ビー・ジーズ1978

 1978年は、ビー・ジーズ関連のアルバム、シングルがチャートのトップを約半年間独占する記録的な年となったが、反面、皮肉なことに、ビー・ジーズの新曲を含むアルバムが発表されない初めての年ともなった(1967年以降)。

 アルバム・チャートでは、『サタデイ・ナイト・フィーヴァー』が24週1位。

 シングル・チャートでは、「ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ」の1週(前年からは3週目)を皮切りに、2月4日から、「ステイン・アライヴ」(4週)、「ラヴ・イズ・シッカー・ザン・ウォーター」(2週)、「ナイト・フィーヴァー」(8週)、「イフ・アイ・キャント・ハヴ・ユー」(1週)が4曲連続で1位。「シャドー・ダンシング」が6月17日から7週間1位、そして「グリース」が8月26日から2週間1位で、合計25週となった(以上、ビルボード誌)。

 ライターは、「グリース」がバリー単独。「ラヴ・イズ・シッカー・ザン・ウォーター」がバリーとアンディ。『フィーヴァー』の4曲はギブ3兄弟。「シャドー・ダンシング」がアンディを加えた4兄弟による共作だった。ビー・ジーズの3曲は、すべてバリーがリード・ヴォーカルを取り、アンディ・ギブの2曲ではコーラスを務めている。「イフ・アイ・キャント・ハヴ・ユー」のビー・ジーズ・ヴァージョンもバリーのリード・ヴォーカル、ということで、確認するまでもなく、すべての楽曲が、バリーが中心となって書かれていることは疑いようがない。バリー・ギブの作曲家としての名声は、この年の活躍によって決定的なものとなった。

 

レア・アース(Rare Earth)「ウォーム・ライド」(1978.4)

1 「ウォーム・ライド」(Warm Ride, B, R. & M. Gibb)

 「ウォーム・ライド」も「サタデイ・ナイト・フィーヴァー」セッションで書かれた曲のひとつという。この曲のビー・ジーズのヴァージョンが2007年に出た『ビー・ジーズ・グレイテスト』のリマスター盤に収録されているが、そちらのほうが、レア・アースのヴァージョンよりも論じやすい。

 「モア・ザン・ア・ウーマン」などと同系統の作品だが、メロディはあまりよくない。ただ、コーラスの旋律は、アメリカンといっても、ネイティヴ・アメリカンを連想させるようなエキゾティックな雰囲気がある。さらに、「ナイト・フィーヴァー」同様、メロディアスなシンセサイザーによるイントロがこの曲でも聞きどころのひとつとなっている。

 レア・アースのヴァージョンは、あまりその魅力が活かされていないようだ。イントロのメロディも使われてはいるが、曲の頭は別アレンジでロック風。ヴォーカルも含めて、全体としてもロック調だが、これが曲にあまり合っていない。モータウン系とはいえ、レア・アースのような白人バンドではなく、黒人の女性コーラス・グループが歌ったほうがよかったのではないだろうか。

 しかし、いずれにしても、この時期の他の楽曲に比べると明らかに弱く、全米39位という成績は順当なところか。

 

アンディ・ギブ「シャドー・ダンシング」(19787.4)

1 「シャドー・ダンシング」(Shadow Dancing, B, R, M. and A. Gibb)

 アンディ・ギブの最大のヒットで、プラチナ・ディスクも獲得した。

 といっても、バリーがコーラスに加わり、まるでビー・ジーズのレコードにアンディが参加したように聞こえる。「ラヴ・イズ・シッカー・ザン・ウォーター」では、そんな印象は受けないので、何が違うかといえば、どう考えても、ソロ・シンガーが歌うような曲とは思えないのだ。黄昏どきを思わせる、どこかエキゾティックなイントロから始まり、8小節のヴァースに続く8小節のサビでは、バリーのコーラスが素晴らしく美しい。ファルセット・コーラスとしては、ビー・ジーズの最高傑作ではないだろうか。そして最後にセカンド・コーラスというか、一転してファンキーなディスコ調で完結する。

 明らかに、「アンディ・ギブ・ウィズ・ビー・ジーズ」か「ビー・ジーズ・フィーチュアリング・アンディ・ギブ」として発表すべき作品だった。アンディのサポートということに、あまりにもこだわりすぎたという感が強い。

 曲の構成やメロディは、シュープリームスの1965年のナンバー・ワン、「バック・イン・マイ・アームズ・アゲイン」を連想させる。ディスコやポップなどの様々なジャンルを総合したかのようなギブ兄弟の傑作のひとつだが、やはりグループで歌うべきだったように思う。

 

フランキー・ヴァリ(Frankie Valli)「グリース」(1978.5)

1 「グリース」(Grease, B. Gibb)

 バリーが書いて、フォー・シーズンズフランキー・ヴァリが歌い、全米1位となった。一世を風靡した、あのファルセットではないにしても、さすがにヴァリのヴォーカルはパワフルだ。1997年のライヴでバリーがこの曲を歌っているが[i]、やはりヴァリの歌いっぷりに一日の長がある。

 映画『グリース』の主題歌として書かれた曲だが、監督のランダル・クライザーは気に入らなかったらしい。理由は、映画の舞台である1950年代らしくないから[ii]、だったそうだが、もっともな話だ。どうみても、これは1970年代のポップ・ソングである。1950年代に合わせるなら、「スリー・キッシズ・オヴ・ラヴ」や「ティンバー」のほうが良かったろう(古すぎるか)。

 この曲もポップとディスコ・ソウルが入り混じったハイ・ブリッドな作品で、後半のコーラスは完全にソウル・ミュージックになる。さほど魅力的なメロディとは思えないが、この時期のバリーらしい楽曲ではある。短い中間部の挿入など、組み立て方も念入りだ。『サタデイ・ナイト・フィーヴァー』に続き、アメリカだけで1000万枚以上売れたサウンドトラックに収録されたうえ、シングルだけでも200万枚を売った。「ナイト・フィーヴァー」などに匹敵するようなメガ・ヒットだったわけだ。

 

アンディ・ギブ「永遠の愛」(1978.6)

1 「永遠の愛」(An Everlasting Love, B. Gibb)

 これもまた、「キャッチー」としか言いようのない曲である。

 頭から最後まで、誰もが口ずさみたくなる、わかりやすいメロディが詰まっている。トニー・バロウズあたりが歌ってもおかしくないコマーシャルなナンバーだ。

 バリーがアンディのために書いた曲のひとつだが、当時のアンディのイメージに一番合っていた曲だろう。もっとも、アンディ・ギブは20歳になるやならずやの年齢にしては、こなれたポップ・ソングを書いていたので、本格的なシンガー・ソングライターの道を進みたかったのだろうけれども。

 全米で5位、イギリスでも唯一トップ10に入った曲となった。やはりイギリス人(や日本人)向きのポップ・ナンバーだったということだろう。当時のバリーが自在にメロディを生み出すことができたことを実証するような作品だ。

 

テリー・デ・サリオ(Teri De Sario)「エイント・ナッシング・ゴナ・キープ・ミー・フロム・ユー」(1978.7)

1 「エイント・ナッシング・ゴナ・キープ・ミー・フロム・ユー」(Ain’t Nothing Gonna Keep Me from You, B. Gibb)

 バリーがテリー・デ・サリオのデビュー曲として提供した作品。バック・ヴォーカルを務めるくらいだから、かなり入れ込んでいたらしい。その割には、全米43位と、この時期のバリー・ギブの曲にしては、不本意な成績に終わった。

 しかし、本作は1977‐78年頃の作品のなかでも上位に位置すると思えるナンバーである。ヴァースの部分はそれほどでもないが、コーラスのメロディが素晴らしく魅力的だ。一聴すると、何ということもない、どこにでも転がっていそうなメロディに聞こえるが、聞き返すたびに、中毒のように口を突いて出てくるようになる。なんともチャーミングな旋律である。

 例によって、バリーのファルセット・コーラスが加わると、ほとんどビー・ジーズのようになるが、目立たないものの、バリー・ギブの傑作のひとつといえるだろう。

 

アンディ・ギブ「愛をすてないで」(1978.9)

1 「愛をすてないで」((Our Love) Don’t Throw It All Away, B. Gibb & B. Weaver)

 1977年のサタデイ・ナイト・フィーヴァー・セッションで作られ、その後、アンディ・ギブの2枚目のアルバムに収録された。原型となるビー・ジーズのヴァージョンは、1979年の『グレイテスト』で初めて紹介された。それを聞くと、アンディのヴァージョンは、中間部が書き足されていることがわかる。

 バリーがブルー・ウィーヴァーと書いたバラードだが、同時期のロビンと書いた「エモーション」と比べると、最後のコーラスのしゃれたメロディ展開にウィーヴァーらしさが垣間見られる。その他のパートは、いかにもバリーが書きそうな、親しみやすいメロディで、間奏のオーケストラのパートも何だか素人臭い。

 全米9位ながら、ミリオン・セラーを記録。後年、バーブラ・ストライサンドがカヴァーするなど[iii]、彼らのバラードの代表作のひとつとなった。

 

「失われた愛の世界」 (1978.11)

1 「失われた愛の世界」(Too Much Heaven, B, R. & M. Gibb)

 ビー・ジーズの約1年ぶりの新作は、「ファニー」、「偽りの愛」のソウル・バラード路線に戻ったかたちとなった。ただし、前二作に比べると、よりポップ寄りになったと言えるかもしれない。

 サビのコーラスから始まり、ヴァースを挟む形式で、古くは「ワールド」、近作では「ジャイヴ・トーキン」などと同スタイルだ。コーラスのメロディはシンプルながら、きれいに整っているが、ヴァース部分は、よいメロディを探して、思いついたフレーズを継ぎ足していってつくったような印象を受ける。しかし、”Loving’s such a beautiful thing”のメロディはなかなかいい。

 ジョゼフ・ブレナンによると、実に27ものヴォーカル・トラックを重ねている[iv]、という。バリーに至っては、ファルセットのリード・ヴォーカルと高低のハーモニーを各3度、それをナチュラル・ヴォイスでも繰り返しているらしい。確かに厚みのあるコーラスだが、ほとんどバリーの声しか聞こえない。そしてバリーのファルセットだが、エンディングはもはや悲鳴のようで、明らかにやりすぎだ。元来、ファルセットは聞きようによっては「滑稽」に思える場合も多い。この曲におけるバリーのファルセットはその弊に陥りかけている、と言わざるを得ない。一時期のロビンもそうだったが、アルバム『スピリッツ・ハヴィング・フロウン』全体について、もう少しファルセットをコントロールするよう、アドヴァイスする者はいなかったのだろうか。

 シカゴのホーンを含めたサウンドの厚みとアレンジの豊潤さは素晴らしく、とくにイントロは「ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ」に匹敵する。全米ビルボードで1979年1月6日から2週間1位を続け、これで2年連続で新年最初のチャート・トップを記録した。「ステイン・アライヴ」、「ナイト・フィーヴァー」に続き、プラチナ・ディスクを獲得、実際は300万枚を売り上げたらしい。

 

2 「レスト・ユア・ラヴ・オン・ミー」(Rest Your Love on Me, B. Gibb)

 B面は、珍らしや、「メイン・コース」以来のカントリー・バラード。実際は、『チルドレン・オヴ・ザ・ワールド』のセッションで1976年にレコーディングされた[v]、という。バリーの単独作だが、カントリーだけに、もちろんファルセットではない。

 1981年にコンウェイ・トゥエッティによるヴァージョンがカントリー・チャートで1位になったらしいが、それほどの曲とも思えない。彼らには、もっと良いメロディのカントリー・ナンバーがあると思うが、いかにもカントリーといった曲調が好まれたのだろうか。

 

[i] Bee Gees, One Night Only (1998).

[ii] Joseph Brennan, Gibb Songs, Version 2: 1978.

[iii] Barbra Streisand, Guilty Pleasures (2005).

[iv] Joseph Brennan, Gibb Songs, Version 2: 1978.

[v] Joseph Brennan, Gibb Songs, Version 2: 1976.