E・クイーン

ハードな女王様-『クイーン警視自身の事件』

(本書と『九尾の猫』とを比較していますので、どちらかを未読の方、どちらも読んでいない方は、ご注意ください。) 1950年代に入って、いよいよエラリイ・クイーンは、エラリイ・クイーンを持て余し始めたようだ(なんだか面白そうな文章なので、つい書いて…

『ガラスの村』もしくはE・Qの不在

(犯人は伏せていますが、推理部分について詳しく紹介していますので、未読の方はご注意ください。) エラリイ・クイーンの全著作中、最大の驚きは『ガラスの村』(1954年)[i]だろう。処女作から25年。四半世紀を迎えたところで、ついにクイーンはクイーン…

エラリイ・クイーン『間違いの悲劇』

(収録作品、とくに「間違いの悲劇」のプロットを細かく説明しているので、ご注意願います。) 本書は、1999年に刊行されたThe Tragedy of Errors and Others[i]に基づいて日本独自に編集されたエラリイ・クイーン作品集である。原書の巻頭を飾るのはタイト…

エラリイ・クイーン『クイーン犯罪実験室』

(本書収録作品の犯人等の内容に詳しく触れている場合がありますので、ご注意ください。) 大変なことに気づいてしまった。『クイーン犯罪実験室』(1968年)[i]の書誌情報を確認すると、1959年から1966年にかけて書かれた中短編およびショート・ショートが1…

エラリイ・クイーン『クイーンのフルハウス』

(収録作品の犯人、トリック等のほかに、クリスチアナ・ブランドの代表作について注で触れていますので、未読の方はご注意ください。) エラリイ・クイーンの第五短編集『クイーンのフルハウス(Queens Full)』(1965年)[i]は、またまた「らしい」短編集とな…

エラリイ・クイーン『クイーン検察局』

1950年代のエラリイ・クイーンを読むなら、まず『犯罪カレンダー』(1952年)と『クイーン検察局』(1955年)をお勧めしたい。 以下、収録された各作品の犯人や推理のポイントを明らかにしていますので、ご注意ください。 エラリイ・クイーンの創作方法は、…

エラリイ・クイーン『犯罪カレンダー』

(収録短編の大半について内容や真相を明かしていますので、ご注意ください。) 1952年に出版された『犯罪カレンダー』[i]は、過去二冊の短編集『エラリイ・クイーンの冒険』(1934年)、『エラリイ・クイーンの新冒険』(1940年)にはない新しい趣向が盛り込…

エラリイ・クイーン『エラリイ・クイーンの新冒険』

(収録作品の犯人等を明かしています。またモーリス・ルブランの長編小説に注で触れていますので、ご注意願います。) 『エラリイ・クイーンの新冒険』[i]はクイーンの第二短編集だが、一番目立っているのが中編の「神の灯」である。同作は、江戸川乱歩が惚…

エラリイ・クイーン『エラリイ・クイーンの冒険』

(短編によっては、犯人等を明らかにしていますので、ご注意ください。) 先頃(といっても、2018年)新訳が出た『エラリイ・クイーンの冒険』(1934年)[i]は、作者の最初の、そして代表的な短編集との定評がある。 『クイーンの定員』(1951年)にも選出さ…

エラリイ・クイーン『盤面の敵』

(本書のほか、スティーヴンソン、ヘレン・ユースティス、ヘレン・マクロイ、ロバート・ブロックの長編小説のアイディアに触れています。) 1963年、『最後の一撃』(1958年)以来のエラリイ・クイーンの五年ぶりの長編ミステリが出版された。しかし、それは…

エラリイ・クイーン『最後の一撃』

(本書の手がかり、トリック等のほか、『アメリカ銃の謎』のトリック等を明かしています。) 1958年出版の本書[i]は、エラリイ・クイーンの30冊目の長編ミステリである。1929年の処女出版から丁度30年目で30冊。多作とはいえないが、順調な作家生活ではあっ…

エラリイ・クイーンのハリウッド三部作:『悪魔の報酬(悪魔の報復)』、『ハートの4』、『ドラゴンの歯』

(『悪魔の報酬(悪魔の報復)』、『ハートの4』、『ドラゴンの歯』のトリック等を明かしていますので、ご注意ください。) 『悪魔の報酬』 1930年代末に書かれたエラリイ・クイーンの三冊の長編ミステリは、ハリウッドものとして知られている。そして、ク…

XYの悲劇-『緋文字』

(本書の犯人・アイディア等のほかに、『Xの悲劇』、『シャム双子の謎』のダイイング・メッセージに言及しています。) (表題を変更しました。2024年6月15日) 1950年代になって、エラリイ・クイーンのミステリは、また新たな段階へと入ったようだ。40年代…

『帝王死す』、女王は大丈夫か

(本書の犯人、トリックを明らかにしているうえに、「クリスマスと人形」、「七月の雪つぶて」の真相、他にアガサ・クリスティと横溝正史の作品のアイディアに言及しています。) (表題を変更しました。) 飛び切りの異色作、というのが『帝王死す』(1952…

エラリイ・クイーン「国名シリーズの犯人達」

(言うまでもないですが、国名シリーズ(およびドルリー・レーン・シリーズ)の犯人を明らかにしています。他に、G・K・チェスタトン、E・A・ポーの小説の内容に触れています。) エラリイ・クイーンの「国名シリーズ」は、1929年から1935年にかけて9作が書…

エラリイ・クイーン『靴に棲む老婆』

(本書の推理やトリック、犯人のほかに、注で『Yの悲劇』のアイディアに言及しています。) ライツヴィル・シリーズが書かれた1940年代のエラリイ・クイーンの諸作品のなかで、『靴に棲む老婆』(1943年)は、ひときわ異彩を放っている。 1942年の『災厄の町…

E・クイーン『十日間の不思議』から『ダブル・ダブル』へ

(『十日間の不思議』のトリックと『ダブル・ダブル』の犯人を明かしていますが、『十日間の不思議』の犯人と『ダブル・ダブル』のトリックには触れていません。) (追記。すいません。『十日間の不思議』の犯人にも触れていました。) 『ダブル・ダブル』…

エラリイ・クイーン『ニッポン樫鳥の謎(日本庭園の秘密)』

(犯人を明かしていませんが、トリック等に触れているので、未読の方はご注意ください。また、アーサー・モリスンの短編小説のトリックについても触れています。) 『ニッポン樫鳥の謎(日本庭園の秘密)』[i](1937年)は、日本の読者にとって、ひときわ思い…

エラリイ・クイーン『中途の家』

(犯人を明言してはいませんが、本書の推理やら伏線やら、しゃべり散らかしています。またディクスン・カーの1937年の長編小説のトリックに触れています。) 『中途の家』?エラリイ・クイーンになにが起こったのか。 ローマ、フランス、オランダ、・・・と…

エラリイ・クイーン『スペイン岬の謎』

(本書および他の「国名シリーズ」作品の内容に触れています。) 『スペイン岬の謎』(1935年)をもって、「国名シリーズ」は幕を閉じる。しかし、「読者への挑戦」は次の『中途の家』(1936年)でも踏襲され、それなら、もう一冊、国名を冠した長編を書いて…

エラリイ・クイーン『チャイナ橙の謎』

(本書のトリックやアイディアに触れているほか、『帝王死す』の犯人、G・K・チェスタトンの短編小説のトリックについて、言及しています。) 『チャイナ橙の謎』(1934年)は、作者(といってもフレデリック・ダネイのほうだが)が自作ベストに挙げた作品と…

E・クイーン『九尾の猫』

(本書の内容に触れているほか、横溝正史『悪魔の手毬唄』に言及しています。) 『九尾の猫』(1949年)は、『災厄の町』と並ぶエラリイ・クイーンの最高傑作である。・・・と、いうのが、アメリカでの評価らしい。フランシス・ネヴィンズ・ジュニアの『エラ…

神は死して、神は去る-『十日間の不思議』

『十日間の不思議』は、日本では「不思議な」運命を辿ってきた作品である。かつて、小林信彦が本書について、書評のなかで取り上げていた。少し長いが、引用しよう。 「ポケ・ミスにして三百頁以上の厚さで、登場人物は四、五人しか出ないので、さ ぞかし面…

狐を嗅ぎ出せ-『フォックス家の殺人』

『フォックス家の殺人』(1945年)は、『災厄の町』とともに、第二次大戦後のエラリイ・クイーンを代表する長編と見られてきた・・・日本では。 戦後間もない随筆で、江戸川乱歩は、これら二編を取り上げて、クイーンの作風の変化の大きさに触れながら、『フ…

エラリイ・クイーン『シャム双子の謎』

(本書の犯人の設定や手がかりに触れています。他に、アガサ・クリスティ、ヴァン・ダイン、クリスティアナ・ブランドの長編小説に言及しています。) エラリイ・クイーンの第七作『シャム双子の謎』(1933年)は、それまでの諸作に比して、随分風変りな作品…

エラリイ・クイーン『レーン最後の事件』

(犯人を明かしてはいませんが、未読の人でこんな文章を読む人はいないでしょう。) ドルリー・レーン四部作の掉尾を飾る本書だが、まったく予備知識なく読む読者はどのくらいいるのだろう。 名探偵のシリーズは、大抵の場合、作者が絶筆するか、死去して打…

エラリイ・クイーン『アメリカ銃の謎』

(本書および『エジプト十字架の謎』、ディクスン・カーの「死んでいた男」、「二つの死」の内容に触れています。) 『アメリカ銃の謎』はエラリイ・クイーン最大の問題作である。 こう言うと、いや『盤面の敵』か『第八の日』だろう、といった声が聞こえて…

エラリイ・クイーン『Zの悲劇』

(内容に触れています。) 『Zの悲劇』(1933年)は、ドルリー・レーン四部作のなかでも、ある意味、一番論議を呼んできた作品である。 『Xの悲劇』、『Yの悲劇』は、「〇幕〇場」の演劇仕立ての章構成、シェイクスピア俳優だった主人公にちなんだ舞台劇っぽ…

エラリイ・クイーン『エジプト十字架の謎』(その2)

(本書および『アメリカ銃の謎』、『Xの悲劇』の内容に触れています。) 『エジプト十字架の謎』(1932年)の最大の売り物は、ヨードチンキ瓶の推理だが、中盤にもすごい推理が出てくる。すごい、というか、ややこしい、というべきか。 第二の被害者トマス・…

『災厄の町』の犯人は誰?

『災厄の町』(1942年)は、エラリイ・クイーンの代表作のひとつとして知られる。日本でも、江戸川乱歩[i]らによって、第二次大戦後に紹介された作品のうちの傑作として喧伝されてきたが、決定的となったのは、フランシス・ネヴィンズ・ジュニアによる評伝[ii]…