ビー・ジーズ1983(2)

ケニー・ロジャースドリー・パートンアイランズ・イン・ザ・ストリーム」(1983.8)

1 「アイランズ・イン・ザ・ストリーム」(Islands in the Stream, B, R. and M. Gibb)

 最初はデュエット曲ではなかったらしい。経緯はわからないが、最終的にケニー・ロジャースドリー・パートンの競演となった。「ギルティ」の成功が誰かの頭にあったのだろうか。

 しかも最初はカントリーではなく、ソウル・ミュージックとして書かれたらしい[i]。言われてみれば、そんな風に聞こえないこともない。連発される”Ah, ha.”のあたりがそうだ。『メイン・コース』のように、もともとアメリカ人でもないが、ソウルにもカントリーにも魅かれてきたギブ兄弟ならではの芸だろうか。

 いずれにしても、比較的地味なこの曲が、カントリーとしてはまれにみる大ヒットになった。ビルボード誌で2週間1位だったが、プラチナ・シングルとなり、ロジャースの代表作『レイディ』をも上回るセールスを記録した。サビの旋律の美しさと、上述の「アッハ~」のおかげだろうか。「ギルティ」のバリーは残念ながら邪魔に感じてしまうが、さすがにロジャースとパートンは貫録を見せて、息のあったデュエットを聞かせる。この二人の掛け合いの妙も、国民的ヒットになった要因だろう。

 ビー・ジーズにとっては、「ウーマン・イン・ラヴ」、「ギルティ」、「ハートブレイカー」と並ぶ80年代の代表作となった。またソングライターとしては、バリー・ギブにとって7曲目の全米ナンバー・ワン曲である(ビルボード誌)。

 

2 「アイ・ウィル・オールウェイズ・ラヴ・ユー」(I Will Always Love You, B. and M. Gibb)

 カントリーというより、歌い上げるタイプのポップ・バラード・ナンバー。むしろバリー・マニロウあたりが歌いそうだ。バリーとモーリスの共作としては、珍しい曲調かもしれない。

 それほど個性的な曲とは言えないが、ヴォーカルと掛け合いになるコーラスの部分には、ビー・ジーズらしさがあふれている。

 

ケニー・ロジャース『愛のまなざし』(Kenny Rogers, Eyes That See in the Dark, 1983.8)

 男性シンガーのプロデュースは、アンディ・ギブ以来だったが、アンディが身内だったことを考えると、ケニー・ロジャースの楽曲を書くということも、新しい挑戦だったといえる。

 しかもロジャースがカントリーの大物だったことから、必然的に、アルバムの性格は、ストライサンドやウォーリクとは異なることになった。二人の女性シンガーのアルバムでは、ピアノやシンセサイザーのキーボードがサウンドの要になっていたが、『アイズ・ザット・シー・イン・ザ・ダーク』は、思いのほかギター中心の曲が多い。

 当然カントリー調の作品が多く含まれているが、カントリーというよりポップ、あるいはカントリーでもポップな楽曲が大半なのは、やはりビー・ジーズならではだろう。今回、とくにモーリスの存在が目立っているのは、そのせいもある。作曲も、ギブ兄弟による楽曲が5曲というのはこれまでどおりだが、残りのうち2曲だけがバリーとガルテンの共作で、残りの3曲はバリーとモーリスの共作となっている。

 全体としては、『ギルティ』や『ハートブレイカー』よりも地味な印象だが、楽曲は粒がそろっている。「アイランズ・イン・ザ・ストリーム」を除くと、強力な曲が見当たらないが、高品質な楽曲を提供してヒット・アルバムに仕上げたのは、さすがの手腕といえるだろう。

 

A1 「ジス・ウーマン」(This Woman, B. Gibb and A. Galuten)

 意外なほど豪快なギターで始まるカントリー・ロック。まるでイーグルズのようだ。ガルテンとの共作から始まるのは珍しいが、曲自体はバリーの好みのほうが出ている感じがする。

 サード・シングルで全米23位に入った。

 

A2 「ユー・アンド・アイ」(You And I, B, R. and M. Gibb)

 1曲目とは打って変わって、メロディアスなスロー・バラード。とにかく、イントロのバリーによるコーラスが美しい。まるごとビー・ジーズという感じで、「アイ・スティル・ラヴ・ユー」のサビを思わせる。

 もちろんヴァースとコーラスのメロディもよいが、イントロが最高というのは、やや皮肉な言い方になるか。とはいえ、本作でも一、二を争う佳曲だ。

 

A3 「ベリード・トレジャー」(Buried Treasure, B, R. and M. Gibb)

 再び、がらりと変わって、どカントリー・ナンバーが登場する。サビの展開はモーリスの作風に近く、彼が中心となって書いている、と感じさせる。

 この辺はカントリー・シンガーのケニー・ロジャースを充分意識した曲作りだ。

 

A4 「アイランズ・イン・ザ・ストリーム」

A5 「リヴィング・ウィズ・ユー」(Living with You, B, R. and M. Gibb)

 カントリー・ポップの「アイランズ・イン・ザ・ストリーム」に続いて、A面ラストは、ソウル・ポップ・ナンバーで締めくくられる。70年代のビー・ジーズのスタイルを連想させる。

 こうしてみると『アイズ・ザット・シー・イン・ザ・ダーク』のA面は、様々な傾向の曲で構成されており、かなり多彩な印象だ。

 

B1 「イヴニング・スター」(Evening Star, B. and M. Gibb)

 「ベリード・トレジャー」に続き、再びカントリー一色のナンバーがB面トップに出てくる。作者がバリーとモーリスで、こちらも明らかにモーリスの個性が出ている。

 カントリーのガトリン・ブラザーズによるコーラスも、「ベリード・トレジャー」と同じで、ストライサンドやウォーリクのアルバムとは一味違うアクセントを与えている。

 

B2 「ホールド・ミー」(Hold Me, B, R. and M. Gibb)

 再び曲調は変わって、今度は三拍子のバラード。カントリーというより、ソウル・バラードの雰囲気で、ロジャースは巧みに歌いこなしている。

 こうして聞くと、ロジャースのハスキーな声はソウル風でもあり、要するに、ソウルでもカントリーでも歌えるポップ・シンガーということだろう。

 

B3 「ミッドサマー・ナイツ」(Midsummer Nights, B. Gibb and A. Galuten)

 「ジス・ウーマン」以来のガルテンとの共作で、同様に本アルバムでは数少ないアップ・テンポのナンバー。「ジス・ウーマン」はカントリー・ロックだったが、こちらは都会的なポップ・ロックで、ガルテンの味が強く出ているようだ。

 後半、バラードが続くなかで、口直しのような役割か。

 

B4 「アイ・ウィル・オールウェイズ・ラヴ・ユー」

B5 「愛のまなざし」(Eyes That See in the Dark, B. and M. Gibb)

 正攻法のバラードといった感じの前曲の後、アルバムを締めるのは、同じバラードだが、もっとさりげない弾き語りのような作品。サビで高音にホップするというのではなく、いってみれば「ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ」のような、メロディがなだらかに展開していく曲調だ。

 シングル・カットされたが、アメリカ、イギリスともヒットしなかった。

 

[i] The Bee Gees: Tales of the Brothers Gibb, pp.540-41.