2023-01-01から1年間の記事一覧

横溝正史『悪魔の百唇譜』

(本書および短編の「百唇譜」の犯人その他について、またジョン・ディクスン・カーおよび高木彬光の長編小説のトリックについて注で触れていますので、ご注意ください。) 「百唇譜」などという、いかにもエロティックでいかがわしくて、読まずにいられない…

ムーディ・ブルース『ディセンバー』

クリスマス・アルバム?何考えてんだ。 そんな風に思った、2003年に発表されたムーディ・ブルースの通算16枚目のスタジオ・アルバム『ディセンバー(December)』。『デイズ・オヴ・フューチュア・パスト』からでは15枚目。そして、最後のオリジナル・アルバム…

横溝正史『壺中美人』

(本書の犯人等に言及していますので、ご注意ください。) 1960年は、横溝正史の書下ろし長編ミステリが三編も発表されている。いずれも東京文藝社から刊行されていた「続刊金田一耕助推理全集」に収録されたもので、第1巻が『スペードの女王』(6月)、第2…

江戸川乱歩『蜘蛛男』

(本書の犯人のほか、モーリス・ルブランの『813』、E・フィルポッツの『赤毛のレドメイン家』の内容を部分的に明らかにしています。) 久しぶりに『蜘蛛男』(1929-30年)を読んだ。創元推理文庫から出た、連載時の挿絵入りの本[i]で、買ったものの、そ…

ムーディ・ブルース『ストレンジ・タイムズ』

1999年、8年ぶりにムーディ・ブルースのオリジナル・アルバム『ストレンジ・タイムズ(Strange Times)』がリリースされた。 1978年の『オクターヴ(Octave)』は、『セヴンス・ソウジャーン(Seventh Sojourn)』(1972年)から6年ぶりのアルバムだったが、本作は…

ムーディ・ブルース『キーズ・オヴ・ザ・キングダム』

1990年代のムーディ・ブルースが進むべき道を示すはずだった『キーズ・オヴ・ザ・キングダム(Keys of the Kingdom)』(1991年)[i]は、しかし、見事にこけた。そればかりか、バンドが時代から取り残された現実を正面から突きつける結果となった。 全米チャー…

横溝正史『幽霊男』

(本書および『毒の矢』の犯人、トリック等のほか、ジョン・ディクスン・カー、アガサ・クリスティの著作の内容を明らかにしています。) いわゆる横溝正史のエロ・グロB級ミステリの皮切りとなったのが本書、『幽霊男』である。『悪魔が来りて笛を吹く』(1…

ムーディ・ブルース『シュール・ラ・メール』

Sur la merって、なぜに突然フランス語? 1988年リリースの本作は、前作『ジ・アザー・サイド・オヴ・ライフ』に続き、アメリカのマーケットを意識したと思われるポップでコマーシャルなアルバム。これまた前作に続き、というか、前作以上にジャスティン・ヘ…

ムーディ・ブルース『ジ・アザー・サイド・オヴ・ライフ』

『ジ・アザー・サイド・オヴ・ライフ』は、1986年5月発売。2年ないし3年に一枚というのが、『オクターヴ』(1978年)以降のアルバム制作ペースとなったようだ。しかし、それ以外にも大きな変化のあった作品で、レーベルがポリドールに変わり、プロデューサー…

江戸川乱歩『孤島の鬼』

(本書との比較で、エラリイ・クイーンの代表作に言及しています。犯人は明かしていませんが、ご注意ください。) 大学に入学した年だったと思うが、図書館に行くと講談社版の江戸川乱歩全集[i]を見つけた。「少年探偵団」のシリーズは、全部ではないが[ii]…

ムーディ・ブルース『ザ・プレゼント』

全米1位獲得の『ロング・ディスタンス・ヴォイジャー』に続くムーディ・ブルースのアルバム『ザ・プレゼント』は1983年8月にリリースされた。 同アルバムもまた、パトリック・モラーツのキーボード群が全体のイメージを決定づけている。前作同様、モラーツの…

ムーディ・ブルース『ロング・ディスタンス・ヴォイジャー』

村の広場に老若男女が集まって、眺めているのはパンチとジュディの人形劇のようだ。傍らには、手持ちのドラムを抱えて、ハーモニカのような楽器を咥えた演者らしき男が立っている。人々の衣装からみると、17、18世紀頃のイギリスを描いた絵画なのだろうが、…

横溝正史『夜歩く』

(本書のほか、『真珠郎』、「神楽太夫」の犯人およびトリック、アガサ・クリスティの『アクロイド殺し(アクロイド殺害事件)』他の諸作、ジョン・ディクスン・カーの『貴婦人として死す』、坂口安吾の『不連続殺人事件』、高木彬光の『刺青殺人事件』、江…

ムーディ・ブルース『オクターヴ』

ムーディ・ブルース通算9枚目のアルバム『オクターヴ(Octave)』は、前作『セヴンス・ソウジャーン』(1972年)同様、1枚目のアルバム『マグニフィセント・ムーディーズ』(1965年)を完全無視の8にちなんだタイトルとなった。 『ソウジャーン』から六年後の1…

エラリイ・クイーン『犯罪カレンダー』

(収録短編の大半について内容や真相を明かしていますので、ご注意ください。) 1952年に出版された『犯罪カレンダー』[i]は、過去二冊の短編集『エラリイ・クイーンの冒険』(1934年)、『エラリイ・クイーンの新冒険』(1940年)にはない新しい趣向が盛り込…

J・D・カー『カー短編集3/奇蹟を解く男』

(収録短編について、内容、犯人等を明かしている場合がありますので、ご注意ください。) ディクスン・カーの第三短編集[i]『奇蹟を解く男(The Man Who Explained Miracles)』は、アメリカで1963年、イギリスで1964年に出版された[ii]。カーの病により、新…

横溝正史『支那扇の女』

(本作品の短編版、長編版双方の犯人を明かしています。短編「ペルシャ猫を抱く女」、「肖像画」についても同様ですので、ご注意ください。) 『支那扇の女』[i]は、横溝正史の長編のなかでも、もっとも改稿を繰り返した作品のひとつとして知られている。原…

横溝正史『魔女の暦』

(本書のトリックのほか、『幽霊男』、人形佐七シリーズ短編、アガサ・クリスティの長編小説の内容に触れていますので、ご注意ください。) 『魔女の暦』は、1958年に東京文芸社から刊行された『金田一耕助推理全集3』に「鏡が浦の殺人」とともに収録された…

横溝正史『スペードの女王』

(『スペードの女王』および原型の「ハートのクイン」のほか、『真珠郎』、『夜光虫』、「神楽太夫」、『夜歩く』、「黒猫亭事件」、『悪魔の手毬唄』、『白と黒』の横溝作品。エラリイ・クイーンの『エジプト十字架の謎』、クレイトン・ロースンの『首のな…

横溝正史『悪魔の降誕祭』

(本書の犯人等のほか、『白と黒』、『仮面舞踏会』、『病院坂の首縊りの家』、『悪霊島』の犯人にも触れています。またジョン・ディクスン・カーの『囁く影』を比較対象にしていますので、未読の方はご注意ください。) 『悪魔の降誕祭』[i]は、1958年1月に…

ジョン・ディクスン・カー『カー短編集2/妖魔の森の家』

(本書収録の短編小説の内容に、かなり立ち入っていますので、ご注意ください。) ディクスン・カーの短編集が翻訳されたのは1970年で、創元推理文庫で一気に三冊がまとめて刊行された(第三集は少し遅れた)[i]。それでも積み残した短編は多かったし、その…

エラリイ・クイーン『エラリイ・クイーンの新冒険』

(収録作品の犯人等を明かしています。またモーリス・ルブランの長編小説に注で触れていますので、ご注意願います。) 『エラリイ・クイーンの新冒険』[i]はクイーンの第二短編集だが、一番目立っているのが中編の「神の灯」である。同作は、江戸川乱歩が惚…

J・D・カー『カー短編集1/不可能犯罪捜査課』

(収録短編の幾つかの結末を明かしていますので、ご注意ください。) ジョン・ディクスン・カーの初の短編集は、1940年にカーター・ディクスン名義で刊行された。処女作刊行から十年目というのは、早いのか遅いのか。もっとも、カーは最初の五年間ほどは、ほ…

エラリイ・クイーン『エラリイ・クイーンの冒険』

(短編によっては、犯人等を明らかにしていますので、ご注意ください。) 先頃(といっても、2018年)新訳が出た『エラリイ・クイーンの冒険』(1934年)[i]は、作者の最初の、そして代表的な短編集との定評がある。 『クイーンの定員』(1951年)にも選出さ…

クリスチアナ・ブランド『疑惑の霧』

(本書の犯人およびアイディアを明示していますので、ご注意ください。) クリスチアナ・ブランドの代表作といえば、昔は『はなれわざ』(1955年)、近年は『ジェゼベルの死』(1948年)だが、『疑惑の霧』(1952年)[i]も一貫して代表作のひとつに挙げられ…

クリスチアナ・ブランド『ザ・ハニー・ハーロット』

(なるべく種明かしはしないようにしますが、保証はできません。) クリスチアナ・ブランドの『ザ・ハニー・ハーロット』[i]を読んだ。 随分昔に買ったが[ii]、そのまま放りっぱなしだったのは、(これでも)仕事があったし、のんびり原書を読んでいるゆとり…

クリスチアナ・ブランド『はなれわざ』

(本書の犯人、トリック等を明かしていますので、ご注意願います。) クリスチアナ・ブランドの代表作は、『はなれわざ』[i]というのが通り相場だった。 都筑道夫が日本語版『エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン』のコラム「ぺいぱあ・ないふ」(1956…

クリスチアナ・ブランド『ジェゼベルの死』

(本書のトリックに間接的に触れていますので、ご注意ください。) 『ジェゼベルの死』(1948年)[i]は、クリスチアナ・ブランドの第五長編であるとともに、我が国では最高傑作との定評がある。 最初に注目を浴びたブランド作品はといえば、『はなれわざ』だ…

クリスチアナ・ブランド『ハイヒールの死』

(本書の内容に立ち入っています。ただし、犯人は明かしていません。) クリスチアナ・ブランドは、日本ではカリスマ的な人気を誇っているようだ(欧米のことはよく知らない)。 もっとも、アントニー・バウチャーが言った「ブランドに匹敵する作家を探すと…

横溝正史『不死蝶』

(本書のトリック等について言及しています。) 『不死蝶』[i]は、横溝正史の長編小説のなかでも、いろいろな意味で興味深い作品といえる。1953年に雑誌『平凡』に半年間連載され、1958年に長編化のうえ刊行されたが、『平凡』での連載というのがまず珍しい…