2024-01-01から1年間の記事一覧

江戸川乱歩「恐怖王」

(本書の犯人、トリック等を明かしていますので、未読の方はご注意ください。) 江戸川乱歩の長編小説のタイトルは、作品数が増えるとともに、いよいよ大げさに、ますます投げやりになっていった。「恐怖王」というのも、すごい題名である。「キング・オヴ・…

江戸川乱歩「湖畔亭事件」

(本書の真相のほか、「二銭銅貨」、「一枚の切符」、「恐るべき錯誤」、「赤い部屋」、「盗難」、「人間椅子」、「接吻」、「陰獣」などの結末に言及していますので、ご注意願います。) 「湖畔亭事件」は、週刊誌『サンデー毎日』に1926年1月から3月にかけ…

『オランダ靴の謎』リヴィジテッド

(本書の推理の部分を細かく説明していますので、未読の方は、くれぐれもお気を付けください。) エラリイ・クイーンの、パズル・ミステリとしての代表作といえば、1932年に書かれた『Xの悲劇』、『Yの悲劇』、『ギリシア棺の謎』、『エジプト十字架の謎』の…

『フランス白粉の謎』リヴィジテッド

(本書の犯人のほか、推理の部分について、詳しく紹介していますので、未読の方は、くれぐれも、ご注意ください。) 1930年というと、1920年代から始まったパズル・ミステリの黄金時代の折り返しにあたる。アガサ・クリスティやF・W・クロフツらの先行イギリ…

『ローマ帽子の謎』リヴィジテッド

(本書の推理部分について、詳細に述べていますので、未読の方は、ご注意ください。) 『ローマ帽子の謎』が出版された1929年は、パズル・ミステリの歴史において重要な年のひとつとなった。1926年にS・S・ヴァン・ダインの『ベンスン殺人事件』が刊行され、…

ビー・ジーズ2005

2005年のビー・ジーズといっても、グループは事実上消滅している。成り行き上、「ビー・ジーズ」のタイトルで通すことにするが、バリー・ギブのプロデュースによるバーブラ・ストライサンドのアルバム『ギルティ・プレジャーズ』が、ほぼ唯一の成果である。…

ビー・ジーズ2003

2003年1月にモーリス・ギブが亡くなり、ビー・ジーズは消滅した。 彼の死後、バリーとロビンは、ビー・ジーズが今後も続くことを宣言し、その後も、幾度となくグループとしての活動再開が期待されたが、結局、2012年5月にロビンも死去し、バリー一人が残され…

ハードな女王様-『クイーン警視自身の事件』

(本書と『九尾の猫』とを比較していますので、どちらかを未読の方、どちらも読んでいない方は、ご注意ください。) 1950年代に入って、いよいよエラリイ・クイーンは、エラリイ・クイーンを持て余し始めたようだ(なんだか面白そうな文章なので、つい書いて…

『ガラスの村』もしくはE・Qの不在

(犯人は伏せていますが、推理部分について詳しく紹介していますので、未読の方はご注意ください。) エラリイ・クイーンの全著作中、最大の驚きは『ガラスの村』(1954年)[i]だろう。処女作から25年。四半世紀を迎えたところで、ついにクイーンはクイーン…

クリスチアナ・ブランド『ゆがんだ光輪』

(本書の内容を、かなり、ばらしていますので、ご注意ください。ただし、犯人は明かしていません。いないから。) 数十年ぶりに『ゆがんだ光輪』[i]を読み返した。もちろん初版本ではない(でも、『切られた首』と『疑惑の霧』は初版本を持っている。エッヘ…

クリスチアナ・ブランド『猫とねずみ』

(本書の真相のほか、アガサ・クリスティとジョン・ディクスン・カーの長編ミステリのアイディアについて、注で作品名を挙げているので、ご注意ください。) クリスチアナ・ブランドの第六長編『猫とねずみ』(1950年)[i]は、名探偵の登場しない「ロマンテ…

クリスチアナ・ブランド『自宅にて急逝』

(最後のほうで、かなり犯人、トリックについて突っ込んで言及しているので、未読の方はご注意ください。) 『自宅にて急逝』[i]は、クリスチアナ・ブランドの長編ミステリ第四作だが、いよいよ、この作者の本領が発揮され始めたようだ。 訳者あとがきに「こ…

クリスチアナ・ブランド『緑は危険』

(本書の犯人、トリックを明かしていますので、未読の方はご注意ください。) クリスチアナ・ブランドの代表作といえば、日本では『はなれわざ』(1955年)か、近年では『ジェゼベルの死』(1948年)が、直ちに思い浮かぶ。だが、海外では事情が異なり、『緑…

クリスチアナ・ブランド『切られた首』

(犯人は明示していませんが、ほぼほぼ、わかってしまいそうなので、未読の方はご注意ください。) 『切られた首』[i]は、クリスチアナ・ブランドの第二長編で、1941年に出版されている。アメリカでは翌年の刊行だが、第一作の『ハイヒールの死』の公刊が195…

横溝正史『犬神家の一族』

(本書の犯人やプロットについて明示しています。) 『犬神家の一族』(1950-51年)は、2012年の『週刊文春』による「東西ミステリーベスト100」によると「日本編」で39位となっている。意外に低いようだが、1985年版では100位圏外だったので(これも意外…

横溝正史『死仮面』

(本書の種を割っていますので、ご注意ください。) 『死仮面』は、横溝正史の戦後作品のなかで、長い間「幻の長編」だった。 中島河太郎が1975年に作成した作品目録には、昭和24年(1949年)8月から11月まで『物語』という雑誌に連載されたことが記されてい…

横溝正史『迷路の花嫁』

(本書の真相のほか、アガサ・クリスティの長編小説の内容に注で触れていますので、ご注意ください。) 『迷路の花嫁』(1954年)を最初に読んだときは、『獄門島』や『八つ墓村』はもちろん、同時期の『幽霊男』(1954年)や『吸血蛾』(1955年)と比べても…

横溝正史『三つ首塔』

(本書の犯人等のほか、『八つ墓村』、『犬神家の一族』、『女王蜂』、「妖説血屋敷」、「七つの仮面」等の内容に触れています。) 私はとうとう三つ首塔をはるかにのぞむ、たそがれ峠までたどりついた[i]。 本書の書き出しだが、角川文庫版では236頁にも、…

横溝正史『悪魔の寵児』

(本書の内容のほか、戸川昌子『猟人日記』の内容に触れていますので、ご注意ください。) 都筑道夫の『二十世紀のツヅキです 1986-1993』というエッセイ集を読んでいたら、昔、『妖奇』という雑誌に、男と性行為を行った女が、別の女を殺して、その膣内に男…

江戸川乱歩『妖虫』

(本書のほか、『蜘蛛男』の犯人について触れています。また、横溝正史の某短編小説についても同様ですので、ご注意ください。) 昭和8年12月から翌年11月まで『キング』誌上で連載された『妖虫』(1933-34年)は、第二回目の(に、二回目!?)休筆期間を経…

江戸川乱歩『猟奇の果』

(本作の内容について詳しく触れていますので、未読の方は、ご注意ください。) 『猟奇の果』といえば、大内茂男が江戸川乱歩長編小説論「華麗なユートピア」において、「乱歩の長編諸作中でも、最大の珍作である」[i]と評したように、短編小説に比べ評価の…

江戸川乱歩「パノラマ島奇談」

(本作品のほか、江戸川乱歩の短編小説数編について、内容に立ち入っています。) 江戸川乱歩の連載小説といえば、「陰獣」と「パノラマ島奇談」が双璧ということになるだろう。 いずれも文庫本で100頁を少し越えるくらいの長さで、現代の標準でいえば、どち…

江戸川乱歩「陰獣」

(「陰獣」の犯人等のほかに、エラリイ・クイーンの『十日間の不思議』のプロットを紹介していますので、未読の方はご注意ください。) 「陰獣」[i]は、言うまでもなく江戸川乱歩全作品中、もっともセンセーションを巻き起こした探偵小説である。 『探偵小説…

江戸川乱歩『黄金仮面』

(本書の内容等を、詳しく紹介しています。) 『黄金仮面』は、雑誌『キング』に1930年から翌年にかけて連載された、江戸川乱歩最大のヒット作のひとつである。大内茂男によっても「大衆小説界に乱歩の人気を不動のものたらしめた快作」[i]と評価されている…

エラリイ・クイーン『間違いの悲劇』

(収録作品、とくに「間違いの悲劇」のプロットを細かく説明しているので、ご注意願います。) 本書は、1999年に刊行されたThe Tragedy of Errors and Others[i]に基づいて日本独自に編集されたエラリイ・クイーン作品集である。原書の巻頭を飾るのはタイト…

エラリイ・クイーン『クイーン犯罪実験室』

(本書収録作品の犯人等の内容に詳しく触れている場合がありますので、ご注意ください。) 大変なことに気づいてしまった。『クイーン犯罪実験室』(1968年)[i]の書誌情報を確認すると、1959年から1966年にかけて書かれた中短編およびショート・ショートが1…

エラリイ・クイーン『クイーンのフルハウス』

(収録作品の犯人、トリック等のほかに、クリスチアナ・ブランドの代表作について注で触れていますので、未読の方はご注意ください。) エラリイ・クイーンの第五短編集『クイーンのフルハウス(Queens Full)』(1965年)[i]は、またまた「らしい」短編集とな…

エラリイ・クイーン『クイーン検察局』

1950年代のエラリイ・クイーンを読むなら、まず『犯罪カレンダー』(1952年)と『クイーン検察局』(1955年)をお勧めしたい。 以下、収録された各作品の犯人や推理のポイントを明らかにしていますので、ご注意ください。 エラリイ・クイーンの創作方法は、…

横溝正史『迷路荘の惨劇』

(本書の犯人、トリック等のほか、坂口安吾『不連続殺人事件』、アガサ・クリスティ『ナイルに死す』のトリックに触れていますので、ご注意願います。追記:不正確な部分がありましたので、修正しました。2024年1月21日。) 『迷路荘の惨劇』(1975年)[i]は…

江戸川乱歩『吸血鬼』

(本書の犯人等の内容を明かしていますので、ご注意ください。) 江戸川乱歩の『吸血鬼』(1930-31年)には、吸血鬼は出てこない。九割方読み終わった(言うまでもないが、再読)あたりで、ふと思ったのが、何でこの小説は「吸血鬼」という題名だったのだろ…