2023-01-01から1年間の記事一覧

横溝正史『死神の矢』

(本書の犯人、トリック等のほか、『獄門島』、『犬神家の一族』、『白と黒』、『仮面舞踏会』、『悪霊島』の基本アイディアに触れていますので、ご注意ください。) 劇的で意表を突く場面から始まるのは娯楽小説なら普通のことで、作家が一番頭をひねるとこ…

横溝正史『悪霊島』

(本書の真相等を明かしています。あと『犬神家の一族』、『仮面舞踏会』についても、トリック等に触れていますので、ご注意ください。) 『悪霊島』は、言うまでもなく、横溝正史の遺作となった長編小説である。1979年から翌年にかけて連載され、1980年7月…

エラリイ・クイーン『盤面の敵』

(本書のほか、スティーヴンソン、ヘレン・ユースティス、ヘレン・マクロイ、ロバート・ブロックの長編小説のアイディアに触れています。) 1963年、『最後の一撃』(1958年)以来のエラリイ・クイーンの五年ぶりの長編ミステリが出版された。しかし、それは…

エラリイ・クイーン『最後の一撃』

(本書の手がかり、トリック等のほか、『アメリカ銃の謎』のトリック等を明かしています。) 1958年出版の本書[i]は、エラリイ・クイーンの30冊目の長編ミステリである。1929年の処女出版から丁度30年目で30冊。多作とはいえないが、順調な作家生活ではあっ…

横溝正史『毒の矢』

(本書の内容やトリックのほか、『神の矢』、「黒い翼」、『白と黒』などの長編短編小説、および、アガサ・クリスティの長編短編小説、ある古典的な密室ミステリのトリックに触れています。) 『毒の矢』(1956年)は、昭和30年代に横溝正史が力を入れた仕事…

ビー・ジーズ・トリビュート・アルバム2004

Maybe Someone Is Digging Underground: The Songs of the Bee Gees (Sanctuary Records, 2004) 2004年に久しぶりにリリースされたビー・ジーズのカヴァー曲集である。タイトルはもちろん「ニュー・ヨーク炭鉱の悲劇」の一節で、「(ビー・ジーズのカヴァー…

ニコラス・ブレイク『秘められた傷』

(本書の犯人を明かしてはいませんが、内容や構成には立ち入っていますので、ご注意ください。) 『秘められた傷』[i]は、ニコラス・ブレイクの第二十作目、最後の長編小説である。 今回ブレイクを順番に読み直そうと思った動機のひとつは、本書を再読したい…

ニコラス・ブレイク『死の翌朝』

(本書のほかに、『死のとがめ』、『死のジョーカー』の真相を明かしています。他のブレイク作品の内容にも、おまけにエラリイ・クイーンの中編小説、J・D・カーとE・D・ビガーズの長編小説にも言及しているので、ご注意ください。) 2014年に刊行された本書…

ニコラス・ブレイク『悪の断面』

(本書の内容をほぼ明かしていますので、ご注意ください。) 原題のThe Sad Varietyは、例によって文学作品からの引用かと思ったが、訳者解説でも何も説明がないので、違うようだ。「嘆かわしい見解の不一致」とは、要するに東西冷戦の西側と東側のイデオロ…

エラリイ・クイーンのハリウッド三部作:『悪魔の報酬(悪魔の報復)』、『ハートの4』、『ドラゴンの歯』

(『悪魔の報酬(悪魔の報復)』、『ハートの4』、『ドラゴンの歯』のトリック等を明かしていますので、ご注意ください。) 『悪魔の報酬』 1930年代末に書かれたエラリイ・クイーンの三冊の長編ミステリは、ハリウッドものとして知られている。そして、ク…

ニコラス・ブレイク『死のジョーカー』

(犯人の名前は伏せていますが、ほぼばらしていますので、ご注意ください。) 『死のジョーカー』(1963年)[i]は、ニコラス・ブレイクの第17長編だが、前作『死のとがめ』(1961年)[ii]と同様の犯人当てミステリである。つまり、それ以前の『血ぬられた報…

ニコラス・ブレイク『死のとがめ』

(本書の結末を明らかにしています。) 『死のとがめ』[i]は『メリー・ウィドウの航海』[ii]に続く、ニコラス・ブレイクの長編ミステリだが、前作同様の犯人当て小説で、しかし、印象は対照的である。 『メリー・ウィドウの航海』は、エーゲ海クルーズ船を舞…

ムーディ・ブルース『セヴンス・ソウジャーン』

ムーディ・ブルースの通算8枚目のアルバムは、『セヴンス・ソウジャーン(Seventh Sojourn)のタイトルが示す通り、『デイズ・オヴ・フューチュア・パスト』から数えて7枚目を意味する。あくまで『フューチュア・パスト』が一枚目だと言いたいらしい。「七度目…

ムーディ・ブルース『エヴリ・グッド・ボーイ・ディザーヴズ・フェイヴァ』

『ア・クエッション・オヴ・バランス』から一年ぶりのアルバム『エヴリ・グッド・ボーイ・ディザーヴズ・フェイヴァ』(1971年7月)は、日本において、もっともよく知られたムーディ・ブルースのアルバムとなった。実際、唯一のヒット・アルバムといってよい…

「密室講義」へと向かう三人の作家:カー、ロースン、乱歩

(『三つの棺』、『帽子から飛び出した死』の密室トリックを、はっきり明かしてはいませんが、かなりばらしています。それ以上に、『黄色い部屋の謎』、モーリス・ルブランの短篇小説のトリックを明らかにしていますので、くれぐれも、ご注意願います。) ジ…

ムーディ・ブルース『ア・クエッション・オヴ・バランス』

第二期ムーディ・ブルースの五枚目のアルバムは、前作から9カ月後の1970年8月にリリースされた。依然、ムーディーズのアルバム制作スピードは落ちていない。 しかし1970年代とともに、ムーディ・ブルースの音楽に大きな変化が生じたことは事実である。ヘイワ…

ムーディ・ブルース『トゥ・アワ・チルドレンズ・チルドレンズ・チルドレン』

第二期ムーディ・ブルースの四枚目のアルバム『トゥ・アワ・チルドレンズ・チルドレンズ・チルドレン』は、前作『オン・ザ・スレッショルド・オヴ・ア・ドリーム』からわずか7か月後に発売された。『デイズ・オヴ・フューチュア・パスト』以来のコンセプト・…

横溝正史『悪魔の手毬唄』

(本書のほか、『獄門島』、アガサ・クリスティおよび高木彬光の長編小説のアイディアを明かしています。) 『悪魔の手毬唄』は、横溝正史が自作のベストと考えていた長編小説だったようだ。 昭和37年の雑誌記事で「これが一番僕の作品では文章の嫌味もなく…

ムーディ・ブルース『オン・ザ・スレッショルド・オヴ・ア・ドリーム』

新生ムーディ・ブルースの三作目は、飛躍の一枚となった。全英アルバム・チャートで1位を獲得。『デイズ・オヴ・フューチュア・パスト』はやっと27位だったが、続く『イン・サーチ・オヴ・ザ・ロスト・コード』が5位とブレイクすると、『オン・ザ・スレッシ…

横溝正史『本陣殺人事件』

(本作品の犯人、トリックから動機まで、あらいざらいぶちまけています。) 『本陣殺人事件』については、すでに語り尽くされていて、もはや新たな論点は残されていないように思える。 しかし、その評価は、我が国のミステリ史に新たな時代を切り開いた長編…

ムーディ・ブルース『イン・サーチ・オヴ・ザ・ロスト・コード』

『失われたコードを求めて(イン・サーチ・オヴ・ザ・ロスト・コード)』は1968年7月にリリースされたムーディ・ブルースの通算3枚目の、メンバー交代後では2枚目のアルバムである。『デイズ・オヴ・フューチュア・パスト』からわずか8か月後というのが驚く…

ムーディ・ブルース『デイズ・オヴ・フューチュア・パスト』

ムーディ・ブルースは、プログレッシヴ・ロック(progressive rock)の先駆的バンドと位置付けられているが、本質的には、ビートルズを代表とする1960年代のブリティッシュ・ビート・バンドが発展的変化(progressive change)を遂げた事例である。 1964年のビー…

ニコラス・ブレイク『メリー・ウィドウの航海』

(本書のトリックおよび犯人のほかに、クリスティアナ・ブランドの『はなれわざ』、アガサ・クリスティの長編小説の真相を明かしています。) ニコラス・ブレイクの第十五長編『メリー・ウィドウの航海』(1959年)[i]は、これぞパズル・ミステリというべき…

ニコラス・ブレイク『血ぬられた報酬』

(本書のアイディアおよびプロットを明かしているほか、『野獣死すべし』について、ちょっとばらしています。) 『血ぬられた報酬』(1958年)[i]、タイトルはまるでハードボイルド・ミステリだが、前作の『章の終わり』(1957年)[ii]から一転して、再びサ…

ニコラス・ブレイク『章の終わり』

(本書のほか、『旅人の首』の内容に言及しています。) 出版社というのは、作家にとっては身近な存在であるはずなので、舞台にしやすいのだろうか(いや、むしろ、しにくいのか。本を出してもらっているわけだから)。ニコラス・ブレイクの1957年の長編『章…

エラリイ・クイーン『緋文字』

(本書の犯人・アイディア等のほかに、『Xの悲劇』、『シャム双子の謎』のダイイング・メッセージに言及しています。) 1950年代になって、エラリイ・クイーンのミステリは、また新たな段階へと入ったようだ。40年代はライツヴィル・シリーズをメインに据え…

ニコラス・ブレイク『闇のささやき』

(本書のアイディア、真相等に触れています。) 『闇のささやき』(1954年)[i]のタイトルは、例によって、ライオネル・ジョンソンという19世紀のイギリス詩人の引用のようだが、作品ジャンルとしては、『短刀を忍ばせ微笑む者』以来のスパイ・スリラーであ…

ニコラス・ブレイク『呪われた穴』

(本書の犯人について明言はしていませんが、かなり踏み込んでいますので、ご注意ください。) 『呪われた穴』(1953年)[i]は、ニコラス・ブレイクの第十長編で、お馴染みナイジェル・ストレンジウェイズが登場する。前作の『旅人の首』から四年後で、少々…

ニコラス・ブレイク『旅人の首』

(本書の犯人を明かしています。) 「復刊アンケート第9位」。私が持っているハヤカワ・ポケット・ミステリの『旅人の首』(2003年、原書刊行1949年)には、例のあのビニール・カヴァーの下に、こう謳い文句が載った帯が付いている。ハヤカワミステリの50周…

ニコラス・ブレイク『殺しにいたるメモ』

(本書の真相を明らかにしているほか、他のブレイク長編の犯人についても、注で言及しています。) 『殺しにいたるメモ』(1947年)[i]は、ニコラス・ブレイクの第八長編ミステリだが、前作の『雪だるまの殺人』(1941年)からは六年ぶりの発表である。 自伝…