2022-01-01から1年間の記事一覧

横溝正史『蝶々殺人事件』

(本書の犯人、トリック等に触れています。またG・K・チェスタトンの短編小説に言及しています。) 『蝶々殺人事件』(1946-47年)は日本ミステリ史の里程標の一つに数えられるとともに、現在でもその質の高さから、パズル・ミステリの傑作に位置づけられて…

横溝正史「神楽太夫」

(本作のトリックに言及しています。) 「神楽太夫」は、横溝正史の戦後第一作として知られる。『週刊河北』からの依頼で、最初「探偵小説」を書き始めたが、枚数が超過したため、代わりに本作を書いて送った、という[i]。以上の逸話は、何度も繰り返し紹介…

エラリイ・クイーン『ニッポン樫鳥の謎(日本庭園の秘密)』

(犯人を明かしていませんが、トリック等に触れているので、未読の方はご注意ください。また、アーサー・モリスンの短編小説のトリックについても触れています。) 『ニッポン樫鳥の謎(日本庭園の秘密)』[i](1937年)は、日本の読者にとって、ひときわ思い…

エラリイ・クイーン『中途の家』

(犯人を明言してはいませんが、本書の推理やら伏線やら、しゃべり散らかしています。またディクスン・カーの1937年の長編小説のトリックに触れています。) 『中途の家』?エラリイ・クイーンになにが起こったのか。 ローマ、フランス、オランダ、・・・と…

J・D・カー『ロンドン橋が落ちる』

(犯人やトリックを明かしてはいませんが、ところどころ真相に触れています。) 『ロンドン橋が落ちる』(1962年)[i]は、前年の『引き潮の魔女』に続き、歴史ミステリとして発表された。『ビロードの悪魔』(1951年)以来、カー名義では、現代ミステリと交…

J・D・カー『バトラー弁護に立つ』

(本書のトリックその他のほか、F・W・クロフツの長編の密室トリックを明かしています。) 『バトラー弁護に立つ』(1956年)は、『疑惑の影』(1949年)以来、パトリック・バトラーが7年ぶりに登場したミステリである。といっても、バトラーが探偵を務める…

エラリイ・クイーン『スペイン岬の謎』

(本書および他の「国名シリーズ」作品の内容に触れています。) 『スペイン岬の謎』(1935年)をもって、「国名シリーズ」は幕を閉じる。しかし、「読者への挑戦」は次の『中途の家』(1936年)でも踏襲され、それなら、もう一冊、国名を冠した長編を書いて…

エラリイ・クイーン『チャイナ橙の謎』

(本書のトリックやアイディアに触れているほか、『帝王死す』の犯人、G・K・チェスタトンの短編小説のトリックについて、言及しています。) 『チャイナ橙の謎』(1934年)は、作者(といってもフレデリック・ダネイのほうだが)が自作ベストに挙げた作品と…

J・D・カー『引き潮の魔女』

(本書の犯人やトリックを明かしてはいませんが、ほのめかしてはいます。また、『帽子収集狂事件』、『白い僧院の殺人』のトリックに言及しています。) 本書は1961年出版のディクスン・カーの歴史ミステリである。1957年の『火よ燃えろ!』、1959年の『ハイ…

J・D・カー『雷鳴の中でも』

(本書および『ハイチムニー荘の醜聞』の内容に触れています。) ディクスン・カーの小説技法というか、悪癖というか、演出のひとつに、緊迫感を高めるために天候を利用する、というのがある。事態が急転したり、登場人物のひとりが「明日までに、私たちのう…

J・D・カー『ハイチムニー荘の醜聞』

(本書の犯人とトリックを明かしているほかに、アガサ・クリスティの『オリエント急行の殺人』の内容について、注で言及しています。) フェル博士のカムバックを祝した、前作『死者のノック』(1958年)から一転して、再び歴史ミステリに戻ったのが本書であ…

J・D・カー『死者のノック』

(トリックや犯人は明かしていませんが、ちょくちょく暗示的なことは書いています。) 9年ぶりのフェル博士シリーズで、博士はアメリカで探偵の腕を振るう。『墓場貸します』(1949年)のヘンリ・メリヴェル卿に続くアメリカ上陸だが、H・Mのようなおちゃら…

J・D・カー『火よ燃えろ!』

(犯人やトリックは明かしていません。) 第五作『火よ燃えろ!』(1957年)[i]で、ディクスン・カーの歴史ミステリは新たな段階に入ったといえる。 いわゆる「スコットランド・ヤード三部作」[ii]の第一作で、イギリス近代警察誕生秘話(フィクションだが)…

カーター・ディクスン『恐怖は同じ』

(本書のトリックを明かしていますが、犯人は明かしていません。) 『恐怖は同じ』(1956年)は、『騎士の盃』以来、三年ぶりのカーター・ディクスン名義の長編だった。そればかりではなく、同名義の最後の長編小説となってしまった。しかも、ヘンリ・メリヴ…

J・D・カー『喉切り隊長』

(犯人を名指しはしていませんが、気づかない人はいないでしょうね。) 『喉切り隊長』(1955年)は、ディクスン・カーの歴史ミステリのなかでも、もっとも「ミステリ」らしい作品といえそうだ。ただし、パズル小説ではなく、スパイ小説である。ジョゼフ・フ…

カーター・ディクスン『騎士の盃』

(犯人やトリックを明かしてはいませんが、そもそも本書は、たいした結末ではありません。) 『騎士の盃』[i](1953年)は、ヘンリ・メリヴェル卿の登場する22作目の、そして最後の長編となった。デビューが1934年の『プレーグ・コートの殺人』だったので、…

カーター・ディクスン『わらう後家(魔女が笑う夜)』

(本書のトリックについて言及しています。) 1950年代に入ると、ディクスン・カーの作品には明らかな衰えが目に付くようになった。短期的には、『コナン・ドイル伝』(1949年)で精力を使い果たしただけなのかもしれないし、一方で、『ニューゲイトの花嫁』…

カーター・ディクスン『時計の中の骸骨』

(本書のほか、アガサ・クリスティの『五匹の子豚』、『邪悪の家』、エラリイ・クイーンの『フォックス家の殺人』、横溝正史の『女王蜂』、『悪魔の手毬唄』、『不死蝶』のプロット、犯人設定等について言及しています。) 『時計の中の骸骨』(1948年)[i]…

J・D・カー『眠れるスフィンクス』

(本書の内容に触れているほか、『時計のなかの骸骨』およびアガサ・クリスティの長編小説に言及しています。) 1940年代後半になると、ディクスン・カーの創作力もめっきり衰えて、長編小説は急減する。数え方にもよるが、1930年代には、共作を含めて30冊(…

カーター・ディクスン『青ひげの花嫁(別れた妻たち)』

(本書のアイディア、真相に触れています。) 本書はハヤカワ・ポケット・ミステリ[i]に収録されたあと、1982年にハヤカワ・ミステリ文庫[ii]に収められた。訳者は変わっていないので、改題ということになる。旧題だと、単に離婚しただけのように受け取られ…

カーター・ディクスン『赤い鎧戸のかげで』

(本書の犯人およびトリックに触れています。) 1950年代に入って、カーはタガが外れてしまったようだ。それとも外れたのはブレーキか(カーだけに)。 『赤い鎧戸のかげで』(1952年)で、ヘンリ・メリヴェル卿は、自分を狙った賊を相手に、短刀で喉を切り…

ビー・ジーズ1984(2)

バリー・ギブ「シャイン・シャイン」(1984.9) 1 「シャイン・シャイン」(Shine, Shine, B. Gibb, M. Gibb and G. Bitzer) バリー・ギブの14年ぶりのソロ・シングルは、ハーブ・アルバートもびっくりのカリビアン風ポップ・ナンバー。マイアミでレコーディン…

ビー・ジーズ1984(1)

1984年は、ある意味記念すべき年となった。この年、バリーとロビンが初めて同じ年にソロ・アルバムをリリースし、モーリスもソロ・シングルを発表した。 1970年に、ロビンが初のソロ・アルバムをリリースしたとき、バリーとモーリスもソロ・アルバムを準備し…

ビー・ジーズ1983(2)

ケニー・ロジャース/ドリー・パートン「アイランズ・イン・ザ・ストリーム」(1983.8) 1 「アイランズ・イン・ザ・ストリーム」(Islands in the Stream, B, R. and M. Gibb) 最初はデュエット曲ではなかったらしい。経緯はわからないが、最終的にケニー・ロ…

ビー・ジーズ1983(1)

1983年は、ビー・ジーズにとって非常に活発な活動が見られた年だった。 ロビン・ギブの『ハウ・オールド・アー・ユー』、サウンドトラック『ステイン・アライヴ』、ケニー・ロジャース『愛のまなざし』と3枚もの関連アルバムがリリースされた。これだけのア…

ビー・ジーズ1982

1982年になると、ギブ兄弟は様々なプロジェクトを並行して進めるようになる。 『リヴィング・アイズ』の失敗で、当面グループでの活動には見切りをつけた、とも見ることができる。ディオンヌ・ウォーリク、ケニー・ロジャースのアルバム制作、ロビンのソロ・…

E・クイーン『九尾の猫』

(本書の内容に触れているほか、横溝正史『悪魔の手毬唄』に言及しています。) 『九尾の猫』(1949年)は、『災厄の町』と並ぶエラリイ・クイーンの最高傑作である。・・・と、いうのが、アメリカでの評価らしい。フランシス・ネヴィンズ・ジュニアの『エラ…

神は死して、神は去る-『十日間の不思議』

『十日間の不思議』は、日本では「不思議な」運命を辿ってきた作品である。かつて、小林信彦が本書について、書評のなかで取り上げていた。少し長いが、引用しよう。 「ポケ・ミスにして三百頁以上の厚さで、登場人物は四、五人しか出ないので、さ ぞかし面…

狐を嗅ぎ出せ-『フォックス家の殺人』

『フォックス家の殺人』(1945年)は、『災厄の町』とともに、第二次大戦後のエラリイ・クイーンを代表する長編と見られてきた・・・日本では。 戦後間もない随筆で、江戸川乱歩は、これら二編を取り上げて、クイーンの作風の変化の大きさに触れながら、『フ…

横溝正史『獄門島』

(本書のほかに、アガサ・クリスティの長編小説の犯人やトリックに言及しています。) 『獄門島』(1947-48年)は、日本ミステリ史上、圧倒的な傑作として君臨し続けている。 知名度なら『犬神家の一族』(1950-51年)か『八つ墓村』(1949-51年)だろうが、…