横溝正史

横溝正史『迷路の花嫁』

(本書の真相のほか、アガサ・クリスティの長編小説の内容に注で触れていますので、ご注意ください。) 『迷路の花嫁』(1954年)を最初に読んだときは、『獄門島』や『八つ墓村』はもちろん、同時期の『幽霊男』(1954年)や『吸血蛾』(1955年)と比べても…

横溝正史『三つ首塔』

(本書の犯人等のほか、『八つ墓村』、『犬神家の一族』、『女王蜂』、「妖説血屋敷」、「七つの仮面」等の内容に触れています。) 私はとうとう三つ首塔をはるかにのぞむ、たそがれ峠までたどりついた[i]。 本書の書き出しだが、角川文庫版では236頁にも、…

横溝正史『悪魔の寵児』

(本書の内容のほか、戸川昌子『猟人日記』の内容に触れていますので、ご注意ください。) 都筑道夫の『二十世紀のツヅキです 1986-1993』というエッセイ集を読んでいたら、昔、『妖奇』という雑誌に、男と性行為を行った女が、別の女を殺して、その膣内に男…

横溝正史『迷路荘の惨劇』

(本書の犯人、トリック等のほか、坂口安吾『不連続殺人事件』、アガサ・クリスティ『ナイルに死す』のトリックに触れていますので、ご注意願います。追記:不正確な部分がありましたので、修正しました。2024年1月21日。) 『迷路荘の惨劇』(1975年)[i]は…

横溝正史『夜の黒豹』

(本書および原型短編の犯人、トリック等を明かしています。) 『夜の黒豹』は、1963年3月号の『推理ストーリー』誌に掲載された「青蜥蜴」[i]を改稿して1964年8月に東京文藝社より刊行された[ii]。いわゆる横溝正史の長編化書下ろし作品の事実上の最終作で…

横溝正史『悪魔の百唇譜』

(本書および短編の「百唇譜」の犯人その他について、またジョン・ディクスン・カーおよび高木彬光の長編小説のトリックについて注で触れていますので、ご注意ください。) 「百唇譜」などという、いかにもエロティックでいかがわしくて、読まずにいられない…

横溝正史『壺中美人』

(本書の犯人等に言及していますので、ご注意ください。) 1960年は、横溝正史の書下ろし長編ミステリが三編も発表されている。いずれも東京文藝社から刊行されていた「続刊金田一耕助推理全集」に収録されたもので、第1巻が『スペードの女王』(6月)、第2…

横溝正史『幽霊男』

(本書および『毒の矢』の犯人、トリック等のほか、ジョン・ディクスン・カー、アガサ・クリスティの著作の内容を明らかにしています。) いわゆる横溝正史のエロ・グロB級ミステリの皮切りとなったのが本書、『幽霊男』である。『悪魔が来りて笛を吹く』(1…

横溝正史『夜歩く』

(本書のほか、『真珠郎』、「神楽太夫」の犯人およびトリック、アガサ・クリスティの『アクロイド殺し(アクロイド殺害事件)』他の諸作、ジョン・ディクスン・カーの『貴婦人として死す』、坂口安吾の『不連続殺人事件』、高木彬光の『刺青殺人事件』、江…

横溝正史『支那扇の女』

(本作品の短編版、長編版双方の犯人を明かしています。短編「ペルシャ猫を抱く女」、「肖像画」についても同様ですので、ご注意ください。) 『支那扇の女』[i]は、横溝正史の長編のなかでも、もっとも改稿を繰り返した作品のひとつとして知られている。原…

横溝正史『魔女の暦』

(本書のトリックのほか、『幽霊男』、人形佐七シリーズ短編、アガサ・クリスティの長編小説の内容に触れていますので、ご注意ください。) 『魔女の暦』は、1958年に東京文芸社から刊行された『金田一耕助推理全集3』に「鏡が浦の殺人」とともに収録された…

横溝正史『スペードの女王』

(『スペードの女王』および原型の「ハートのクイン」のほか、『真珠郎』、『夜光虫』、「神楽太夫」、『夜歩く』、「黒猫亭事件」、『悪魔の手毬唄』、『白と黒』の横溝作品。エラリイ・クイーンの『エジプト十字架の謎』、クレイトン・ロースンの『首のな…

横溝正史『悪魔の降誕祭』

(本書の犯人等のほか、『白と黒』、『仮面舞踏会』、『病院坂の首縊りの家』、『悪霊島』の犯人にも触れています。またジョン・ディクスン・カーの『囁く影』を比較対象にしていますので、未読の方はご注意ください。) 『悪魔の降誕祭』[i]は、1958年1月に…

横溝正史『不死蝶』

(本書のトリック等について言及しています。) 『不死蝶』[i]は、横溝正史の長編小説のなかでも、いろいろな意味で興味深い作品といえる。1953年に雑誌『平凡』に半年間連載され、1958年に長編化のうえ刊行されたが、『平凡』での連載というのがまず珍しい…

横溝正史『死神の矢』

(本書の犯人、トリック等のほか、『獄門島』、『犬神家の一族』、『白と黒』、『仮面舞踏会』、『悪霊島』の基本アイディアに触れていますので、ご注意ください。) 劇的で意表を突く場面から始まるのは娯楽小説なら普通のことで、作家が一番頭をひねるとこ…

横溝正史『悪霊島』

(本書の真相等を明かしています。あと『犬神家の一族』、『仮面舞踏会』についても、トリック等に触れていますので、ご注意ください。) 『悪霊島』は、言うまでもなく、横溝正史の遺作となった長編小説である。1979年から翌年にかけて連載され、1980年7月…

横溝正史『毒の矢』

(本書の内容やトリックのほか、『神の矢』、「黒い翼」、『白と黒』などの長編短編小説、および、アガサ・クリスティの長編短編小説、ある古典的な密室ミステリのトリックに触れています。) 『毒の矢』(1956年)は、昭和30年代に横溝正史が力を入れた仕事…

横溝正史『悪魔の手毬唄』

(本書のほか、『獄門島』、アガサ・クリスティおよび高木彬光の長編小説のアイディアを明かしています。) 『悪魔の手毬唄』は、横溝正史が自作のベストと考えていた長編小説だったようだ。 昭和37年の雑誌記事で「これが一番僕の作品では文章の嫌味もなく…

横溝正史『本陣殺人事件』

(本作品の犯人、トリックから動機まで、あらいざらいぶちまけています。) 『本陣殺人事件』については、すでに語り尽くされていて、もはや新たな論点は残されていないように思える。 しかし、その評価は、我が国のミステリ史に新たな時代を切り開いた長編…

横溝正史『扉の影の女』

(本編のほか、カーター・ディクスン『五つの箱の死』の犯人について言及しています。) 横溝正史の作品中、飛びきりの異色作といえば、まず本編が挙げられる。 その割には、従来、その異色ぶりというか、とんでもなさは、あまり論じられてこなかった。 どこ…

横溝正史「車井戸はなぜ軋る」

(本作の真相、トリックのほか、高木彬光、中井英夫の作品の内容に言及しています。) 「車井戸はなぜ軋る」(1949年)[i]は、戦後、横溝正史が書いた中短編小説でベスト・ファイヴに入る傑作である、・・・などと仰々しく述べるまでもなく、恐らく、衆目の…

横溝正史『悪魔が来りて笛を吹く』

(本書のほか、J・D・カーの長編小説のトリックに言及しています。) 『悪魔が来りて笛を吹く』は、横溝正史が代表作と自負する長編である。1976年頃のエッセイで、自作のベストを選定するにあたって、田中潤司の選んだ5作(『獄門島』『本陣殺人事件』『犬…

横溝正史『蝶々殺人事件』

(本書の犯人、トリック等に触れています。またG・K・チェスタトンの短編小説に言及しています。) 『蝶々殺人事件』(1946-47年)は日本ミステリ史の里程標の一つに数えられるとともに、現在でもその質の高さから、パズル・ミステリの傑作に位置づけられて…

横溝正史「神楽太夫」

(本作のトリックに言及しています。) 「神楽太夫」は、横溝正史の戦後第一作として知られる。『週刊河北』からの依頼で、最初「探偵小説」を書き始めたが、枚数が超過したため、代わりに本作を書いて送った、という[i]。以上の逸話は、何度も繰り返し紹介…

横溝正史『獄門島』

(本書のほかに、アガサ・クリスティの長編小説の犯人やトリックに言及しています。) 『獄門島』(1947-48年)は、日本ミステリ史上、圧倒的な傑作として君臨し続けている。 知名度なら『犬神家の一族』(1950-51年)か『八つ墓村』(1949-51年)だろうが、…

横溝正史「百日紅の下にて」

(本作のアイディア等に触れています。) 「百日紅の下にて」(1951年)は、横溝正史の敗戦後に書かれた傑作短編ミステリである。戦後中短編に限れば、ベスト・ファイヴに入るだろう。他の四作品は、「探偵小説」、「黒猫亭事件」・・・、残りは、適当に選ん…

横溝正史「探偵小説」

(本作のアイディアおよびトリックのほかに、コナン・ドイル、江戸川乱歩の短編小説に注で言及しています。) 「探偵小説」は、横溝正史の敗戦後最初の小説である。『週刊河北』の注文に応じて書き始めたが、長くなったので、「神楽太夫」を代わりに書いて、…

横溝正史『白蠟変化』と『吸血蛾』

(『白蠟変化』、『吸血蛾』のほか、『犬神家の一族』、『白と黒』、『仮面舞踏会』、『悪霊島』の内容に触れています。) 『白蠟変化』(1936年)[i]と『吸血蛾』(1955年)[ii]は、横溝正史のいわゆるB級作品に位置づけられる。あるいは通俗長編といえばよ…

横溝正史『女が見ていた』

(本書の内容に触れています。) 『女が見ていた』(1949年)は、数多い横溝作品のなかでも、異色作という意味では筆頭に挙げられるだろう。 金田一耕助や由利麟太郎のような名探偵もののシリーズではなく、しかも新聞小説である。本作について、解説を書い…

横溝正史『八つ墓村』

(『八つ墓村』、『夜歩く』のほか、A・クリスティの『ABC殺人事件』の内容に言及しています。) 『八つ墓村』(1949-51年)は、横溝正史の代表作であると同時に、『犬神家の一族』と並んで、日本で最も名の知られたミステリ長編の一つだろう。 ストーリーの…