2022-01-01から1年間の記事一覧

横溝正史「百日紅の下にて」

(本作のアイディア等に触れています。) 「百日紅の下にて」(1951年)は、横溝正史の敗戦後に書かれた傑作短編ミステリである。戦後中短編に限れば、ベスト・ファイヴに入るだろう。他の四作品は、「探偵小説」、「黒猫亭事件」・・・、残りは、適当に選ん…

J・D・カー『九つの答』

(犯人その他を明かしています。) 『九つの答』[i](1952年)は、ディクスン・カーの最大長編のひとつである。原書がないので、翻訳で比較するだけだが、『アラビアン・ナイトの殺人』(1936年)より長いし、前年の大長編『ビロードの悪魔』[ii](1951年)…

J・D・カー『ビロードの悪魔』

(本書のほかに、アガサ・クリスティの『アクロイド殺害事件』、ヘレン・マクロイの『殺す者と殺される者』、エラリイ・クイーンの『盤面の敵』の真相に触れています。) 1950年から始まったディクスン・カーの歴史ミステリのシリーズは、新世代のカー評価の…

J・D・カー『ニューゲイトの花嫁』

(犯人その他に触れています。) 1950年、いよいよディクスン・カーの歴史ミステリが始まる。1934年にはRoger Fairbairn名義の歴史ロマンスDevil Kinsmere があり、1936年にはノン・フィクション『エドマンド・ゴッドフリー卿殺人事件』の出版があったが、謎…

J・D・カー『疑惑の影』

(本書の内容のほか、フランシス・アイルズの『殺意』の結末に触れています。) 『疑惑の影』(1949年)は初読の時、かなり感心した記憶がある。ところが、再読したら、そうでもなかった。 犯人やトリックを知っているから、というわけでもなく、無実のヒロ…

J・D・カー『囁く影』

(本書の犯人、トリック等のほか、モーリス・ルブランの短編、横溝正史の『夜歩く』、「悪魔の降誕祭」のトリックに触れています。) 『囁く影』(1946年)[i]は、ジョン・ディクスン・カーの戦後第一作ということになる。冒頭には、第二次大戦直後のロンド…

カーター・ディクスン『墓場貸します』

(本書のほか、『青銅ランプの呪』、ガストン・ルルーの『黄色い部屋の謎』、マージェリー・アリンガムの長編小説のトリックに言及しています。) 題名からして、どこかユーモラスだが、内容も、のっけからヘンリ・メリヴェル卿が演じるニュー・ヨーク地下鉄…

カーター・ディクスン『青銅ランプの呪』

(本書のほか、ガストン・ルルーの『黄色い部屋の謎』、エラリイ・クイーンの「ショート氏とロング氏の冒険」、カーの『火刑法廷』、カーおよびエイドリアン・ドイルの「ハイゲイトの奇蹟事件」のトリックに触れています。) 『青銅ランプの呪』(1945年)で…

J・D・カー『連続殺人事件』

(犯人等に言及しています。) 『連続殺人事件』(1941年)は、カーの自選代表作だという。創元推理文庫版の解説で、お馴染み中島河太郎が、そう書いている[i]。本当なのか、と思っていた。面白いことは面白いが、カーの作品のなかで格別優秀とは考えられな…

J・D・カー『震えない男』

(本書の犯人その他を明かしています。) 『震えない男』(1940年)[i]は、なかなかユニークな作品である。無論、ディクスン・カーには型破りの作品が多いが、本書では、二重三重のどんでん返しを試みている。それが最大の特徴である。 どんでん返しが多いの…

カーター・ディクスン『メッキの神像(仮面荘の怪事件)』

(犯人やトリックに触れています。) 1933年から1941年までの9年間の間、1936年を除き、カーは毎年3作品以上の長編ミステリを発表し続けてきた。パズル・ミステリ作家としては驚くべきペースといってよい。しかし、1942年は、1932年以来十年ぶりに、長編2冊…

ジョン・ロード/カーター・ディクスン『エレヴェーター殺人事件』

(角田喜久雄の長編、ジョン・ディクスン・カーの『読者よ、欺かるるなかれ』、『震えない男』のトリックに触れています。) 『エレヴェーター殺人事件』(1939年)[i]は、ディクスン・カーにとって唯一の共作長編ミステリである[ii]。 ディクスン・カーとい…

J・D・カー『四つの凶器』

(本書のトリック等に触れています。) 『四つの凶器』(1937年)は、五年ぶりにアンリ・バンコランを登場させた長編ミステリである。ハヤカワ・ポケット・ミステリ版で何回か復刊されてきたが、2019年に、こちらは61年ぶり(!)の新訳が創元推理文庫に収録…

カーター・ディクスン『孔雀の羽根』

(本書のトリックに触れています。) ヘンリ・メリヴェル卿のシリーズとしては、やや異色作だった『パンチとジュディ』に続いて、カーがカーター・ディクスン名義で発表した『孔雀の羽根』(1937年)は、まさに王道の不可能犯罪ミステリだった。 何十年ぶり…

カーター・ディクスン『パンチとジュディ』

(本書の内容に触れています。) 1935年の『一角獣の殺人』がカーター・ディクスン名義の最後の作品となるはずだった、という。ヘンリ・メリヴェル卿のファンなら腰を抜かしそうな話だが、カー名義の出版社からペンネームに関するクレームが来たのが、理由だ…

カーター・ディクスン『一角獣の殺人』

(犯人その他に触れています。) 『一角獣の殺人』(1935年)は、ヘンリ・メリヴェル卿シリーズの第四作で、『黒』、『白』、『赤』の三部作に続く異色の長編ミステリである。 現在では、創元推理文庫から新訳[i]が刊行されて、簡単に読めるようになったが、…

カーター・ディクスン『赤後家の殺人』

(犯人やトリックを明かしてはいませんが、内容に触れています。) 『赤後家の殺人』(1935年)は、ヘンリ・メリヴェル卿シリーズの第三作で、『黒』、『白』に続くMurders in Colours(ただの造語です)三部作の最後の長編である。 現在では、創元推理文庫…

J・D・カー『盲目の理髪師』

(本書の内容に触れています。) 『盲目の理髪師』(1934年)は『剣の八』同様、1934年に刊行されたカー名義の第九長編である。 創元推理文庫で版を重ね[i]、長らく手軽に読めるカー作品として親しまれてきたが、最近新訳版も出版された[ii]。 全作品中、い…

J・D・カー『剣の八』

(本書の真相に触れています。) 『剣の八』(1934年)は『帽子収集狂事件』に次ぐ、カー名義の第八長編(だから「八」なのか?)である。 例によって、本作も日本では長い間絶版が続き、幻の長編と化していた。ところが、1993年にハヤカワ・ポケット・ミス…

J・D・カー『死者はよみがえる』

(本書のほか、G・K・チェスタトン「奇妙な足音」、A・クリスティ『大空の死』の内容に触れています。さらに、注で、同じくチェスタトンおよびA・E・W・メイスンの作品に言及しています。) 『死者はよみがえる』または『死人を起す』(1938年)[i]は、評価…

横溝正史「探偵小説」

(本作のアイディアおよびトリックのほかに、コナン・ドイル、江戸川乱歩の短編小説に注で言及しています。) 「探偵小説」は、横溝正史の敗戦後最初の小説である。『週刊河北』の注文に応じて書き始めたが、長くなったので、「神楽太夫」を代わりに書いて、…

エラリイ・クイーン『シャム双子の謎』

(本書の犯人の設定や手がかりに触れています。他に、アガサ・クリスティ、ヴァン・ダイン、クリスティアナ・ブランドの長編小説に言及しています。) エラリイ・クイーンの第七作『シャム双子の謎』(1933年)は、それまでの諸作に比して、随分風変りな作品…

エラリイ・クイーン『アメリカ銃の謎』

(本書および『エジプト十字架の謎』、ディクスン・カーの「死んでいた男」、「二つの死」の内容に触れています。) 『アメリカ銃の謎』はエラリイ・クイーン最大の問題作である。 こう言うと、いや『盤面の敵』か『第八の日』だろう、といった声が聞こえて…

エラリイ・クイーン『レーン最後の事件』

(犯人を明かしてはいませんが、未読の人でこんな文章を読む人はいないでしょう。) ドルリー・レーン四部作の掉尾を飾る本書だが、まったく予備知識なく読む読者はどのくらいいるのだろう。 名探偵のシリーズは、大抵の場合、作者が絶筆するか、死去して打…

ビー・ジーズ1981

「愛はトライアングル」(1981.9) 1 「愛はトライアングル」(He’s A Liar, B, R. & M. Gibb) アメリカでは「ラヴ・ユー・インサイド・アウト」以来のリリースとなった「愛はトライアングル」は、ビー・ジーズの王座からの失墜を証明する作品となってしまった…

ビー・ジーズ1980

1980年の幕開けは、ビー・ジーズにとって最高のものとなった。1月12日付けで『ビー・ジーズ・グレイテスト』がビルボード・アルバム・チャートの1位に輝いた。1978年の『サタデイ・ナイト・フィーヴァー』、1979年の『スピリッツ・ハヴィング・フロウン』に…

ビー・ジーズ1979

『失われた愛の世界』(Spirits Having Flown, 1979.2) 1978年の3月から11月まで、ビー・ジーズによるアメリカン・チャートの制圧が続くさなか、ニュー・アルバムのレコーディングが続けられた。具体的な日付けは、未だに不明なままだが、これだけ長期間のレ…

ビー・ジーズ1978

1978年は、ビー・ジーズ関連のアルバム、シングルがチャートのトップを約半年間独占する記録的な年となったが、反面、皮肉なことに、ビー・ジーズの新曲を含むアルバムが発表されない初めての年ともなった(1967年以降)。 アルバム・チャートでは、『サタデ…

J・D・カー『皇帝のかぎ煙草入れ』

(本書のほか、江戸川乱歩『偉大なる夢』、『化人幻戯』、「月と手袋」、横溝正史「廃園の鬼」の内容に触れています。) 『皇帝のかぎ煙草入れ』(1942年)[i]は、1940年代に書かれたディクスン・カーの代表的傑作との定評を得てきた。 またしても張本人は江…

J・D・カー『死が二人をわかつまで(毒殺魔)』

(1930年代および40年代前半におけるカーの密室ミステリ、およびヴァン・ダインの長編小説のトリックに触れています。) 『毒殺魔』[i]もしくは『死が二人をわかつまで』[ii](随分対照的な邦題だな[iii])は、三年ぶりのフェル博士シリーズ作品である。『嘲…