Bee Gees 1968(1)

6 「ワーズ」(1968.1)

1 「ワーズ」(Words)

 1968年最初のレコードは、前作と間違えそうなタイトルの「ワーズ」だった。

 「ワーズ」は「トゥ・ラヴ・サムバディ」と並ぶビー・ジーズ初期の代表作とされ、現在の評価は「マサチューセッツ」をもしのぐほどだが、全英チャートでは8位、全米では15位。イギリスでは「マサチューセッツ」、「ワールド」に続くトップ10ヒット、アメリカでは「ニュー・ヨーク炭鉱の悲劇」以来、5曲連続のトップ20ヒットと、それまでの好調を維持したものの、全英1位の「マサチューセッツ」には及ばない。高い評価は、ひとえにカヴァー曲の多さにある。

 2010年からイギリスBBCで放送されているThe Nation’s Favouriteは、有名アーティストの楽曲の人気投票番組というが、2011年の第2回でビー・ジーズが取り上げられ、ベスト20が発表された。初期作品では、「ワーズ」が「マサチューセッツ」に次いで4位にランク・インしている[i]。これは明らかに、1996年にボーイゾーンによるカヴァーが全英で1位になったことが要因だろう[ii]。ほかにもエルヴィス・プレスリーを始め、無数の歌手、グループによってカヴァーされている。

 リスナー以上に、アーティストに人気の本作だが、曲自体はシンプルである。もっとも、初期の彼らの曲はシンプルなのが特徴だが、なかでも本作はその極みと言ってよい。なにしろ、「ラーラララララ」のワン・フレーズのみで、あとは高低を変えて延々とそれを繰り返すだけ。それほどシンプルなメロディを、これほどのエヴァ―グリーンにしてしまうのは逆にすごいことだ。バリーのお気に入りの曲であり[iii]、「トゥ・ラヴ・サムバディ」などと並び、コンサートでは必ず演奏されるナンバーである。

 サウンド面をみると、「ワールド」同様、ピアノ-モーリスのいう、硬く金属的な響きのcompressed piano[iv]-を基調にした曲で、流麗なストリングスをバックに、バリーが全編ソロで歌う。本作を、例えば、同じ1968年に全米1位になった大ヒット曲であるボビー・ゴールズボロの「ハニー」[v]と比較してみると、興味深い類似点と相違点がわかる。どちらもワン・フレーズを執拗に繰り返すシンプルなメロディのバラードで、タイプは似ている[vi]。しかし異なるのは、「ハニー」のほうが圧倒的に洗練されていることだ。まさに大人のバラードである。低音の落ち着いたヴォーカルを聞かせるゴールズボロ(1941年生まれ、1963年にソロ・デビュー)[vii]に対し、バリーは(英米では)まだ新人ヴォーカリストに過ぎないから無理もないとはいえるが、そればかりではない。意識的にマイクの近くで歌っているのか、吐息が聞こえるようなバリーのヴォーカルには生々しい魅力がある一方で、どうにも粗く聞こえる。演奏のほうも、スタジオ・ミュージシャンによるであろう「ハニー」に比べ、「ワーズ」は素人くさい。全米でのヒットの差は、曲だけではなく、レコードとしての完成度の差にあるといえそうである。

 このことからわかるのは、ビー・ジーズの「ワーズ」は、必ずしも完成された作品とはいえないということである。当時、雑誌のレコード評で「一寸、気がのらない」[viii]と評されたのもよくわかる。言い換えれば、本作はこの時期のビー・ジーズが自分たちで発表すべき曲だったかどうか、疑問が残る。この曲を活かすためには、もっと隙のない演奏とヴォーカルが必要だったのではないか。しかし、見方を変えれば、歌い手がいくらでも自分の個性を出せる曲であるともいえる。誰でも歌えるような曲で、プロのシンガーからすれば、歌いがいがないようにも思えるが、多くの歌手がカヴァーしているのは、シンプルであるがゆえに、いくらでもアレンジがきき、自分の色を出せる曲だからなのだろう。もちろん彼らの歌心を刺激する魅力的なメロディを持っているからこそであるが。バリー・ギブでなくとも、誰が歌っても素晴らしい歌唱になる。そうした普遍性をもった曲だと思う。

 

2 「シンキング・シップス」(Sinking Ships)

 まるで行進曲のような前奏からして、クラシック風の曲だが、アレンジャーのビル・シェパードが「美しく仕上げよう」、といって、そのとおりになった[ix]、とはモーリスの弁である。

 歌詞の内容は、『ポセイドン・アドヴェンチャー』か『エアポート75』か、パニック映画の一コマのようだが、曲調は明るく、ロビンとバリーが交代にリード・ヴォーカルを取り、サビのコーラスの最初をモーリスがリードする、というまさに3人のアンサンブルによる一曲。

 お遊びでつくったような曲だが、この頃の彼らならではの、軽いがちょっと記憶に残る作品のひとつ。

 

[i] Wikipedia: The Nation’s Favourite. 1位は「ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ」、2位は「ユー・ウィン・アゲイン」。

「ネイションズ・フェイヴァリット」の第1回はアバ。以後、第3回からはしばらくクリスマス・ソング特集などが続いて、第8回がエルヴィス・プレスリー、第10回がクイーン。2015年の第14回で真打登場のビートルズ。以後、カーペンターズジョージ・マイケルが続く。ビートルズは別格として、ロック・バンドがクイーンのみというところからわかるとおり、まさに(イギリスにはないが)お茶の間が選ぶ国民的アーティスト、といった印象の番組のようだ。

[ii] Boyzone, “Words” (1996.10).

[iii] フレッド・ブロンソン(守屋須三男監修、加藤秀樹訳)『ビルボード・ベスト・オブ・ベスト チャートが語るヒット・ソングの裏側』(音楽之友社、1993年)、75頁。

[iv] Melinda Bilyeu, Hector Cook and Andrew Môn Hughes, The Bee Gees: Tales of the Brothers Gibb (New edition, Omnibus Press, 2001), pp.164-65.

[v] ボビー・ラッセル(Bobby Russell)作。ビルボードでは1968年4月13日より5週間1位を記録。

[vi] ラッセルのもう一つの全米ナンバー・ワン・ヒット「ジョージアの灯は消えて」の原題が”The Night the Lights Went Out in Georgia”であるのは面白い。「マサチューセッツ」のアメリカでのタイトルは”(The Lights Went Out in) Massachusetts”である。

[vii] フレッド・ブロンソン(かまち潤監修、井上憲一他訳)『ビルボード・ナンバー1・ヒット 上』(音楽之友社、1988年)、239。

[viii] 『ミュージック・ライフ』(1968年6月号)、106頁。

[ix] Tales from the Brothers Gibb: A History in Song 1967-1990 (1990).