ビー・ジーズ1983(1)

 1983年は、ビー・ジーズにとって非常に活発な活動が見られた年だった。

 ロビン・ギブの『ハウ・オールド・アー・ユー』、サウンドトラック『ステイン・アライヴ』、ケニー・ロジャース『愛のまなざし』と3枚もの関連アルバムがリリースされた。これだけのアルバムが同一年に出るのは、ロビンの『ロビンズ・レイン』、ビー・ジーズの『キューカンバー・キャッスル』と『2イヤーズ・オン』が発売された1970年以来のことだ[i]。当然、その結果は悲喜こもごもというか、いろいろだった。

 ロビンのソロ・アルバムは、シングルの「ジュリエット」がドイツで大ヒットしたほかはさっぱりだった。『ステイン・アライヴ』は、アルバムは全米チャートでトップ10に入るヒットとなったが、『フィーヴァー』とは異なって、ヒットしたのはビー・ジーズの楽曲のおかげではなかった(と思われる)。今となっては、映画もアルバムも忘れ去られている。ケニー・ロジャースのアルバムは唯一成功作といってよく、アルバムは全米7位のヒット。とくにシングル「アイランズ・イン・ザ・ストリーム」はギブ兄弟の最後の全米ナンバー・ワン・ソングとなり、プラチナ・ディスク獲得のメガ・ヒットとなった。ちなみに1983年といえば、マイクル・ジャクソンの『スリラー』とポリスの『シンクロニシティ』の年だが、前者の「ビート・イット」と「ビリー・ジーン」、後者の「エヴリ・ブレス・ユー・テイク」はいずれもナンバー・ワン・シングルだったが、プラチナ・ディスクにはなっていない(もっともアルバムの売り上げが段違いに異なるが)。

 まとめれば、グループまたはシンガーとしてはじり貧だったが、ソングライターとしては成功をキープした1年だった。

 

ロビン・ギブ「ジュリエット」(1983.5)

1 「ジュリエット」(Juliet, R. & M. Gibb)

 宇宙空間をイメージしたような(『2001年宇宙の旅[ii]?)神秘的なイントロから、いかにも80年代なプログラミングされたドラムに乗って、ロビンが快調に歌い飛ばす。実に快調で、後に何も残らないようなポップ・ソングだが、けなしているわけではない。

 出だしのメロディは、この後のロビンの曲作りのパターンのひとつになる(1993年の「フォールン・エンジェル」が同じメロディで始まる)が、続く「ジュ、ジュ、ジュ、ジュリエット」のサビからモーリスのようにも聞こえるファルセット、最後の「オ、オ、オ、オ、オー」のフェイド・アウトまで、キャッチーなメロディがてんこ盛りの快作だ。

 アメリカ、イギリスではかすりもしなかったが、ドイツではナンバー・ワン、と地域格差がひどかったが、あまりにポップすぎて古臭く聞こえてしまったのか。しかし、80年代のロビンの代表作に数えてよいだろう。

 

2 「ハーツ・オン・ファイアー」(Hearts on Fire, R, and M. Gibb)

 A面と比べると、マイナー調で聞かせるタイプの曲ということになるだろうが、全体的な印象は似たり寄ったりという感じか。要するにサウンドが同じということで、それはアルバム全体について言えることだ。

 

ロビン・ギブ『ハウ・オールド・アー・ユー』(How Old Are You, 1983.5)

 13年ぶりに登場したロビン・ギブの2枚目のソロ・アルバムは、1970年の『ロビンズ・レイン』とは非常に対照的な作品となった。

 『ロビンズ・レイン』は、まるで白黒のサイレント映画(そんな音楽は嫌だが)を思わせる静寂感漂うアルバムだったが、『ハウ・オールド・アー・ユー』は、サーカスのアクロバットを見ているような、あるいはおもちゃ箱をひっくり返したような、とでも言おうか、エレクトロニック・ポップ・アルバム[iii]だった。しかも、むしろ映画にちなんでいるのは後者のほうで、アルバム・ジャケットには、ロビンが映画館らしき建物の壁にもたれて佇み、壁には”How Old Are You?”とタイトルが書かれた映画のポスターが貼ってある。裏カヴァーでは、映画館の席に座ったロビンが、後方の席で抱き合っているカップルを眺めている、というデザインになっている。”How Old Are You?”という映画があるのか、寡聞にして知らないが、ポスター自体は、クラーク・ゲーブルエヴァ・ガードナーグレイス・ケリー主演の『モガンボ(Mogambo)』(1953年)という映画のものを流用したらしい。歌詞が映画をもじっているわけでもないようで、単純に映画好きのロビンのしゃれっ気によるものなのだろう。

 音楽に戻ろう。収められた10曲は、いずれもポップな作品で、大きく二つのタイプに分けられそうだ。派手で明るめのポップ・ナンバー(A1、A2、A4、B3)とマイナーで憂鬱なバラード・タイプの楽曲(A5、B1、B2、B4、B5)。A3のように、バラードだけれど、前者に近い雰囲気の曲もある。しかし、全体としては、どれもこれも似たり寄ったりの作品で、よくもこれだけ同じような曲を書いたものだというのが、率直な感想だ。同じようなことは、『ロビンズ・レイン』についても感じた。そのときにも述べたように、ロビンの作曲における書き分けの能力は、実はそれほど高くない。もっとも、同年のビー・ジーズの『キューカンバー・キャッスル』のバリーについても同様のことが言えるので、まるでギブ兄弟は同じような曲しか書けないような言い方になってしまうが。

 しかし、見方を変えると、『ロビンズ・レイン』と『ハウ・オールド・アー・ユー』では、楽曲のタイプはまるで異なる。そういう意味では、ある時期のロビンは同傾向の曲ばかり書く、といったほうがよいのかもしれない。

 似かよっているのは、サウンドも同じで、上述のように、エレクトロニック・ポップ、エレクトリック・ライト・オーケストラに似ている、との評価も当時あった。確かに共通する部分はあるが、ELOほど先鋭的でも、華やかでもない。ジェフ・リンのぎっしりと音が密集するような緻密なサウンド構成には遠く及ばず、どことなくチープに聞こえる。

 プロデュースは、ロビンはもちろんだが、モーリスの名前が先に来る。そして、なつかしや、デニス・ブライオン。もっとも、ブライオン自身の回想では、彼が参加したときにはほとんど作業は終わっていたというから[iv]、基本的には、プロデュースはモーリスの仕事のようだ。アレンジもサウンドの組み立ても恐らくそうで、楽器も、サウンドの基礎となるシンセサイザーやプログラミングも彼が担当している。すなわち、ロビンのソロ・アルバムといっても、モーリスが組み上げたバック・トラックにロビンがヴォーカルをかぶせた、というのが正しいようだ。その意味では、ロビンとモーリスの共同作品[v]で、作曲も全曲ふたりの共作。『ロビンズ・レイン』との違いは、その点にも起因するらしい。ヴォーカル・スタイルなどもモーリスの示唆によるのだろうか。

 それにしても、改めて言うが、ここまでポップなアルバムはビー・ジーズとしても珍しい。バリーが加わっていれば、いやロビンのソロとしても、もう少しスローなバラードが入っていてもよさそうだが、バラードといっても、いずれもテンポよくリズミカルで、「救いの鐘」のような曲はひとつもない。この割り切り方は、何によるものなのか。そういう気分だったのか。本当のところはわからないが、しかし最後に述べておこう。

 本作は、素敵なポップ・アルバムだ。

 偉大な作品でも、力作でもないが、実に楽しく聞ける。終わりまで聞くと飽きてくるが、また改めて聞きたくなる。『ロビンズ・レイン』のような「孤高の美」は感じないが、ポップ・アルバムとしてはひけをとらない。いや、ロビン・ギブの最高傑作といっておこう。

 

A1 「ジュリエット」

A2 「ハウ・オールド・アー・ユー」(How Old Are You)

 「ジュリエット」に続き、快調なテンポのポップ・ナンバー。どこかカントリー風なのは、モーリスの趣味か。コーラスでの彼の「ハウ・オールド・アー・ユー」の掛け声もアクセントになっている。

 

A3 「イン・アンド・アウト・オヴ・ラヴ」(In and Out of Love)

 本作は、メロディの良さでは一番だろう。とくにサビのコーラスは、絶妙なフレーズをビー・ジーズもかくやという見事なハーモニー[vi]で歌う。ビー・ジーズの代表作に劣らぬ素晴らしい出来だ。

 

A4 「キャシーズ・ゴーン」(Kathy’s Gone)

 「ハウ・オールド・アー・ユー」のテンポを少し落としたようなカントリー風のポップ・ソング。こちらもサビのキャッチーなメロディが聞きもの。

 

A5 「ドント・ストップ・ザ・ナイト」(Don’t Stop the Night)

 少しダークな雰囲気のマイナー調の作品。このアルバムでのロビンのヴォーカルは、どこか人工的で楽器の一部のような印象を与えるが、この曲はとくにその印象が強い。もっとも、サビの「ドント・ストップ・ザ・ナイト」とシャウトするところは、例のくせで、悲鳴のようだ。

 

B1 「アナザー・ロンリー・ナイト・イン・ニュー・ヨーク」(Another Lonely Night in New York)

 このアルバムでは、「ジュリエット」と並んで、印象に残るメロディの1曲。フォリナーの”Waiting for A Girl Like You”(1981年)にメロディが似すぎている[vii]というが、どうだろうか。この手の曲調やアレンジは他にもありそうな気がする。

 アンソロジー・アルバムにも収録しているので、ロビンは気に入っているようだ[viii]。確かに彼が好きそうなメロディでもある。

 

B2 「デンジャー」(Danger)

 A5同様、マイナー・キーの作品。バラードではないが、陰鬱でブルーな曲調。このあたりになると、そろそろ曲の見分けがつかなくなってくる。

 

B3 「ヒー・キャント・ラヴ・ユー」(He Can’t Love You)

 「ハウ・オールド・アー・ユー」や「キャシーズ・ゴーン」と同系統の曲。しかしサビのコーラスは、「イン・アンド・アウト・オヴ・ラヴ」とともに、本アルバムでも随一のキャッチーなメロディといえる。”He can’t love you baby like I do.”まで、いささかの渋滞もなく、耳をさらわれる快感をここでも味わえる。

 カントリー風のメロディとコーラスは、モーリスの力が大きいのかもしれない。

 

B4 「ハーツ・オン・ファイアー」

B5 「アイ・ビリーヴ・イン・ミラクルズ」(I Believe in Miracles)

 最後は、前曲に続き、ややシリアスな表情で、ロビンが情感をこめて熱唱する。切迫感のある曲調は、快適なだけで終わらせたくはない、という意気込みからだろうか。サビの“I believe in miracles.”もいかにもビー・ジーズらしいフレーズだ。

 

ビー・ジーズ「ウーマン・イン・ユー」(1983.5)

1 「ウーマン・イン・ユー」(Woman in You, B, R. & M. Gibb)

 ビー・ジーズのシングルのなかでは、もっともロックらしい作品といえるかもしれない。少なくともディスコ・ソングらしくはない。

 この時期に特徴的な、かなり複雑な構成の曲で、パワフルなコーラスから始まり、中盤のヴァースでメロディアスな展開を見せる。しかし、メロディにあまり魅力がないし、ロック風の割にはパンチが足りない(表現が古いか)。当時のビー・ジーズを取り巻く状況で、全米28位は健闘したほうか。

 

2 「ウーマン・イン・ユー」(Instrumental)

 この頃はシングル盤を買わなかったので、聞いたことがない。

 

サウンドトラック『ステイン・アライヴ』(Staying Alive, 1983.6)

 このサウンドトラックは、ビー・ジーズがRSOレコードと和解した後、契約上1枚残っていたアルバム制作をこなすために作られたものだという。なるほど、それでなのね、と思うような出来だが、さすがにそこまで(どこまで?)手を抜いてはいないだろう。しかし、契約上必要なアルバム制作をサウンドトラックで果たせることで、彼らもほっとしたのかもしれない。そうでなければ、『サタデイ・ナイト・フィーヴァー』から5年もたって、続編映画の音楽を引き受ける理由がわからない。しかも、アンチ・ディスコの風潮のなかで成功するはずがないのだから。

 ところが、アルバムは全米6位のヒットとなり、プラチナ・ディスクまで獲得する、一応の成功を収めた。しかし、これはビー・ジーズの功績ではない。シルヴェスター・スタローンが監督を務めたという話題性のおかげか。はたまた、彼の弟で音楽を担当したフランク・スタローンの「ファー・フロム・オウヴァ」のヒットによるものか。『フィーヴァー』の驚異的なセールスの9割はビー・ジーズの楽曲に起因するが、『ステイン・アライヴ』の売り上げにビー・ジーズが貢献した割合は1割に満たないだろう。

 このアルバムに関しては、楽曲の出来も結果に見合っているといえる。出来不出来のバランス云々以前に、凡作ばかり、というのは言い過ぎか。本作は、これまでのビー・ジーズのアルバムのなかで、もっともロック寄りの作品だが、そのことが楽曲の出来栄えに関係しているのかもしれない。要するに、相変わらずロックが書けないという欠点を露呈してしまったということだ。さすがに、このアルバムは作らなくてもよかった、と言わざるを得ない。

 

A1 「ウーマン・イン・ユー」

A2 「アイ・ラヴ・ユー・トゥー・マッチ」(I Love You Too Much, B, R. & M. Gibb)

 ダンス・ミュージックにしてはスローで、リズム・アンド・ブルースのバラードを狙ったのかもしれない。ヴァースではっきりしないメロディが続くが、サビのところは、わかりやすい調子のよいフレーズを繰り返す。悪くはないが、とにかく地味だ。

 

A3 「ブレイクアウト」(Breakout, B, R. & M. Gibb)

 一転して、軽快なポップ・ロック・ナンバー。こちらもとっつきやすい軽妙なフレーズが耳に残る。サビのコーラスもノリが良い。彼らのロック・スタイルの楽曲としては、まあまあの出来といったところだろう。

 

A4 「サムワン・ビロンギング・トゥー・サムワン」(Someone Belonging to Someone, B, R. & M. Gibb)

 唯一のバラードだが、この頃のバリーらしく、メロディがどんどん展開していって、なかなか戻ってこない。そのメロディもあまり魅力がなく、右から左に流れていってしまう。これだというフレーズを探り当てることができず、仕方なくだらだらメロディをつなげていった印象だ。

 アルバムの1曲としてなら充分だが、シングルは無謀だった。

 

A5 「ライフ・ゴーズ・オン」(Life Goes On, B, R. & M. Gibb)

 最後になって、ようやくビー・ジーズらしいメロディアスな佳曲に出会える。

 冒頭のメロディから聴き手を引きつけ、コーラスでは彼ららしいハイ・トーンのハーモニーが胸を打つ。やはり地味だが、これなら充分満足できる。

 

A6 「ステイン・アライヴ」(Stayin’ Alive)

 最後は、『フィーヴァー』の熱狂を思い出す「ステイン・アライヴ」のさわりのみのヴァージョン。おかげで、アルバム表題曲が収録されない、という『キューカンバー・キャッスル』以来の「怪」挙は回避された。もっともアルバム・タイトル(映画も)はStaying Aliveで、微妙に異なっている。実にどうでもよい話だが。

 『ステイン・アライヴ』は、一曲一曲を取り上げると、さほど悪くはない。それぞれによいところもある。凡作ばかり、というのは取り消そう。が、全体としては、やはり失望する出来だ。ビー・ジーズを聞いたという充実感が感じられない。それがすべてだ。

 

[i] 1980年も、アンディ・ギブ『アフター・ダーク』、ジミー・ラフィン『サンライズ』、バーブラ・ストライサンド『ギルティ』の3枚がリリースされたが、これらはいずれもプロデュース&ソングライティング担当の作品だった。

[ii] Joseph Brennan, Gibb Songs, Version 2: 1982.

[iii] Ibid.

[iv] Ibid.

[v] Ibid.

[vi] Ibid.

[vii] The Bee Gees: Tales of the Brothers Gibb, p.537; Joseph Brennan, Gibb Songs, Version 2: 1982.

[viii] Tales from the Brothers Gibb: A History in Song 1967-1990 (1990).