2021-01-01から1年間の記事一覧

カーター・ディクスン『殺人者と恐喝者』

(本書の内容に触れています。) 『殺人者と恐喝者(Seeing Is Believing)』[i](1941年)は、前作の『九人と死で十人だ』(1940年)などと同様、典型的な1940年代前半のカー(ディクスン)長編である。単純だが、巧妙なアイディアで一気に読ませる。長く絶版…

カーター・ディクスン『九人と死で十人だ』

(本書のトリック等に触れています。) 『九人と死で十人だ(Nine and Death Makes Ten)』(1940年)は、前作の『かくして殺人へ』(同)や次作の『殺人者と恐喝者』(1941年)と並んで、カーター・ディクスン名義の長編中でも、もっとも入手困難な作品だった…

カーター・ディクスン『かくして殺人へ』

(本書の内容に触れています。) 『かくして殺人へ』(1940年)は、ディクスン・カー(カーター・ディクスン名義だが)の長編中でも知名度は底のほうだろう。 1956年に翻訳されていたが、1999年に新樹社版[i]が出版されるまで、かけねなしの幻の長編だった。…

J・D・カー『曲がった蝶番』

(本書のトリック等に触れています。) 『曲がった蝶番』はジョン・ディクスン・カーの代表作のひとつに挙げられるが、どのような意味での代表作なのか、判断に迷うところがある。 江戸川乱歩は「カー問答」のなかで本作をカー長編の第二位の7冊のうちに入れ…

エラリイ・クイーン『Zの悲劇』

(内容に触れています。) 『Zの悲劇』(1933年)は、ドルリー・レーン四部作のなかでも、ある意味、一番論議を呼んできた作品である。 『Xの悲劇』、『Yの悲劇』は、「〇幕〇場」の演劇仕立ての章構成、シェイクスピア俳優だった主人公にちなんだ舞台劇っぽ…

J・D・カー『火刑法廷』

(本書の内容に触れています。) 『火刑法廷』は、1970年代以降、ジョン・ディクスン・カーの長編のなかで、最も評価の上がった作品といってよいだろう。もともとカーの代表作と知られていたが、長らく絶版となっていたこともあって、幻の傑作扱いになってい…

エラリイ・クイーン『エジプト十字架の謎』(その2)

(本書および『アメリカ銃の謎』、『Xの悲劇』の内容に触れています。) 『エジプト十字架の謎』(1932年)の最大の売り物は、ヨードチンキ瓶の推理だが、中盤にもすごい推理が出てくる。すごい、というか、ややこしい、というべきか。 第二の被害者トマス・…

ビー・ジーズ1977(2)

『グレイテスト・ライヴ』(Here At Last … Bee Gees … Live, 1977.5) ビー・ジーズ初の公式ライヴ・アルバムは、ようやく1977年になって登場した。 本来、ビー・ジーズのようなポップ・バラードを得意とするグループはライヴに不向きだと思われているし、実…

ビー・ジーズ1977(1)

英米デビューから10年たった1977年、ビー・ジーズ、とりわけバリー・ギブはソング・ライターとしての絶頂期を迎えた。マイダス王のごとく、彼が触れる、いや、書く楽曲は次々にゴールド(・ディスク)に変わった。黄金どころか、プラチナ(・ディスク)に変…

ビー・ジーズ1976

「ユー・シュッド・ビー・ダンシング」(1976.7) 1 「ユー・シュッド・ビー・ダンシング」(You Should Be Dancing, B, R. & M. Gibb) 「ユー・シュッド・ビー・ダンシング」はビー・ジーズの作品の中でも、もっとも注目すべきシングルといえる。言うまでもな…

横溝正史『白蠟変化』と『吸血蛾』

(『白蠟変化』、『吸血蛾』のほか、『犬神家の一族』、『白と黒』、『仮面舞踏会』、『悪霊島』の内容に触れています。) 『白蠟変化』(1936年)[i]と『吸血蛾』(1955年)[ii]は、横溝正史のいわゆるB級作品に位置づけられる。あるいは通俗長編といえばよ…

横溝正史『女が見ていた』

(本書の内容に触れています。) 『女が見ていた』(1949年)は、数多い横溝作品のなかでも、異色作という意味では筆頭に挙げられるだろう。 金田一耕助や由利麟太郎のような名探偵もののシリーズではなく、しかも新聞小説である。本作について、解説を書い…

横溝正史『八つ墓村』

(『八つ墓村』、『夜歩く』のほか、A・クリスティの『ABC殺人事件』の内容に言及しています。) 『八つ墓村』(1949-51年)は、横溝正史の代表作であると同時に、『犬神家の一族』と並んで、日本で最も名の知られたミステリ長編の一つだろう。 ストーリーの…

横溝正史「黒猫亭事件」

(「黒猫亭事件」のほか、『白蠟変化』、『夜光虫』、『真珠郎』、『双仮面』、「神楽太夫」、『夜歩く』、『悪魔の手毬唄』、『白と黒』の横溝作品、およびG・K・チェスタトン「折れた矢」、A・クリスティ『ABC殺人事件』、E・クイーン『エジプト十…

横溝正史『女王蜂』

『女王蜂』は横溝正史の代表作のひとつだが、言及されることは少ない。 本作は、『犬神家の一族』(1950-51年)に続いて雑誌『キング』に1951年6月号から翌年5月号まで1年間連載された。前作の好評による連続連載だったと推察されるが、事実『犬神家の一族』…

パトリシア・ハイスミスとトム・リプリー (『太陽がいっぱい』、『贋作』、『アメリカの友人』、『イーディスの日記』、『リプリーをまねた少年』、『扉の向こう側』、『孤独の街角』、『死者と踊るリプリー』の内容に触れています。) パトリシア・ハイス…

ビー・ジーズ1975

1970年代後半は、ビー・ジーズがバリー・ギブの主導体制、あえて言えば、ワン・マン体制に移行した時期である。ほとんどの曲でバリーがリード・ヴォーカルを取り、コーラスもバリーの多重コーラスではないかと思えるような曲が増えた。曲作りは、他のアーテ…

ビー・ジーズ1974

「ミスター・ナチュラル」(1974.3) 1 「ミスター・ナチュラル」(Mr. Natural, B. & R. Gibb) 「ひとりぼっちの夏」以来のシングルは、案の定惨敗に終わった。それでもビルボードでは93位となり、1967年から8年連続で全米シングル・チャートにランク・インす…

ビー・ジーズ1973

「希望の夜明け」(1973.1) 1 「希望の夜明け」(Saw A New Morning, B, R & M Gibb) 1973年のビー・ジーズは、「希望の夜明け」で始まった。しかし結果として夢も希望もなかった。全米94位、3年前の「イフ・オンリー・アイ・ハッド」と「アイ・オー・アイ・…

『災厄の町』の犯人は誰?

『災厄の町』(1942年)は、エラリイ・クイーンの代表作のひとつとして知られる。日本でも、江戸川乱歩[i]らによって、第二次大戦後に紹介された作品のうちの傑作として喧伝されてきたが、決定的となったのは、フランシス・ネヴィンズ・ジュニアによる評伝[ii]…

エラリイ・クイーン三部作:『ローマ帽子の謎』『フランス白粉の謎』『オランダ靴の謎』

(記事タイトルを変更、2023/3/25。『ローマ帽子の謎』、『フランス白粉の謎』、『オランダ靴の謎』の内容に触れています。) エラリイ・クイーンの最初の三つの長編ミステリが、共通の外観を備えていることは周知の事実だろう。 公共の場を舞台に、不特定多…

エラリイ・クイーン『エジプト十字架の謎』

(『エジプト十字架の謎』のほか、アガサ・クリスティ『ABC殺人事件』、G・K・チェスタトン「折れた剣」、横溝正史『真珠郎』の内容に触れています。) 『エジプト十字架の謎』(1932年)は、エラリイ・クイーンの作品中、もっとも親しまれ、読まれてきた長編…

E・クイーン『ギリシア棺の謎』

『ギリシア棺の謎』(1932年)は、エラリイ・クイーンの最高傑作とされる。 次から次へと推理を組み立てては壊していく、その様は、まさにロジック・ブレイカー、いやスクラップ・アンド・ビルドか。エラリイ・クイーン(作者および探偵)が、目を血走らせ、…

E・クイーン『Xの悲劇』

(犯人および推理内容を明かしていますので、ご注意ください。) Xと言えばY、ちょっと離れてZ、というのがエラリイ・クイーンのXYZ三部作の日本における評価だろうか。 『Zの悲劇』も(バーナビー・ロス名義だが)エラリイ・クイーンの傑作とする声は多いが…

J・D・カー『テニスコートの殺人』

『テニスコートの殺人』[i](1939年)は、『テニスコートの謎』[ii]として創元推理文庫に収録されていた長編小説の新訳版である。旧訳本は、1980年代にカーの翻訳をいくつも手掛けて、ファンを狂喜させた厚木 淳訳。新訳は、最近のカー作品の翻訳を和邇桃子…

J・D・カー『緑のカプセルの謎』

『緑のカプセルの謎』(1939年)は、ジョン・ディクスン・カーの作品中、比較的読まれてきた長編のひとつであろう。創元推理文庫で版を重ねてきて[i]、近年新訳も出た[ii]。創元社が、カーの改訳に熱を入れている恩恵を受けた格好である。 なぜ本作が版を重…

エラリイ・クイーン『Yの悲劇』

『Yの悲劇』(1932年)は今読まれているのだろうか。 『Yの悲劇』といえば、本格ミステリの最高峰として知られてきた。日本では常にベスト10、ベスト100の上位を占め、あまりの根強い人気に「いつまでも『Yの悲劇』でもないだろう」、という声も多かったよう…

J・D・カー『エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件』

『エドマンド・ゴドフリー興殺害事件』(1936年)[i]が翻訳されたときは驚いた。2007年に創元推理文庫[ii]に収められた時には、もっと驚いた。絶対すぐに絶版になると思って、急いで書店に足を運んだ。 『エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件』は、ディクスン…

エラリイ・クイーンとマルクス

表題のマルクスはマルクス兄弟ではない。 エラリイ・クイーンは、パズル・ミステリ作家のなかでもひときわ異彩を放っている。彼(ら)ほど、論理に拘った推理作家は英米でもまれだろう。同時代のアガサ・クリスティやジョン・ディクスン・カーらに比しても、…

J・D・カー『死時計』

何かと言えばG・K・チェスタトンの影響が云々されるジョン・ディクスン・カーであるが、江戸川乱歩がその典型例として挙げたのが、『死者はよみがえる』(1938年)とこの『死時計』(1935年)である[i]。 カーの「チェスタトン流の味」が苦手だという二階堂…