D・カー『魔女の隠れ家』

『魔女の隠れ家』(1933年)はディクスン・カーの長編第六作。いよいよギデオン・フェル博士が登場する。 例によって、本作も日本では長い間絶版が続き、幻の長編と化していた。ところが、1979年に創元推理文庫に収録される[i]と、1981年にはハヤカワ・ミス…

J・D・カー『毒のたわむれ』

『毒のたわむれ』(1932年)はディクスン・カーの第五長編で、パット・ロシターを主人公とした唯一の作品である。 例によって、本作も日本では長い間絶版が続き、幻の長編と化していた。ところが、1993年にハヤカワ・ポケット・ミステリで復刊され[i]、・・…

カーター・ディクスン『五つの箱の死』

『五つの箱の死』(1938年)は、カーター・ディクスン名義の第九長編で、ヘンリ・メリヴェル卿シリーズの第八作である。 例によって、本作も日本では長い間絶版が続き、幻の長編と化していた。1993年にハヤカワ・ポケット・ミステリで復刊され[i]、容易に入…

J・D・カー『蝋人形館の殺人』

『蠟人形館の殺人』(1932年)は実質的にアンリ・バンコランを主人公としたシリーズの掉尾を飾る長編である(1937年の『四つの凶器』では、バンコランの性格まですっかり変わってしまって、あえて同じ主人公と考える必要もない)。 例によって、本作も日本で…

J・D・カー『蝋人形館の殺人』

『蠟人形館の殺人』(1932年)は実質的にアンリ・バンコランを主人公としたシリーズの掉尾を飾る長編である(1937年の『四つの凶器』では、バンコランの性格まですっかり変わってしまって、あえて同じ主人公と考える必要もない)。 例によって、本作も日本で…

J・D・カー『髑髏城』

『髑髏城』(1931年)はアンリ・バンコランを主人公とした第三長編で、第一作のフランス、第二作のイギリスに続き、ドイツのライン渓谷を舞台としている。 例によって、本作も日本では長い間絶版が続き、幻の長編と化していた。ところが、・・・いやそうでは…

J・D・カー『絞首台の謎』

『絞首台の謎』(1931年)はジョン・ディクスン・カーの長編第二作で、初めてイギリスを舞台にした作品である[i]。 例によって、本作も日本では長い間絶版が続き、幻の長編と化していた。ところが、1976年に創元推理文庫で刊行され、手軽に読めるようになっ…

Bee Gees 1969(番外編)

マーブルズ「君を求める淋しき心」(The Marbles, The Walls Fell Down, 1969.3) 1 「君を求める淋しき心」(The Walls Fell Down, B, R. and M. Gibb) 「オンリー・ワン・ウーマン」の成功に味をしめたのか、マーブルズの第二弾は、明らかに前作の二番煎じだ…

Bee Gees 1969(3)

12 「思い出を胸に」(1969.8) 1 「思い出を胸に」(Don‘t Forget to Remember) “Forget”と”Remember”という反意語をタイトルに織り込んだのは面白い。「覚えていることを忘れないで」、とは回りくどいが、十代の頃からいやというほど曲を書いてきたせいか、…