ビー・ジーズ・トリビュート・アルバム1993-1994

Bee Gees Songbook: The Gibb Brothers by Others (UK, 1993).

01 Adam Faith, Cowman Milk Your Cow (1967)(B. & R. Gibb).

02 Billy Fury, One Minute Woman (1968).

03 Nina Simone, I Can’t See Nobody (1969).

04 Jose Feliciano, First of May (1969).

05 Sandy Shaw, With the Sun in My Eyes (1969).

06 Lulu, Melody Fair (1970).

07 Tim Rose, I’ve Gotta Get A Message to You (1970).

08 Al Green, How Can You Mend A Broken Heart (1972).

09 The Staple Singers, Give A Hand, Take A Hand (1971).

10 The Searchers, Spicks & Specks (1973).

11 Rufus, Jive Talkin’ (1976).

12 Candi Staton, Nights on Broadway (1977).

13 Tavares, More Than A Woman (1977).

14 Samantha Sang, Emotion (1977).

15 Rita Coolidge, Words (1978).

16 Elaine Paige, Secrets (1981).

17 Leo Sayer, Heart (Stop Beating in Time)(1982).

18 Dionne Warwick, Heartbreaker (1982).

19 Jimmy Somerville, To Love Somebody (1990).

20 Beautiful South, You Should Be Dancing (1992).

 1993年にリリースされた、ギブ兄弟の楽曲カヴァー集だが、90年代のビー・ジーズのトリビュート・アルバム大量出荷の皮切りとなったアルバムである。ジョセフ・ブレナンがGibb Songsで紹介しているので、ここでも取り上げることにする。

 はじめ見つけたときには、こんな曲が、と思ったのが何曲かあって、驚くやら、うれしいやらで、興奮した。筆頭がアダム・フェイスの「カウマン・ミルク・ユア・カウ」だったが、もっとも、タイトルはいかにもくだらなさそうな駄曲という印象で、一聴した感想もそれとあまり変わらなかった。しかし、メロディはなかなか魅力があり、サイキデリック風という点では、『ビー・ジーズ・ファースト』との親近性も感じられて興味深い。まあ、これじゃとてもヒットはしないだろうな、とは思ったが。

 ビリー・フューリィの「ワン・ミニット・ウーマン」やサンディ・ショウの「ウィズ・ザ・サン・イン・マイ・アイズ」などは、改めて原曲の良さが伝わってくる。後者は、女性ヴォーカルで聞くと、本当に讃美歌のようだ。

 ルルは、いくつもビー・ジーズのカヴァーを歌っているが、「メロディ・フェア」は、「窓辺で(しょんぼりと)降る雨を眺めている女の子」の背中をどやしつけるような姉御っぷりで、バック・コーラスとの大雑把なかけ合いはミュージカルを見ているようだ(ルルがモーリスと結婚していたことも、最近は知らないファンが多いのでしょうね)。

 ニーナ・シモンの「アイ・キャント・シー・ノウバディ」はさすがの貫録だし、ティム・ロウズやアル・グリーンのソウル風カヴァーも、オリジナルとは違ったムードがある。

 ホセ・フェリシアーノの歌声もソウルフルだが、ストリングスをバックにギターの弾き語りで聞かせる「ファースト・オヴ・メイ」は、バリーのオリジナル以上に哀感をたたえて、素晴らしく感動的だ。

 ステイプル・シンガーズの「ギヴ・ア・ハンド・テイク・ア・ハンド」は、後にビー・ジーズがセルフ・カヴァーした曲(『ミスター・ナチュラル』)だが、やや生硬な後者に比べ、しなやかなコーラスなど堂に入ったゴスペル調で、まるで教会堂で聞いている感覚になる。

 これに対し、サーチャーズの「スピックス・アンド・スペックス」のハード・ロック・ヴァージョンは、騒々しいアレンジと投げやりなヴォーカルが大変下品で、大変痛快だ。

 ルーファスやキャンディ・ステイトンによる『メイン・コース』からのカヴァーになると、いかにも70年代のソウル・ディスコ風で小気味よい。イギリスではビー・ジーズのオリジナルがさっぱりだった「ナイツ・オン・ブロードウェイ」が、ステイトンのカヴァーでヒットしたのは、おしゃれなアレンジが受けたのだろう。

 タヴァレスやディオンヌ・ウォーリクのカヴァーは、あまり有難みを感じなかったが、サマンサ・サングの「エモーション」は、CD時代になって手に入れづらくなったので、うれしかった覚えがある。リタ・クーリッジも、「ワーズ」をカヴァーしたという情報は聞いていたので、ここで聞けたのはよかった。クーリッジらしい凛とした歌声が印象的。

 本アルバムの白眉は、エレイン・ペイジの「シークレッツ」とレオ・セイヤーの「ハート」だろう。とくに前者は1980年代のギブ兄弟の傑作のひとつで、ディスコ・ソウル時代を経て、まだ、こんな60年代のブリティッシュ・フォークのようなメロディを書けるとは、本当に驚異だ。

 ジミー・ソマーヴィルのファルセットを使ったカヴァーは1993年当時の最新ヒット(全英8位)で、ニーナ・シモンがヒットさせたヴァージョン(1968年に全英5位)を差し置いて、そのB面だった「アイ・キャント・シー・ノウバディ」を本アルバムに収録したのは、このソマーヴィルのヴァージョンを入れたかったからなのだろう。ビー・ジーズのカヴァー・アルバムのアイディアも、ソマーヴィルのヒットがきっかけだったのではないか。それでも、シモンとソマーヴィル両方の「トゥ・ラヴ・サムバディ」を聞き比べてみたかった。

 最後は、ビューティフル・サウスの「ユー・シュッド・ビー・ダンシング」で、ほぼ原曲通りのカヴァーだが、ライヴらしいラフで迫力あるサウンドは、こちらもオリジナルにはない開放感がある。

 以上20曲、通して聴くのは結構しんどいが、いずれも聞きごたえのある作品が並んでいる。

 ビートルズの楽曲はビートルズで聞くに限るが、ビー・ジーズの作品は、それがいいのか悪いのかわからないが、オリジナルと違った特色あるヴァージョンが多い。このあと堤防が決壊したごとくあふれ出てくる何種類ものカヴァー集を聞いても、様々な時代の様々な歌唱とアレンジが聞けて面白い。何より、原曲の魅力を再確認できて、実に楽しい。

 

Melody Fair (US, 1994).

01 Jigsaw Seen, Melody Fair.

02 Young Fresh Fellows, Craise Finton Kirk Royal Academy of Arts.

03 Dramarama, Indian Gin and Whisky Dry.

04 Phil Seymour, The First Mistake I Made.

05 The Appleseeds, Exit, Stage Right.

06 The Idle Wilds, Kilburn Towers.

07 Kristian Hoffman, Lemons Never Forget.

08 Indian Bingo, My World.

09 Spindle, The Earnest of Being George.

10 Material Issue, Run to Me.

11 The Firstbacks, Turn of the Century.

12 Chris von Sneidern, You Know It’s for You.

13 The Movie Stars, I Can’t See Nobody.

14 Sneetches, UK, Mrs Gillespie’s Refrigerator.

15 Action Figure, Whisper Whisper.

16 Beri Rhoades, I’m Not Wearing Make-Up.

17 Nick Celeste, The Greatest Man in the World.

18 Baby Lemonade, How Deep Is Your Love.

19 Let’s Talk About The Girls, If Only I Had My Mind on Something Else.

20 Insect Surfers, Massachusetts.

21 Michael Nold, Horizontal.

 ジョセフ・ブレナンが、ビー・ジーズのトリビュート・アルバムで最良のものではないか[i]、と評価する一枚。インディーズの若手アーティストがカヴァーした楽曲集。この後、イギリスでビー・ジーズのカヴァー・ブームが到来して、若手ミュージシャンがこぞって彼らの楽曲を取り上げることになるが、その先駆けとなったようなアルバム。

 これもブレナンが指摘しているが、ビー・ジーズのよく知られたヒット曲ではなく、アルバム収録曲が大半を占めている。ヒット曲というと、「ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ」と「マサチューセッツ」、あとは「マイ・ワールド」と「ラン・トゥ・ミー」ぐらいで、他は、「キルバーンタワーズ」とか「ホリゾンタル」のような意外な選曲が並んでいる。それも大半が60年代の楽曲で、(『サタデイ・ナイト・フィーヴァー』の曲などで)安易に受けを狙いにいかないところが、大変よろしい。

 アルバム・ジャケットもそれなりに凝っていて、遊園地のメリー・ゴー・ラウンドが描かれている。もちろんアルバム・タイトルにちなんだデザインだが、1曲目のその「メロディ・フェア」は、アップ・テンポのハード・ロック・ヴァージョン。『オデッサ』の2009年版[ii]に収められていた初期ヴァージョンも、完成版よりテンポの速いフォーク・ロック風だったが、こちらはそれをも蹴散らすほどの迫力で突っ走る。それでも基本的にはオリジナルを踏襲して、メロディを活かしたカヴァーになっている。ベースの音がモーリスに似せてるように聞こえるところも面白い。

 2曲目のヤング・フレッシュ・フェロウズもほぼ原曲どおりの進行だが、やたら強面のクレイズ・フィントン・カークでおっかない。しかし、歯切れ良いヴォーカルと演奏は、オリジナルとはまた別の硬質な味わいがある。

 続く「インディアン・ジンとウィスキー・ドライ」もサイキデリック風な味をうまく取り入れてカヴァーしている。この後のスピンドルなどもそうだが、ビー・ジーズの初期の楽曲は、ポップなメロディと感覚的な歌詞で、若手アーティストが自分たちの好みで料理しやすい恰好の素材なのだろう。

 フィル・シーモアの「ザ・ファースト・ミステイク・アイ・メイド」は本アルバムでも聞きもののひとつで、ほぼオリジナル通りのテンポやアレンジだが、毅然としたヴォーカルの魅力でイメージを一新したかのようだ。曲の良さを活かしているという点では、オリジナル以上かもしれない。

 「イグジット・ステージ・ライト」は英米デビュー以前のオーストラリア時代の曲だが、もともとビートルズの「ティケット・トゥ・ライド」に影響されたかのような楽曲なので、とんでもない勢いで突っ走る。パンク風のアレンジにはピッタリだろう。

 アイドル・ワイルズの「キルバーンタワーズ」も原曲のボサ・ノヴァ風味を残したアレンジで、オリジナルほどストリングスが前面に出ていないが、逆にギターとボンゴが強調されて郷愁を深めている。

 クリスチャン・ホフマンの「レモンズ・ネヴァー・フォゲット」は、最初「ジャンボ・セッズ・・・」と始まるので、題名間違えてるじゃん、と一瞬思うが、ワン・コーラス歌うと、突如「レモンズ・ネヴァー・フォゲット」に変わる。それが終わったかと思うと、今度は「ダウン・トゥ・ア~ス」と歌い始めるので、ブレナンが書いているように三曲(Jumbo/Lemons Never Forget/Down to Earth)のメドレーになっている[iii]。やはり「レモンズ・ネヴァー・フォゲット」が聞きごたえがあるが、凝った構成は本アルバムの目玉のひとつだろう。

 インディアン・ビンゴの「マイ・ワールド」は割とオーソドックスなカヴァーで、リード・ヴォーカルが原曲以上にドラマティックに歌い上げて、ライナー・ノウツに書かれているように、ウォーカー・ブラザースを連想させる[iv]

 「ジ・アーネスト・オヴ・ビーイング・ジョージ」もまたビー・ジーズのサイキデリック時代の楽曲だが、こういったナンバーは若手バンドからはクールだと思われているのだろうか。途中のブレイクなども原曲どおりだが、サウンドは90年代のパワフルなバンド・サウンドである。

 「ラン・トゥ・ミー」もオリジナルを尊重したカヴァーで、ビー・ジーズよりラフだが、ハーモニーを中心としたアレンジで、コーラス・ワークが魅力なのは同じだ。

 ザ・ファーストバックスのカヴァーは、ギター・サウンドによる「ターン・オヴ・センチュリー」でやたらとノイジーで騒々しいが、原曲のメロディは壊していない。

 「ユー・ノウ・イッツ・フォー・ユー」も、原曲より威勢がよくてワイルドだが、後半のスキャットにエコーをかけたり、ラストの「ドゥドゥドゥドゥドゥドゥ」のコーラスもオリジナルをそのまま取り入れているので、もともとのメロディの良さを認識できる。オリジナルの繊細さより、爽快感あふれるカヴァーとなっている。

 続く「アイ・キャント・シー・ノウバディ」はニーナ・シモンの出色のカヴァーがあるので、若いシンガーが個性を出すのは難しそうだが、ザ・ムーヴィー・スターズの特徴は、バンド・サウンドで女性のリード・ヴォーカルというところだろうか。シモンを意識したかのような落ち着いたヴォーカルと男性コーラスが組み合わさって、なかなかの出来だ。最後のコーラスの歌詞が「ユー・ドント・ノウ・ホワット・イッツ・ライク」になっていて、ニヤリとさせる。やはり、この二曲(To Love Somebody/I Can’t See Nobody)は似ていると思われているらしい。

 「ミセス・ガレスピーズ・リフリジレイター」は、ビー・ジーズのオリジナルは未発表だったので、厳密にはビー・ジーズのカヴァーではないのだが、現在では『ホリゾンタル』の2006年版で紹介されている[v]。こちらもサイキデリック風ナンバーで、こういった作品は若手バンドには本当に好まれているらしい。

 アクション・フィギュアの「ウィスパー・ウィスパー」は、かなり大胆にアレンジしているが、発表から25年目にして、ようやくこの曲にピッタリのアレンジに出会ったような気がする。といっても、所詮大した曲ではないのだが。本作もサイキデリック風の曲だったのだと再認識させてくれるカヴァーである。

 しかし何といっても、本アルバムの最大の話題は、ベリ・ローズの「アイム・ノット・ウェアリング・メイクアップ」だろう。何しろ、ギブ兄弟の姪が歌っており、バリー・ギブがバック・コーラスを担当しているのだから(それなら、ビー・ジーズのオリジナルじゃん)。ところが、このアルバムのなかで聞くと、一番ビー・ジーズらしくない浮いた曲に聞こえるのが逆説的で何とも面白い。まるでものまねコンテストに真似された本人が出場しているみたいだ(どういう例えだ)。

 楽曲としては、バーブラ・ストライサンド以来の女性シンガーに書いたバラードの系列で、ダイアナ・ロスや、バリーとオリヴィア・ニュートン=ジョンのデュエット曲のように、複雑にメロディが絡まっていって覚えにくい、でも、美しい旋律をもった佳曲である。熟成されたメロディとアレンジで、他の曲と比べても圧倒的に洗練されている。

 ニック・セレストの「ザ・グレーティスト・マン・イン・ザ・ワールド」も『トラファルガー』収録のオリジナルをベースに、よりアコースティックなアレンジを施しているが、やはりヴォーカルの魅力で聞かせる。

 一転して、ベイビー・レモネイドの「ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ」は、「メロディ・フェア」同様のハード・ロック・ヴァージョンで、「君の愛の深さはどれくらいだい?」と部屋の隅に追い詰める勢いですごんでくる。しかし、ヴォーカルやハーモニーの雰囲気は原曲からそれほどはずれておらず、コーラスの魅力を活かしている。本アルバムでは、唯一「フィーヴァー時代」からの選曲。

 次は、これが初のカヴァーではないかとも思える「イフ・オンリイ・アイ・ハッド・マイ・マインド・オン・サムシング・エルス」(長いなあ)。個人的にお気に入りなので、思わずニコニコしてしまうが、ビー・ジーズ・ヴァージョンよりどことなく歌謡曲っぽい?朗々としたヴォーカルは、ライナー・ノウツによると「ブライアン・ウィルソンのようにも聞こえる」[vi]とあるが、そうなのか。「マイ・ワールド」などと似た印象なので、ウォーカー・ブラザース風とも思える。

 次の曲も、ある意味、本アルバムで注目のカヴァー。何とびっくり、サーフィン・インスト版「マサチューセッツ」という荒業である。これこそビーチ・ボーイズみたい、いやヴェンチャーズか。波乗り気分のギターに乗せて哀愁のメロディが駆け抜けていく。まるで一発芸のようなカヴァーだ。

 ラストもあっと驚く「ホリゾンタル」のカヴァーでさよなら。よくこんな曲を選んだなあ、と思うが、やはりサイキデリック風なところが興味を引くのだろうか(本来、アンチ・サイキデリックの曲だそうだが[vii])。しかし、サウンド主体の曲だと感じていたが、このマイクル・ノウルドのヴァージョンを聞くと、意外にヴォーカルの力で聞かせる曲だったことがわかる。これも興味深いカヴァーだ。

 最初聞いたときは、なんかスゲェ曲ばっかりだなあ、と思ったが、後味は悪くなかった。何度か聞き返しても感想は変わらない。スゲェけど、悪くない。ブレナンのいうとおり、ビー・ジーズのカヴァー集のベストかもしれない。

 

[i] Joseph Brennan, Gibb Songs, Version 2: 1994.

[ii] Bee Gees, Odessa (2009), Disc 3.

[iii] Gibb Songs, Version 2: 1994.

[iv] Melody Fair (1994).

[v] Horizontal (2006), Disc 2.

[vi] Melody Fair (1994).

[vii] アーロン・スタンフィールド「ビー・ジーズがアンチ幻覚芸術コンサート」『ヤング・ミュージック』(1968年6月号)、100頁。