60年代ポップ、この一曲① カウシルズ「雨に消えた初恋」

 ウシも知ってるカウシルズ。

 大橋巨泉による、この1960年代を象徴する渾身のギャグを覚えている人は、どれほどいるのだろう(そもそも大橋巨泉を知らない人が多いか)。

 あの頃(1968年)、「ビート・ポップス」というテレビ番組がありまして、要するに洋楽のベスト・テン(ベスト・トウェンティ?)を毎週発表する番組で、土曜日の午後に放送していた[i]。といっても海外のスターが登場するわけでも、MTVを放映するでもなく(まだそんな時代ではなかった。来日アーティストが出演することはあったらしい)、ただランキングに合わせてレコードをかけて、画面では髪の長い姉ちゃんたちがくねくねと踊りまくるという、今思うとシュールリアリスティックというか、当時の言葉で言えばサイキデリックというか、ゴー・ゴー・ダンスというか(意味も分からず言ってます)、まことに奇妙奇天烈な番組だった。まだ子どもだったわたしは、学校から帰ってきて昼ご飯を食べ終えると、そんなお姉ちゃんたちをボーッと口をあけて眺めていたが、MCを務めていたのが大橋巨泉で、それに星加ルミ子『ミュージック・ライフ』編集長がいたっけ。音楽評論家の木崎義二も。さらに踊っている女性たちの振り付けをしていたのが藤村俊二だったことは覚えている(一緒に踊っていた)。

 そこで巨泉が繰り出した必殺のフレーズが冒頭の一言で、もちろん「雨に消えた初恋」がヒットしていたからである。

 「雨に消えた初恋」。なんという甘酸っぱくも、せつない、魅力的なタイトルであろう。しかし、原題はThe Rain, The Park and Other Thingsで「雨が降っていて、公園で、あといろいろ」って、何の状況説明だ!殺人事件の目撃証言(!)としても、まったく具体性がない。失格!

 などと言いたくなるほどで、邦題に関しては日本のレコード会社スタッフが優秀だったのだろう。原題をみるに、こんなんでヒットしたとは、アメリカの音楽ファンは詩的センスというものがないのか。

 しかし曲自体は、ポッ、ポッ、ポッ、ポッというイントロから(SLじゃないよ、鳩でもないよ)、流れるようなリズムに乗って、ファミリー・グループ(カウシルは、もちろん一家の名前)特有の爽やかなかけあいコーラスが耳に心地よい珠玉のアメリカン・ポップである。

 「アイ・ソー・ハー・シティン・イン・ザ・レイン。レイドロップス・フォリン・オン・ハー」、「シ・ハ・メイミ・ハピー、ハピー、ハピー。シ・ハ・メイ・ハ・フラワー・イン・ハ・ヘア、フラワーズ・エヴリウェー!」と言葉が音に乗って、まるで雨粒のようにころがっていく。意味は分からずとも、なんとも音楽的に響いたものだ。コーラスはビーチ・ボーイズやママス・アンド・パパスなどの影響を受けているのだろう[ii]が、自在に飛び跳ね弾けるような歌声には、しかし、大人のグループにない初々しさと無邪気さがあふれていた。

 実際、これほど無垢で純粋で汚れのない、明るく夢見るようなポップ・ソングがあるだろうか、いや、ない。そう断言したくなるほどの60年代ポップの傑作、いや大傑作、それどころか超傑作である。

 「ぼくが彼女を見たのは雨の中。座っている彼女に雨が降り注いでいた。それでも平気な顔で、ぼくに微笑みかけたんだ。・・・彼女はぼくを幸せにしてくれる。彼女の髪を花が飾っていた。まわりじゅう花でいっぱい。・・・ぼくは花のような少女に恋をした。・・・突然陽が差して、気がつくと彼女の姿は消えていた。手のひらに花びらひとつを残して。・・・でも、あの子は教えてくれた、どうすれば晴れた日と出会えるかってことを。」

 曲も歌詞も、まさにハッピー・ソング、ハッピー・ミュージックだが、今見返すと、1967年当時のフラワー・ムーヴメントを意識した歌詞でもあったようだ[iii]。作曲はプロデューサーのアーサー・コーンフェルド(Arthur Cornfeld)とスティーヴ・デュボフ(Steve Duboff)のコンビで、全米2位の大ヒットとなった。

 シングルの勢いに乗って出たデビュー・アルバム『ザ・カウシルズ(The Cowsills)』(二十年以上もたってからCDで初めて聞いた)[iv]のクレジットをみると、結構メンバーのオリジナルも含まれていて、全12曲のうち、半数以上でカウシル兄弟(長兄のビルと三男のボブ)がソング・ライティングに加わっている。なかでは、ちょっとイギリスっぽい「ペニーズ(Pennies)」が、なかなかキャッチーなサビを聞かせる[v]

 デビュー・アルバムには入っていないが、二枚目のシングル「空飛ぶ心(We Can Fly)」[vi]は、ビルとボブ兄弟がコーンフェルド=デュボフとともに書いた曲で、デビュー曲以上に爽快なコーラス・ナンバーになっている。全米21位を記録したので、カウシル兄弟によるオリジナルの代表作といえるだろう。

 ちなみにメンバーは、ビル・カウシルとボブ・カウシル(いずれもギター)のほかに、バリー・カウシル(ドラム、のちにベース)、ジョン・カウシル(ドラム)に母親のバーバラ・カウシル(コーラス)で、やがてポール・カウシル、スーザン・カウシルが加わる、という構成だったらしい(カウシルだらけだって?カウシルズだもん)。ボブには双子の兄弟リチャードがいるが、正式メンバーではなかったようだ。

 担当楽器やらは、この記事を書くのに参照したウィキペディアで初めて知ったが[vii]、生まれた順番や生年月日は、いまだによくわからない。

 自作曲で大ヒットはないが、カウシル兄弟はなかなか良い曲を書いていて、ことに『キャプテン・サッド・アンド・ヒズ・シップ・オヴ・フールズ(Captain Sad and His Ship of Fools)』(1968年)[viii]に入っているタイトル曲や「ニューズペイパー・ブランケット(Newspaper Blanket)」、「ミート・ミー・アット・ザ・ウィッシング・ウェル(Meet Me at the Wishing Well)」などは佳曲である。いずれも明るいだけではない、感傷や悲哀を感じさせるメロディがよい。それでいて、暗くなりすぎない清々しさが、このグループの魅力であり、個性でもあった(あるいは限界でも?)。

 

 と、まあ、こんな風に、十代の少年少女と母親からなるカウシル一家は、絵に描いたごとき幸福なアメリカン・ファミリーに見えたものである。

 ただ、絵に描いた餅は、しょせん絵に描いた餅なので、現実の世界はそこまで予定調和的ではない。長兄でグループのリーダー/メイン・ヴォーカリストだったビル・カウシルが交友関係が原因で父親との間で暴力沙汰を起こし、グループを首になった[ix]。ハッピー・ファミリーもいつまでもハッピーではいられない、というのも人生だから致し方ない。

 こうしたトラブルが起きる前、1969年に、カウシルズは「ヘアー(Hair)」[x]という、それまでのグループのイメージを覆すシングルをレコーディングしている。いわゆるヒッピー文化を題材にした超問題ミュージカルのタイトル・ナンバーで、当時ラジオから聞いたときは、また、どえらい曲をやってもうたなー、と思った。しかし、ビル・アンド・ボブ・カウシルがアレンジとプロデュースを担当し、メンバーが次々にリードを取って目まぐるしく声が右に左に交錯する。アレンジにも凝った意欲作で[xi]、結果的にカウシルズを代表する力作となった。「雨に消えた初恋」と並ぶ全米2位、そしてミリオン・セラー。結果的にカウシルズの最高傑作ともいえる。

 「雨に消えた初恋」と「ヘアー」。言ってみれば、これら二つのヒット曲が、カウシルズを象徴している。明るく溌溂としたポップ・コーラス・ナンバーと60年代末の不安な空気を今に伝える前衛的作品。それがわずか二年の間の出来事だったというのも、劇的にして暗示的である。

 

 ところで、1970年に「悲しき初恋(I Think I Love You)」という曲をビルボードの1位に送り込んだパートリッジ・ファミリーというグループは、『パートリッジ・ファミリー』という架空のバンドを主役にしたテレビ番組から生まれた音楽グループだったが(といっても、わたしは見たことがない)、この架空バンドはカウシルズがモデルだったといわれている[xii]。パートリッジ家の長男を演じたのがデイヴィッド・キャシディで、「悲しき初恋」のリード・ヴォーカルだった。母親役が実際にキャシディの義理の母親で有名女優だったシャーリー・ジョーンズ、そしてジョーンズの息子でキャシディの腹違いの弟が1970年代後半にアイドル・シンガーとして大ヒットを連発したショーン・“ドゥロンロン”・キャシディである。こちらも、今じゃ知ってる人のほうが珍しいじゃろ。なつかしいのう(なぜに突然日本昔話)。

 

 今や、ワシぐらいしか知らないカウシルズであるが、「雨に消えた初恋」の魅力は永遠に褪せることはない。ポップ・ミュージックが、あれほどまでに無垢で無邪気であることが許された時代は、二度と来ないだろうからである。



[i] インターネットで検索したら、すでに1966年から放映していたということである。ビックリしたなあ。「ウィキペディア ビートポップス」(2026年8月10日閲覧)。

[ii] ライヴ・アルバム『カウシルズ・イン・コンサート(The Cowsills in Concert)』(1969年)では、ママス・アンド・パパスの「マンデイ・マンデイ(Monday, Monday)」とビーチ・ボーイズの「グッド・ヴァイブレーションズ(Good Vibrations)」が歌われている。

[iii] The Best of The Cowsills (Polydor, 2001), Liner notes by Bill Pitzonka.

[iv] The Cowsills (PolyGram Records, 1994).

[v] カウシルズのアルバムは持っていなかったが、当時四曲入りEPレコード(というものがありました)を買って、「雨に消えた初恋」も「空飛ぶ心」も、そのEPで聞いていた。そのなかに「ペニーズ」も入っていた。

[vi] フィフス・ディメンションの「ビートでジャンプ(Up, Up and Away)」(ジミー・ウェッブ作)を思わせるWCF(ウィ・キャン・フライ)ポップ(?)の快作。

[vii] The Cowsills: Wikipedia. (20250206).

[viii] Captain Sad and His Ship of Fools (Cherry Red Records, 2009).

[ix] The Cowsills: Wikipedia. (20250206).

[x] フィフス・ディメンションのメガ・ヒット「輝く星座(Aquarius/Let the Sunshine In)」とともに、ミュージカル「ヘアー」の作中曲。

[xi] The Cowsills: Wikipedia. (20250206).

[xii] The Cowsills, Liner notes.