ビー・ジーズ1984(1)

 1984年は、ある意味記念すべき年となった。この年、バリーとロビンが初めて同じ年にソロ・アルバムをリリースし、モーリスもソロ・シングルを発表した。

 1970年に、ロビンが初のソロ・アルバムをリリースしたとき、バリーとモーリスもソロ・アルバムを準備していた。しかし、グループの活動再開とともに制作は見送られ、3人がそれぞれソロ・シングルを発表するだけに終わっていた。それが、バリーとロビンが同時にソロ・アルバムを制作、発表したのが、この1984年だった。

 ただし、結果は、期待に反して、というか、当人たちもあまり期待はしていなかったかもしれないが、残念なものに終わった。1970年のときも、状況を考えれば、ビー・ジーズのメンバーのソロ・アルバムが受け入れられるとは思えなかったが、あのときはグループの再結成に一縷の望みがかけられた。しかし、1984年当時は、そもそもグループとしての活動に見通しが立たない状況だった。残された方向性は、ソングライティングとプロデュースだったが、この後のダイアナ・ロスのアルバム・プロデュースの成果をみると、それもそろそろ限界に近づいていたといえる。

 つまり、八方ふさがりのなかでの苦し紛れのソロ・アルバム制作だったように映るが、実際は、1970年のときのような、そこまで切羽詰まった情勢ではなかっただろう。何といっても『サタデイ・ナイト・フィーヴァー』による世界的なブームがあり、その後の『ギルティ』の成功がビー・ジーズの名を(アメリカでのバックラッシュは続いていたものの)非常に大きなものにしていた。グループとしての活動はしづらい環境ではあったが、音楽を作り続けることが次のステップへ繋がる道であり、その発表の場は確保できていた。

 その意味では、結果は二の次であり、ソングライターとしての能力が健在であることを示すことが重要だった。

 

ロビン・ギブ「ボーイズ・ドゥ・フォール・イン・ラヴ」(1984.5)

1 「ボーイズ・ドゥ・フォール・イン・ラヴ」(Boys Do Fall in Love, R. & M. Gibb)

 「ジュリエット」同様のアップ・テンポの軽快なポップ・ロック・ナンバー。ただし、「ジュリエット」にあったようなヨーロピアン・ポップ的な哀愁は薄まり、よりクールでメカニカルなアメリカン・ポップになった。

 ロビンのヴォーカルもこれまでトレードマークでもあった悲壮感が消えて、前作以上にドライな印象を与える。「ボ、ボ、ボ、ボーイズ」の演出は「ジュリエット」でくせになったのだろうか。

 

2 「ダイアモンズ」(Diamonds, R, and M. Gibb)

 こちらもA面同様の乾いたサウンドのテクノ・ポップ。A面ほどキャッチーなサビではないが、「ダイアモンズ」と繰り返すフレーズは、印象に残る。

 

ロビン・ギブ『シークレット・エイジェント』(Secret Agent, 1984.6)

 2年続けて、ロビンのソロ・アルバムがリリースされたとき、やはりバリー主導の70年代後半は、ロビン(とモーリス)にとって色々とフラストレーションがたまっていたのだろうな、と推察した。翌年にはWalls Have Eyesが発表されるから、この際、一気にうっぷんを晴らしたということなのだろう。

 しかし、これら3枚のソロ・アルバムがロビンのやりたい音楽だったのかどうかは、当時も今も計りかねるところがある。あまりに『ロビンズ・レイン』との落差がありすぎる。3枚すべてがロビンとモーリスのプロデュースだが、本アルバムでは、サウンドづくりの主体はモーリスよりも、共同プロデューサーのマーク・リジェットとクリス・マーボサにあったらしい。サウンドの要となるシンセサイザーもロブ・キルゴアに任された。これらのミュージシャンは、シャノンの”Let the Music Play”を制作したスタッフ、という[i]。この起用は、ロビンが積極的にこうしたサウンドを目指した、ということもあるだろう。前作以上に、新しい音楽動向に対応しようとした様子が見て取れる。すべて、いわゆる80年代前半に主流だったテクノ・ポップあるいは打ち込みサウンドで、アルバムを重ねるごとにその傾向が強まっている。無論、セールス面を考慮しただろうし、ロビン自身にも、流行の音楽に対する好奇心と積極性があったようだが[ii]ビー・ジーズのアルバムとも異なり、自分の声を楽器のようにサウンドに組み込むようなプロデュースの方針は、本心から彼の望んだことだったのだろうか。

 『シークレット・エイジェント』のサウンドは、前作以上に機械的で人工的なものとなり、ELOというより、当時人気爆発したフィル・コリンズあたりのサウンドやヴォーカルを意識しているようにも見える。『ハウ・オールド・アー・ユー』の楽曲には、まだ60年代のキャッチーでポップな香りが残っていたが、本作では、曲作りの手法も少し変化したようでもある。『サイズ・イズント・エヴリシング』(1993年)あたりの技法に近いのかもしれない。

 

A1 「ボーイズ・ドゥ・フォール・イン・ラヴ」

A2 「イン・ユア・ダイアリー」(In Your Diary, R, M. and B. Gibb)

 2曲目にして、早くもデジャ・ヴュのような感覚に陥る。どれもこれも同じような曲に聞こえるのは、前作もそうだったが。

 「イン・ユア・ダイアリー、オー、イン・ユア・ダイアリー」とワン・フレーズを繰り返す手法は、本アルバムではこの後もほとんどの曲で踏襲される。いわば「トラジディ」・メソッドだが、この時期のロビンの作曲の発想だったのだろうか。あるいは、この曲の作曲に加わっているバリーのアイディアだったのか。

 

A3 「ロボット」(Robot, R. and M. Gibb)

 本アルバムについて、「未来的」[iii]とのロビンのコメントがあるが、この曲なぞが差し詰めそれに該当するのだろうか。何しろ、タイトルが「ロボット」だ。「ロ、ロ、ロ、ロボット」のフレーズを聞くと、すっかりこの唱法が気に入ってしまったのだな、と少々うんざり気味につぶやく。

 

A4 「レベッカ」(Rebecca, R. and M. Gibb)

 タイトルは、ダフネ・デュ=モーリアの『レベッカ』から取られているのだろうか。

 このシンセサイザーサウンドにゴシック・ロマンスは似合わないと思うのだが、楽曲は、本アルバムの中でもベストと言えるだろう。あまり区別はつかないのだが。

 「レベッカ~」のリフレインは、またかと思わせるが、ロビンらしい哀感も漂う。

 

A5 「シークレット・エイジェント」(Secret Agent, R. and M. Gibb)

 前曲の「レベッカ」は、小説よりヒッチコックの映画のほうをモチーフにしているのかもしれない。続く「シークレット・エイジェント」も何となく映画的と感じるのは、ジェイムズ・ボンドを連想してしまうせいか。

 サビのメロディは、従来のロビンっぽさを残しているようだ。

 

B1 「リヴィング・イン・アナザー・ワールド」(Living in Another World, R, M. and B. Gibb)

 この曲も、バリーが作曲に参加している。「リヴィング・イン・アナザー・ワールド、ウォ、ウォ、リヴィング・イン・アナザー・ワールド」と繰り返すのは、他の曲と同工異曲だが、この早口言葉のような小刻みなメロディは、バリーの提供したものだろうか。

 サウンドは、さらにテクノ・ポップ風味が増して、ロビンが言うところの「未来風」か。

 

B2 「エクス・レイ・アイズ」(X-Ray Eyes, R. and M. Gibb)

 前曲をさらにメカニカルにしたかのようなナンバー。「シー・ガット・エクス・レイ・アイズ、シー・ガット・エクス・レイ・アイズ」と繰り返すのも、もはや既視感を通り越して、左の耳から右に抜けていく。

 曲そのものは決して悪くはないのだが。

 

B3 「キング・オヴ・フールズ」(King of Fools, R. and M. Gibb)

 この曲になると、比較的ロビンらしさが伝わってくる。「アーハ、キング・オヴ・フールズ」の繰り返しは、本アルバムでは毎度おなじみだが、「アーハ」は、「アイランズ・イン・ザ・ストリーム」の名残だろうか。

 

B4 「ダイアモンズ」

 

[i] Joseph Brennan, Gibb Songs, Version 2: 1984.

[ii] The Bee Gees: Tales of the Brothers Gibb, p.553.

[iii] Ibid.