ビー・ジーズ・トリビュート・アルバム1996-1998

Soul of the Bee Gees (US, 1996)

01 Al Green, How Can You Mend A Broken Heart (1972)

02 Rufus featuring Chaka Khan, Jive Talkin’ (1975)

03 Candi Staton, Nights on Broadway (1977)

04 Portrait, How Deep Is Your Love (1995)

05 Dionne Warwick, Heartbreaker (1982)

06 Percy Sledge, I’ve Gotta Get A Message to You (1975)

07 The Staple Singers, Give A Hand, Take A Hand (1971)

08 Richie Havens, I Started A Joke (1969)

09 Nina Simone, Please Read Me (1968)

10 Jerry Butler and Thelma Houston, Love So Right (1977)

11 Yvonne Elliman, If I Can’t Have You (1977)

12 Tavares. More Than A Woman (1977)

13 Samantha Sang, Emotion (1977)

14 Robin Gibb, Toys (1985)

 1996年に発売されたビー・ジーズのトリビュート・アルバムだが、1993年の『ソングブック』とかなり重複しており(01、02、03、05、07、12、13)、さらに、イヴォンヌ・エリマンもわざわざここで聞かせてもらうまでもない。ロビンの「トイズ」も1990年のボックス・セットに収録済みだった[i]。『ソングブック』に比べると、かなり見劣りする残念な出来である。

 ブレナンが指摘している[ii]ように、ブラック・アーティスト中心の選曲なので、タイトルも『ソウル・オヴ・ザ・ビー・ジーズ』なのだろうが、コンセプト・アンド・ディレクションがSaul Davisという人物なので[iii]、それも理由なのだろうか。

 それでも、何曲か、初めて耳にする曲があって、それらはなかなか楽しめる。

 ポートレイトの「ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ」は、アコースティック・ギターをバックに、原曲よりさらにスローだが、瑞々しく爽快なカヴァーになっている。翌年にイギリスでナンバー・ワンになったテイク・ザットのヴァージョンと似た印象で、一年早くイギリスで41位にランクされた[iv]。1996年にテイク・ザットとボーイゾーンの「ワーズ」がナンバー・ワンとなって、イギリスにおけるビー・ジーズのカヴァー・ブームに火が付くのだが、生憎ポートレイトのヴァージョンは火付け役にはなれなかった。しかし、フィンガー・スナップなどを交えた若々しいコーラス・ワークは、テイク・ザットのヴァージョン以上に洗練された味わい。

 パーシィ・スレッジの「獄中の手紙」も艶のあるヴォーカルが大人の魅力を感じさせて、やはり黒人アーティストが歌う本曲は映える。

 リッチー・ヘイヴンズの「アイ・スターテッド・ア・ジョーク」も飄々とした味のあるヴォーカルで聞かせる。ワン・コーラスで終わってしまうのは惜しい。

 ニーナ・シモンの「プリーズ・リード・ミー」は意外な選曲だが、ライヴらしく、ピアノをバックにソウルフルというより、しっとりとした歌声を聞かせる。さすがの歌心で、原曲のあっけらかんとしたコーラスと違い、切々と訴えかけるような情感あふれるヴォーカルが原曲のイメージを一新させている。

 ジェリィ・バトラーとセルマ・ヒューストンの「ラヴ・ソー・ライト」もライヴだが、実際は「ラヴ・ソー・ライト」とシカゴの「イフ・ユー・リーヴ・ミー・ナウ(If You Leave Me Now)」のメドレーになっている。どちらも1976年のヒット曲で、メドレーというより、自在に二曲を接ぎ木しながら、「ラヴ・ソー・ライト~」のコーラスで盛り上げるサビは圧巻だ。5分超を飽かせることなく歌に引きこんでいく二人の熟練の掛け合いが素晴らしい。

 

We Love the Bee Gees (Germany: BMG, 1997.12)

01 Take That, How Deep Is Your Love (1996).

02 Sash! Featuring Debbie Cameron, Too Much Heaven.

03 Captain Jack, You Win Again.

04 Masterboy, Nights on Broadway.

05 U96, World.

06 Element of Crime, I Started A Joke.

07 Vivid, Massachusetts.

08 Trieb, More Than A Woman.

09 Nana, Too Much Heaven.

10 3 Deep, Juliet.

11 Andreas Dorau, Die Menschen Sind Kalt (Wind of Change).

12 Whirlpool Production, Tragedy.

13 Three ‘N One, You Should Be Dancing.

14 Ex-It, Night Fever.

15 Marusha, World.

16 ‘N Sync, Bee Gees Tribute: Jive Talkin・’Too Much Heaven・How Deep Is Your Love・Stayin Alive.

 ドイツ産のトリビュート・アルバム[v]。若手アーティストによって、主として1970年代後半のディスコ・エイジにおけるヒット曲を中心にカヴァーされている。

 何しろ、若手(当時)のヒップ・ホップやテクノのバンド中心なので、かなり大胆なカヴァーが多い。

 03の「ユー・ウィン・アゲイン」や09の「トゥ・マッチ・ヘヴン」、14の「ナイト・フィーヴァー」などがヒップ・ホップによるアレンジで、大体予想通り。しかし、09は、ヴォーカル・パートも強力で、14も、オリジナル顔負けのファルセットで大いに盛り上がる。

 12の「トラジディ」、13の「ユー・シュッド・ビー・ダンシング」は、サンプリングを使って、原曲を解体して継ぎ合わせたナンバーで、これらもいかにもといったところか。

 08の「モア・ザン・ア・ウーマン」は、軽やかだが落ち着いたヴォーカルと、弾むようなサウンドが相まって、好ましい出来。10の「ジュリエット」も原曲がそもそもテクノ・ポップ風なので、それを90年代風に強化したサウンドだが、思ったよりオリジナルを忠実に再現している。

 02の「トゥ・マッチ・ヘヴン」は、09と比べて、オリジナルに近いが、女性ヴォーカルのソウルフルな歌声が曲にうまく合っている。04の「ナイツ・オン・ブロードウェイ」も、原曲よりもシャープなサウンドで、同時に原曲のコーラスを上手くアレンジしている。

 05の「ワールド」は冒頭がオペラかと思うようなヴォーカルで始まるが、全体の印象は、随分スペイシーなアレンジで、まるでプログレッシヴ・ロックのように聞こえる。一方、15の「ワールド」は、ダンス・ビート・ヴァージョンだが、インストルメンタル・パートを増やして、新しい魅力を生み出している。

 07の「マサチューセッツ」や08の「アイ・スターテッド・ア・ジョーク」の60年代の楽曲は、かなり自由なアレンジで、原曲を聞きなれた耳には新鮮というか、別の曲に聞こえる。

 だが、目玉となるのは何といっても01のテイク・ザットの「ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ」だろう。イギリスでナンバー・ワンとなって、ドイツでも7位にランクした[vi]。このトリビュート・アルバムの企画も、恐らくテイク・ザットの成功に刺激されたものなのだろう。ギターの弾き語りのようなシンプルなスタイルだが、ビー・ジーズのオリジナルとは、また違った巧みなコーラス・ワークで、原曲の魅力を存分に引き出している。

 もうひとつの聞きものは16のメドレーで、ヴォイス・パーカッションを交えて、ア・カペラで見事に曲をつないで3分足らずでまとめている[vii]

 変わったところでは、11のドイツ語版「ウィンド・オヴ・チェンジ」で、サビのメロディアスなコーラスを中心に構成して、なかなか聞かせる。

 全体を見渡した特徴は、何曲か重複して収録されていることで、「トゥ・マッチ・ヘヴン」など、聞き比べることができる。「ワールド」も複数カヴァーされているが、さすが同曲がチャート1位を記録したドイツならではということだろうか。そういえば、ロビンのソロの「ジュリエット」もドイツでは1位になっている。

 このアルバムからはCDシングルもリリースされた[viii]そうで、ナナの「トゥ・マッチ・ヘヴン」が、ドイツで2位まで上昇するヒットになった[ix]

 

Gotta Get A Message to You (UK: Polydor, 1998.10)

01 911, More Than A Woman.

02 Ultra Naté, How Deep Is Your Love.

03 Steps, Tragedy.

04 Boyzone, Words ’98.

05 Cleopatra, Gotta Get A Message to You.

06 Adam Garcia, Night Fever.

07 Space, Massachusetts.

08 Louise, If I Can’t Have You.

09 Robbie Williams & the Orb, I Started A Joke.

10 Monaco, You Should Be Dancing.

11 Dana International, Woman in Love.

12 Spikey T & Gwen Dickey, Guilty.

13 Lightning Seeds, To Love Somebody.

 1998年のトリビュート・アルバムは、テレビ局のライヴ・チャレンジ99(Live Challenge ’99)というチャリティ企画(?)の一環として制作されたものらしい[x]。北西イングランドのホームレスの若者救済のためのプロジェクト[xi]で、ギブ兄弟の故郷マンチェスターも含まれている。本命(?)のイギリス・ポリドールからの発売で、チャリティ企画ということでお金もかけているのか、アルバム・ジャケットは安っぽいが、各アーティストのコメント入り写真を掲載したブックレットは、なかなか立派。すべて新作ということでか、収録も13曲と押さえ目(ただし、ボーイゾーンの「ワーズ」はリメイク版)。

 新世代(当時)のコーラス・グループが入っているせいか、えらく元気のいい曲が多い。911の「モア・ザン・ア・ウーマン」、ステップスの「トラジディ」が典型だが、前者など、派手々々しくキラキラした印象で、まるでオズモンズが歌っているような、何とも若々しくて爽やかなカヴァーである。「トラジディ」も同様だが、女声のリード・ヴォーカルがファルセットとは一味違う落ち着きを見せて、しかし、スピーディで華やかで屈託がない。ボーイゾーンの「ワーズ」は1996年のヒットと基本的に変わらないようだが、原曲の構成を大胆に組み替えて、クライマックスを先に持ってくることで人気を博したようだ。これらのカヴァーは、いずれもオリジナルに忠実で、そのことはステップスの「あまり変えなかった。90年代風にアップ・デートしただけ」というコメントからもうかがえる[xii]

 02の「ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ」は、最初、テクノ風?と思うイントロだが、ヴォーカルは原曲以上にロマンティックで、しかもセクシーで引き込まれる。08の「イフ・アイ・キャント・ハヴ・ユー」も、オリジナルをくずした、随分おしゃれな導入から、基本的には原曲を活かしたアレンジで、こちらもチャーミングな出来。クレオパトラのアルバム・タイトル曲は、ガールズ・グループのカヴァーで大変キュートな「獄中の手紙」になっている。ソウル・バラード風のしなやかなアレンジは、シュープリームスがカヴァーしたらこうなりそうな印象。

 これまで自由な解釈のトリビュート・アルバムも多かったせいで逆にそう思うのか、あるいはチャリティ企画なので、より広いリスナーをターゲットにしたせいか、はたまた人気アーティストたちによるカヴァー集だからか、オリジナルを大胆に改変したカヴァーは比較的少ない。そのなかで異彩を放っているのが、07の「マサチューセッツ」と09の「アイ・スターテッド・ア・ジョーク」だろう。前者は、パンク・バンドがお遊びでカヴァーしているような奔放さで、コメントには「俺たちがこの曲を選んだのは、マネージャーがマサチューセッツと書けるかどうか知りたかったからさ」[xiii]って、さすがです、イングリッシュ・ジョーク。後者は、SF的、あるいはテクノ・レゲエ的なアレンジで、さらにアヴァンギャルドというか、シュールリアリスティックというか、すごいです。10の「ユー・シュッド・ビー・ダンシング」もダンスはダンスでも、90年代風メカニカルなモダン・ポップ・サウンドなので、原曲のおとなしめなディスコとは大違いだ。

 アダム・ガルシアの「ナイト・フィーヴァー」は、ロンドン・ミュージカルの『サタデイ・ナイト・フィーヴァー』の主演者によるカヴァーだけあって、まさにステージの、そして映画の、あのダンス・シーンが目の前に浮かんでくるようだ。

 バーブラ・ストライサンドのアルバムからの2曲もいずれも聞きごたえがある。11の「ウーマン・イン・ラヴ」は、あえて原曲に忠実で、ストライサンドに張り合うかのようなヴォーカルを聞かせる。12の「ギルティ」も、原曲よりラフでライヴ感いっぱいのデュエットだが、どこか南国リゾート風、あるいはレゲエ風のニュアンスで、しかし、オリジナルのストライサンドに負けない(バリーには勝っている?)歌唱で魅了する。

 ラストは、ギターの弾き語りによるフォーク・ソング版の「トゥ・ラヴ・サムバディ」だが、けれん味のないアレンジで、飾らない歌声とコーラスが原曲の魅力をさらに高めている。

 このアルバムからは、何曲かシングル・カットされたようで、イギリスのチャートでは、911の「モア・ザン・ア・ウーマン」が2位、ステップスの「トラジディ」は1位に輝いた[xiv]

 

[i] Bee Gees, Tales from the Brothers Gibb: History in Song 1967-1990 (Polydor, 1990), Disc 4.

[ii] Gibb Songs, Version 2: 1996.

[iii] Soul of the Bee Gees (The Right Stuff, 1996).

[iv] Melinda Bilyeu, Hector Cook and Andrew Môn Hughes, The Bee Gees: Tales of the Brothers Gibb (New edition, Omnibus Press, 2001), p.708.

[v] J. Brennan, Gibb Songs, Version 2: 1997.

[vi] The Bee Gees: Tales of the Brothers Gibb, p.708.

[vii] ドイツでの音楽賞の授賞式でライヴで披露したものを、本アルバムのためにレコーディングしたのだという。We Love the Bee Gees (BMG, 1997).

[viii] Gibb Songs, Version 2: 1997.

[ix][ix] The Bee Gees: Tales of the Brothers Gibb, p.708.

[x] Ibid., p.642.

[xi] Gotta Get A Message to You.

[xii] Ibid.

[xiii] Ibid

[xiv] The Bee Gees: Tales of the Brothers Gibb, p.708.