J・D・カー

J・D・カー『九つの答』

(犯人その他を明かしています。) 『九つの答』[i](1952年)は、ディクスン・カーの最大長編のひとつである。原書がないので、翻訳で比較するだけだが、『アラビアン・ナイトの殺人』(1936年)より長いし、前年の大長編『ビロードの悪魔』[ii](1951年)…

J・D・カー『ビロードの悪魔』

(本書のほかに、アガサ・クリスティの『アクロイド殺害事件』、ヘレン・マクロイの『殺す者と殺される者』、エラリイ・クイーンの『盤面の敵』の真相に触れています。) 1950年から始まったディクスン・カーの歴史ミステリのシリーズは、新世代のカー評価の…

J・D・カー『ニューゲイトの花嫁』

(犯人その他に触れています。) 1950年、いよいよディクスン・カーの歴史ミステリが始まる。1934年にはRoger Fairbairn名義の歴史ロマンスDevil Kinsmere があり、1936年にはノン・フィクション『エドマンド・ゴッドフリー卿殺人事件』の出版があったが、謎…

J・D・カー『疑惑の影』

(本書の内容のほか、フランシス・アイルズの『殺意』の結末に触れています。) 『疑惑の影』(1949年)は初読の時、かなり感心した記憶がある。ところが、再読したら、そうでもなかった。 犯人やトリックを知っているから、というわけでもなく、無実のヒロ…

J・D・カー『囁く影』

(本書の犯人、トリック等のほか、モーリス・ルブランの短編、横溝正史の『夜歩く』、「悪魔の降誕祭」のトリックに触れています。) 『囁く影』(1946年)[i]は、ジョン・ディクスン・カーの戦後第一作ということになる。冒頭には、第二次大戦直後のロンド…

カーター・ディクスン『墓場貸します』

(本書のほか、『青銅ランプの呪』、ガストン・ルルーの『黄色い部屋の謎』、マージェリー・アリンガムの長編小説のトリックに言及しています。) 題名からして、どこかユーモラスだが、内容も、のっけからヘンリ・メリヴェル卿が演じるニュー・ヨーク地下鉄…

カーター・ディクスン『青銅ランプの呪』

(本書のほか、ガストン・ルルーの『黄色い部屋の謎』、エラリイ・クイーンの「ショート氏とロング氏の冒険」、カーの『火刑法廷』、カーおよびエイドリアン・ドイルの「ハイゲイトの奇蹟事件」のトリックに触れています。) 『青銅ランプの呪』(1945年)で…

J・D・カー『連続殺人事件』

(犯人等に言及しています。) 『連続殺人事件』(1941年)は、カーの自選代表作だという。創元推理文庫版の解説で、お馴染み中島河太郎が、そう書いている[i]。本当なのか、と思っていた。面白いことは面白いが、カーの作品のなかで格別優秀とは考えられな…

J・D・カー『震えない男』

(本書の犯人その他を明かしています。) 『震えない男』(1940年)[i]は、なかなかユニークな作品である。無論、ディクスン・カーには型破りの作品が多いが、本書では、二重三重のどんでん返しを試みている。それが最大の特徴である。 どんでん返しが多いの…

カーター・ディクスン『メッキの神像(仮面荘の怪事件)』

(犯人やトリックに触れています。) 1933年から1941年までの9年間の間、1936年を除き、カーは毎年3作品以上の長編ミステリを発表し続けてきた。パズル・ミステリ作家としては驚くべきペースといってよい。しかし、1942年は、1932年以来十年ぶりに、長編2冊…

ジョン・ロード/カーター・ディクスン『エレヴェーター殺人事件』

(角田喜久雄の長編、ジョン・ディクスン・カーの『読者よ、欺かるるなかれ』、『震えない男』のトリックに触れています。) 『エレヴェーター殺人事件』(1939年)[i]は、ディクスン・カーにとって唯一の共作長編ミステリである[ii]。 ディクスン・カーとい…

J・D・カー『四つの凶器』

(本書のトリック等に触れています。) 『四つの凶器』(1937年)は、五年ぶりにアンリ・バンコランを登場させた長編ミステリである。ハヤカワ・ポケット・ミステリ版で何回か復刊されてきたが、2019年に、こちらは61年ぶり(!)の新訳が創元推理文庫に収録…

カーター・ディクスン『孔雀の羽根』

(本書のトリックに触れています。) ヘンリ・メリヴェル卿のシリーズとしては、やや異色作だった『パンチとジュディ』に続いて、カーがカーター・ディクスン名義で発表した『孔雀の羽根』(1937年)は、まさに王道の不可能犯罪ミステリだった。 何十年ぶり…

カーター・ディクスン『パンチとジュディ』

(本書の内容に触れています。) 1935年の『一角獣の殺人』がカーター・ディクスン名義の最後の作品となるはずだった、という。ヘンリ・メリヴェル卿のファンなら腰を抜かしそうな話だが、カー名義の出版社からペンネームに関するクレームが来たのが、理由だ…

カーター・ディクスン『一角獣の殺人』

(犯人その他に触れています。) 『一角獣の殺人』(1935年)は、ヘンリ・メリヴェル卿シリーズの第四作で、『黒』、『白』、『赤』の三部作に続く異色の長編ミステリである。 現在では、創元推理文庫から新訳[i]が刊行されて、簡単に読めるようになったが、…

カーター・ディクスン『赤後家の殺人』

(犯人やトリックを明かしてはいませんが、内容に触れています。) 『赤後家の殺人』(1935年)は、ヘンリ・メリヴェル卿シリーズの第三作で、『黒』、『白』に続くMurders in Colours(ただの造語です)三部作の最後の長編である。 現在では、創元推理文庫…

J・D・カー『盲目の理髪師』

(本書の内容に触れています。) 『盲目の理髪師』(1934年)は『剣の八』同様、1934年に刊行されたカー名義の第九長編である。 創元推理文庫で版を重ね[i]、長らく手軽に読めるカー作品として親しまれてきたが、最近新訳版も出版された[ii]。 全作品中、い…

J・D・カー『剣の八』

(本書の真相に触れています。) 『剣の八』(1934年)は『帽子収集狂事件』に次ぐ、カー名義の第八長編(だから「八」なのか?)である。 例によって、本作も日本では長い間絶版が続き、幻の長編と化していた。ところが、1993年にハヤカワ・ポケット・ミス…

J・D・カー『死者はよみがえる』

(本書のほか、G・K・チェスタトン「奇妙な足音」、A・クリスティ『大空の死』の内容に触れています。さらに、注で、同じくチェスタトンおよびA・E・W・メイスンの作品に言及しています。) 『死者はよみがえる』または『死人を起す』(1938年)[i]は、評価…

J・D・カー『皇帝のかぎ煙草入れ』

(本書のほか、江戸川乱歩『偉大なる夢』、『化人幻戯』、「月と手袋」、横溝正史「廃園の鬼」の内容に触れています。) 『皇帝のかぎ煙草入れ』(1942年)[i]は、1940年代に書かれたディクスン・カーの代表的傑作との定評を得てきた。 またしても張本人は江…

J・D・カー『死が二人をわかつまで(毒殺魔)』

(1930年代および40年代前半におけるカーの密室ミステリ、およびヴァン・ダインの長編小説のトリックに触れています。) 『毒殺魔』[i]もしくは『死が二人をわかつまで』[ii](随分対照的な邦題だな[iii])は、三年ぶりのフェル博士シリーズ作品である。『嘲…

J・D・カー『嘲るものの座(猫と鼠の殺人)』

(本書の内容を開示している他、関連するカーの諸作およびモーリス・ルブランの短編小説の題名を注で挙げているので、ご注意ください。) 『嘲るものの座(猫と鼠の殺人)』(1941年)は、1940年代前半の典型的なカー作品である。 余分な夾雑物のないシンプ…

カーター・ディクスン『貴婦人として死す』

(本書およびアガサ・クリスティ『アクロイド殺害事件』の内容に触れています。) 『貴婦人として死す(She Died A Lady)』(1943年)は、近年、評価が急上昇したカー(ディクスン)作品だろう。もともと、ハヤカワ・ポケット・ミステリ版[i]の裏表紙の解説に…

カーター・ディクスン『殺人者と恐喝者』

(本書の内容に触れています。) 『殺人者と恐喝者(Seeing Is Believing)』[i](1941年)は、前作の『九人と死で十人だ』(1940年)などと同様、典型的な1940年代前半のカー(ディクスン)長編である。単純だが、巧妙なアイディアで一気に読ませる。長く絶版…

カーター・ディクスン『九人と死で十人だ』

(本書のトリック等に触れています。) 『九人と死で十人だ(Nine and Death Makes Ten)』(1940年)は、前作の『かくして殺人へ』(同)や次作の『殺人者と恐喝者』(1941年)と並んで、カーター・ディクスン名義の長編中でも、もっとも入手困難な作品だった…

カーター・ディクスン『かくして殺人へ』

(本書の内容に触れています。) 『かくして殺人へ』(1940年)は、ディクスン・カー(カーター・ディクスン名義だが)の長編中でも知名度は底のほうだろう。 1956年に翻訳されていたが、1999年に新樹社版[i]が出版されるまで、かけねなしの幻の長編だった。…

J・D・カー『曲がった蝶番』

(本書のトリック等に触れています。) 『曲がった蝶番』はジョン・ディクスン・カーの代表作のひとつに挙げられるが、どのような意味での代表作なのか、判断に迷うところがある。 江戸川乱歩は「カー問答」のなかで本作をカー長編の第二位の7冊のうちに入れ…

J・D・カー『火刑法廷』

(本書の内容に触れています。) 『火刑法廷』は、1970年代以降、ジョン・ディクスン・カーの長編のなかで、最も評価の上がった作品といってよいだろう。もともとカーの代表作と知られていたが、長らく絶版となっていたこともあって、幻の傑作扱いになってい…

J・D・カー『テニスコートの殺人』

『テニスコートの殺人』[i](1939年)は、『テニスコートの謎』[ii]として創元推理文庫に収録されていた長編小説の新訳版である。旧訳本は、1980年代にカーの翻訳をいくつも手掛けて、ファンを狂喜させた厚木 淳訳。新訳は、最近のカー作品の翻訳を和邇桃子…

J・D・カー『緑のカプセルの謎』

『緑のカプセルの謎』(1939年)は、ジョン・ディクスン・カーの作品中、比較的読まれてきた長編のひとつであろう。創元推理文庫で版を重ねてきて[i]、近年新訳も出た[ii]。創元社が、カーの改訳に熱を入れている恩恵を受けた格好である。 なぜ本作が版を重…