N・ブレイク

ニコラス・ブレイク『秘められた傷』

(本書の犯人を明かしてはいませんが、内容や構成には立ち入っていますので、ご注意ください。) 『秘められた傷』[i]は、ニコラス・ブレイクの第二十作目、最後の長編小説である。 今回ブレイクを順番に読み直そうと思った動機のひとつは、本書を再読したい…

ニコラス・ブレイク『死の翌朝』

(本書のほかに、『死のとがめ』、『死のジョーカー』の真相を明かしています。他のブレイク作品の内容にも、おまけにエラリイ・クイーンの中編小説、J・D・カーとE・D・ビガーズの長編小説にも言及しているので、ご注意ください。) 2014年に刊行された本書…

ニコラス・ブレイク『悪の断面』

(本書の内容をほぼ明かしていますので、ご注意ください。) 原題のThe Sad Varietyは、例によって文学作品からの引用かと思ったが、訳者解説でも何も説明がないので、違うようだ。「嘆かわしい見解の不一致」とは、要するに東西冷戦の西側と東側のイデオロ…

ニコラス・ブレイク『死のジョーカー』

(犯人の名前は伏せていますが、ほぼばらしていますので、ご注意ください。) 『死のジョーカー』(1963年)[i]は、ニコラス・ブレイクの第17長編だが、前作『死のとがめ』(1961年)[ii]と同様の犯人当てミステリである。つまり、それ以前の『血ぬられた報…

ニコラス・ブレイク『死のとがめ』

(本書の結末を明らかにしています。) 『死のとがめ』[i]は『メリー・ウィドウの航海』[ii]に続く、ニコラス・ブレイクの長編ミステリだが、前作同様の犯人当て小説で、しかし、印象は対照的である。 『メリー・ウィドウの航海』は、エーゲ海クルーズ船を舞…

ニコラス・ブレイク『メリー・ウィドウの航海』

(本書のトリックおよび犯人のほかに、クリスティアナ・ブランドの『はなれわざ』、アガサ・クリスティの長編小説の真相を明かしています。) ニコラス・ブレイクの第十五長編『メリー・ウィドウの航海』(1959年)[i]は、これぞパズル・ミステリというべき…

ニコラス・ブレイク『血ぬられた報酬』

(本書のアイディアおよびプロットを明かしているほか、『野獣死すべし』について、ちょっとばらしています。) 『血ぬられた報酬』(1958年)[i]、タイトルはまるでハードボイルド・ミステリだが、前作の『章の終わり』(1957年)[ii]から一転して、再びサ…

ニコラス・ブレイク『章の終わり』

(本書のほか、『旅人の首』の内容に言及しています。) 出版社というのは、作家にとっては身近な存在であるはずなので、舞台にしやすいのだろうか(いや、むしろ、しにくいのか。本を出してもらっているわけだから)。ニコラス・ブレイクの1957年の長編『章…

ニコラス・ブレイク『闇のささやき』

(本書のアイディア、真相等に触れています。) 『闇のささやき』(1954年)[i]のタイトルは、例によって、ライオネル・ジョンソンという19世紀のイギリス詩人の引用のようだが、作品ジャンルとしては、『短刀を忍ばせ微笑む者』以来のスパイ・スリラーであ…

ニコラス・ブレイク『呪われた穴』

(本書の犯人について明言はしていませんが、かなり踏み込んでいますので、ご注意ください。) 『呪われた穴』(1953年)[i]は、ニコラス・ブレイクの第十長編で、お馴染みナイジェル・ストレンジウェイズが登場する。前作の『旅人の首』から四年後で、少々…

ニコラス・ブレイク『旅人の首』

(本書の犯人を明かしています。) 「復刊アンケート第9位」。私が持っているハヤカワ・ポケット・ミステリの『旅人の首』(2003年、原書刊行1949年)には、例のあのビニール・カヴァーの下に、こう謳い文句が載った帯が付いている。ハヤカワミステリの50周…

ニコラス・ブレイク『殺しにいたるメモ』

(本書の真相を明らかにしているほか、他のブレイク長編の犯人についても、注で言及しています。) 『殺しにいたるメモ』(1947年)[i]は、ニコラス・ブレイクの第八長編ミステリだが、前作の『雪だるまの殺人』(1941年)からは六年ぶりの発表である。 自伝…

ニコラス・ブレイク『雪だるまの殺人』

(本書のほかに『死の殻』の真相に触れています。) ニコラス・ブレイクの第七長編『雪だるまの殺人』(1941年)[i]は、一見すると、前作『ワンダーランドの悪意』、前々作『短刀を忍ばせ微笑む者』と比べて、オーソドックスなパズル・ミステリに戻った感が…

ニコラス・ブレイク『ワンダーランドの悪意』

(本書の真相を明かしています。) ニコラス・ブレイクの第六長編は『ワンダーランドの悪意』(1940年)[i]、言うまでもなく『不思議の国のアリス』をもじっている[ii]のだが、「アリス(Alice)」と「悪意(malice)」をかけたのは、日本語訳ではわかりにくい。…

ニコラス・ブレイク『短刀を忍ばせ微笑む者』

(本書の真相と結末を明らかにしています。) ニコラス・ブレイクは、第五長編『短刀を忍ばせ微笑む者』(1939年)[i]で作風が大きく変わった。それまでの四作品は犯人当てのオーソドックスなミステリであったが、本作は何とスパイ・スリラーである。随分唐…

ニコラス・ブレイク『野獣死すべし』

(本書のトリックおよび犯人のほか、アガサ・クリスティ、J・D・カーの長編小説のトリック・犯人に触れています。) 『野獣死すべし』(1938年)[i]は史上最高のパズル・ミステリだと、そう思っていた。 江戸川乱歩が、戦後まもない頃、「イギリス新本格派」…

ニコラス・ブレイク『ビール工場殺人事件』

(本書の犯人、トリック等のほか、注で横溝正史の短編小説のアイディアを明かしています。) ニコラス・ブレイクの第三作は、第一作の学園ミステリ、第二作の田園ミステリから一転して、ビール醸造工場内の殺人事件を扱っている[i]。おや、ブレイクが企業ミ…

ニコラス・ブレイク『死の殻』

(本書の真相、トリック等のほかに、注で、エラリイ・クイーンおよび横溝正史の長編小説に言及しています。) 処女作『証拠の問題』で学園ミステリに取り組んだブレイクの第二作『死の殻』[i]は、こちらもイギリス・ミステリ伝統のカントリー・ハウスものに…

ニコラス・ブレイク『証拠の問題』

(本書の犯人およびトリックのほかに、G・K・チェスタトンの短編小説のトリックを明かしています。) ニコラス・ブレイクこと、セシル・デイ・ルイスは1904年にアイルランドに生まれた桂冠詩人で、俳優ダニエル・デイ・ルイスの父親としても知られている。と…