ビー・ジーズ1993

ビー・ジーズ「ペイイング・ザ・プライス・オヴ・ラヴ」(Paying the Price of Love, 1993.8)

1 「ペイイング・ザ・プライス・オヴ・ラヴ」(B, R. & M. Gibb)

 アルバム参照。

 

2 「マイ・ディスティニー」(My Destiny, B, R. & M. Gibb)

 1980年代以降、ビー・ジーズが得意としてきたダサいロック・ナンバー。

 いきなり最初から元気はつらつといった感じで、わかりやすい曲調とやたらと陽気なコーラスで、なかなか快調な出来。可もなく、不可もなし、いや、それよりはもうちょっと上か。

 とくに、サビの「マイ・デスティニ~」のコーラスは、なかなかあとを引く(納豆みたいに)。

 

ビー・ジーズ『サイズ・イズント・エヴリシング』(Size Isn’t Everything, 1993.9)

 ビー・ジーズのアルバム・タイトルは、大体においてわかりやすい。収録曲のタイトルがそのままアルバム・タイトルとなっている場合が大半である。なかには、『キューカンバー・キャッスル』(Cucumber Castle, 1970)のように、タイトル曲が収録されていないというヘンなアルバムもあるにはあるが(実際は、曲名から発案したテレビ番組のタイトルをそのまま使用したからだが)。

 だが、ときどき妙なアルバム・タイトルが現れるのも事実で、『トゥ・フーム・イット・メイ・コンサーン』(To Whom It May Concern, 1972)が適例だろう。『ライフ・イン・ア・ティン・キャン』(Life In A Tin Can, 1973)や『メイン・コース』(Main Course, 1975)も収録曲とは別のタイトルを採用しているが、意味はわかりやすかった。

 ところが、ついにまた頭をひねる不可解なアルバム・タイトルが登場した。それが『サイズ・イズント・エヴリシング』である。

 「サイズがすべてではない」、とは?何やら怪しげな、いや、きわもの的雰囲気を醸し出しているが、モーリスによると、「表紙で本を判断しないでくれ」という意味らしい。ビー・ジーズのこともイメージだけで判断しないで、音楽を聴いてほしい、ということのようだ[i]。な~んだ。でも、本当かあ!?

 アルバムのトーンは、前作に引き続きフェミ・ジヤをエンジニアに迎えて、強烈なビートと無機質的サウンドが特徴となっている。バイオグラフィでは「クリスプ・サウンド(crisp sound)」と評されている[ii]が、なるほどね。確かにパリパリ、カリカリする。いや、バリバリ、ガリガリか。しかし、内容自体は、前作『ハイ・シヴィライゼーション』から一転、随分ポップになって親しみやすい。『E・S・P』から始まったロック路線から、本来のビー・ジーズの路線に戻った感じである。しかし、上記のように、サウンドは一緒なので、何というか、ハード・ポップないしはヘヴィ・メタル・ポップとでも言いたくなるようなアルバムだ。

 日本盤の解説では、ギブ兄弟によるアルバムおよび収録曲についてのコメントが紹介されているが、それによれば、ここ数年のアルバムがヘヴィすぎたので、ファンが望んでいそうなコマーシャルな楽曲制作を心がけたのだという[iii]。確かに、最初聞いたときに、これこれ、と思ったのを思い出す。なつかしのポリドール・レコードに復帰して、それはもちろん、1960年代に戻るわけもないのだが、わかりやすく心に響くメロディを、あのちょっと重いハーモニーで聞かせる、これぞまさにビー・ジーズ!最後の黄金時代の始まりである。

 

1 「ペイイング・ザ・プライス・オヴ・ラヴ」(Paying the Price of Love, B, R. & M. Gibb)

 「ヘヴィ・パーカッション・サウンド」に「ヒップホップのリズム」を組み合わせたという[iv]。ハンマーでぶっ叩かれるような音は心臓に悪く、聞くたびに胸がドキドキする(なら、無理して聞くなって?)。

 ヴァースは例によってバリーのぼそぼそヴォイスだが、サビのドラマティックなメロディはビー・ジーズらしく、「トラジディ」あたりを思い出す。が、「愛の代償を支払う」という頭のフレーズはいいのだが、その後が期待したような必殺のメロディへと発展せず、歯がゆさが残る。「アルバムで一番のお気に入り」[v]という自己評価には、残念ながら賛同できない。英米での第一弾シングルで、アメリカで74位、イギリスで23位にランクされた。

 なお、ブリッジでは、かつての「ステイン・アライヴ」の頃のようなバリーの傍若無人なファルセットが爆発する。1987年の再スタート以来、やや抑え気味だったが、前作あたりから、そろそろまた発散したくてむずむずしていたらしい。

 ところで、日本盤では、「甘い経験」とか、「哀しみの家」とか、わけのわからない邦題が付いているが、シングルになった本曲はなんで原題のカタカナ表記そのままなの?

 

2 「キス・オヴ・ライフ」(Kiss of Life, B, R. & M. Gibb)

 こちらも耳を圧するような轟音が奔流のごとく押し寄せてくるナンバー。なんだか知らないが、すごい迫力で、横に整列したギブ兄弟がハモりながら猛スピードで追いかけてくる恐ろしい図が浮かぶ。しかも、いつの間にか追い越されて、駆け抜けていく三人の後ろ姿が遥か彼方に消え去るように曲が終わる。

 ロビンがリード・ヴォーカルを務める、まさにハード・ポップといった作品。それほどキャッチーなメロディというわけではないが、ロビンのソロ・アルバムのサウンドを発展させたような、しかし前曲以上に本アルバムのイメージを代表する曲だろう。

 

3 「甘い経験(パート1)」(How to Fall in Love, Pt.1, B, R. & M. Gibb)

 一転して、バリーが囁くように歌い出す。ムーディなサックスが点描され、高層ビルから夜景を眺めているような、まさに大人のバラードといったところか。年齢を重ねて、こうした、どこかジャジーな楽曲もこなせるようになった。

 「経験だけでは十分じゃない。どうやったら恋に落ちるのか、君に教えてあげよう」という決めのフレーズを中心にして、あとはその前後を色々くっつけて組み立てたかのような作曲法は、80年代後半以降の曲に顕著だが、最後、そのフレーズをこれでもか、と繰り返す。『ワン』の「ボディガード」もそうだったが、ややしつこ過ぎやしないか?

 

4 「オメガ・マン」(Omega Man, B, R. & M. Gibb)

 モーリスのヴォーカルによる一曲目は、作詞も彼主導なのだろう。チャールトン・ヘストンの主演映画からヒントを得た[vi]というが、『世界最後の男オメガマン』(The Omega Man、1971年)[vii]のことのようだ。

 ビートルズの影響で書いた[viii]、ともいい、八木 誠氏の指摘するように、どことなくコミカル[ix]で軽いタッチは、モーリスに合っている。飄々としたとぼけ具合が、ややシリアスだったアルバム前半の流れにアクセントを与えている。格別優れているというわけでもないが、なかなか楽しい作品だ。

 

5 「哀しみの家」(Haunted House, B, R. & M. Gibb)

 「幽霊屋敷」?また、こけおどしみたいなタイトル付けて、と思わないでもないが、『E・S・P』の「ギヴィング・アプ・ザ・ゴースト」、『ハイ・シヴィライゼーション』の「ゴースト・トレイン」に続く「ホラー三部作」の三曲目である(そんなシリーズはない)。しかも最初のタイトルはLamb to the Slaughter(屠所の羊)だったそうで[x]、サビのところで、この歌詞のバック・コーラスが執拗に繰り返される。聖書からの引用なのだろうが、怖いですぅ~。

 実際の詞の内容は、夫婦間の冷え切った関係ということのようで、なるほど「憑りつかれた家庭」ということか。しかし、バリーの気風(きっぷ)のよい歌いっぷりは、むしろ明朗で、あまり神経症的なピリピリした空気は伝わってこない(そんなものは伝わらないほうがよいが)。

 サビの「この古い家のなかで、わたしに憑りつかないでくれ」(!)というサビのコーラスも(歌詞に反して)なかなかキャッチーである。

 

6 「分かち合う恋」(Heart Like Mine, B, R. & M. Gibb)

 再びロビンのたゆたうようなリード・ヴォーカルで始まる、しめやかなバラード作品(幽霊屋敷に憑りつかれた人々のための鎮魂曲のような?)。エンヤなどのアイリッシュ・フォークの影響で書いたというが[xi]、確かに、間奏の軽やかだが重いミスティックなサウンドは、それまでのビー・ジーズのブリティッシュ・ポップとも一味違う感触を残す。

 後半では、バリーのファルセットがサビを歌い上げるが、この頃になると、ノーマル・ヴォイスとファルセットを自在に使い分ける歌唱スタイルを身につけたようだ。

 

7 「君のためなら」(Anything for You, B, R. & M. Gibb)

 ジョセフ・ブレナンの評価では、「アルバムのなかでは、軽い(取るに足らない)曲」の一言で片づけられている[xii]が、最初に聞いたときは、シングル向きではないか、と思った。

 要するに「ジャイヴ・トーキン」や「ワン」のようなダンス・ビート・ナンバーで、例によってバリーのささやきヴォイスで、しかもやけにハスキーでセクシーだ。

 三つのメロディをくっつけた単純な構成で、アレンジもシンプルなので、確かにたいした出来ではないが、アナログ・レコードならB面の1曲目あたりに位置するので、ギブ兄弟としては、ひょっとしたらいけるかも、と思っていたのではないだろうか。

 

8 「ブルー・アイランド」(Blue Island, B, R. & M. Gibb)

 これはまた意表を突かれた曲が登場する。ギターをバックにバリーがリードを取るフォーク・ソング。珍しくも、ボブ・ディラン(?)のようなハーモニカが入って、突然の意外な演出に面食らう。

 「旧ユーゴスラヴィアの子どもたちに捧げる」と献辞の付いた、彼らには珍しい政治的メッセージをテーマとした作品。しかし、こうした姿勢は「ユニセフ・コンサート」(1979年)などを通して一貫したものなので、単なる気まぐれでないことはもちろんである。

 青く美しい島というのは、彼岸もしくは天国のことだそうだ[xiii]が、「ブルー・アイランド」の一糸乱れぬハーモニーで終わるラストは、やはり感動的だ。

 

9 「高く、遠くに」(Above and Beyond, B, R. & M. Gibb)

 「チェイン・リアクション」(1985年)から始まったモータウンサウンド・シリーズの第三弾で、こういうタイプの曲としては珍しくモーリスがリード・ヴォーカルを取っている。この時期には、ルルに書いた同スタイルの「レット・ミー・ウェイク・アップ・イン・ユア・アームズ」(1993年)もあって、その点も何だか意味深長だが、モータウン(「恋はあせらず」)のリズムに乗せたブリティッシュ・ポップというビー・ジーズの新たな定番スタイルが確立したことをうかがわせる。

 モーリスの歯切れのよい軽やかなヴォーカルもこの曲を引き立てており、邦題は相変わらずの直訳調でテキトーだが、タイトル通り、どこまでも高く遠くにダイヴしていくような爽快感と高揚感は格別だ。青空に吸い込まれていくようで、聞くたびになんだかとってもウキウキする。

 個人的には、本アルバムで一、二を争うお気に入りなので、これ以上言うことはありません。

 

10 「誰がために鐘は鳴る」(For Whom the Bell Tolls, B, R. & M. Gibb)

 イギリスで第二弾シングルとして発売(11月)され、「シークレット・ラヴ」に続き、1990年代二枚目のトップ・ファイヴ・ヒット(4位)となった。久々のバラードのヒットである。

 アコースティックなギター・イントロに続くバリーのリードは例のひそひそヴォイスで、フォーク・カントリー?と思わせるが、サビを引き継ぐロビンの朗々たる歌声がドラマティックに響き渡ると、一気にスケール豊かなバラードへと一変する。

 ただ、サビのメロディは、かつてのような、これ以外にないという絶妙なものではなく、少し物足りないもどかしさも残る。ビー・ジーズとしては、そこまでの傑作とはいえないが、フォーキーなヴァースから劇的なコーラスへのダイナミックな展開が何より心に残る。波が砕ける岩場を舞台に三人が歌うプロモーション・ヴィデオも印象的だった[xiv]

 

11 「堕天使」(Fallen Angel, B, R. & M. Gibb)

 ラストは、ロビンがリード・ヴォーカルを取る、ペット・ショップ・ボーイズサウンドを「頂いた」ナンバー[xv]。モダン・ポップなサウンドは、確かにビー・ジーズらしからぬ都会的かつメカニカルな印象を与える。

 節操ないなあ、という気もするが、メロディはドライな感傷をたたえた、まさにロビン、まさにビー・ジーズという味わい。もっとも、出だしは、一瞬、「ジュリエット」が始まったのか?と思った。しかし、サビになると「キャロライ~ン」からのコーラスがパワフルでセンチメンタルで、60年代ブリティッシュ・ポップをモダン・ポップ・サウンドに乗せたスーパー・ポップ・ナンバーだ(何を言ってるのか、わかりません)。

 「サイズ・イズント・エヴリシング」は、最高の3曲のメドレーで幕を閉じる。私見だが、『リヴィング・アイズ』(1981年)以来の傑作アルバムと思う、いや、断言する。

 

12 「デカダンス~ユー・シュッド・ビー・ダンシング」(Decadance[xvi], B, R. & M. Gibb)

 ・・・もう一曲残っていた。ただし、ボーナス・トラックで、しかも「ユー・シュッド・ビー・ダンシング」のニュー・ヴァージョンである。フェミ・ジヤらによる『サイズ』・サウンド版で、ヘヴィでパワフルなアレンジは大変やかましい。

 最初聞いたときには、こんなうるさくしなくともいいのでは、と思わずにいられなかったが、最近では、こうしたサウンドも普通になったせいか、それほど抵抗もなくなった。まあ、こんなのもいいんじゃないの、と寛容かつ鈍感になった私です。

 

[i] Melinda Bilyeu, Hector Cook and Andrew Môn Hughes, The Bee Gees: Tales of the Brothers Gibb (New edition, Omnibus Press, 2001), p.616.

[ii] Ibid.

[iii] ビー・ジーズ「サイズ・イズント・エヴリシング」(1993年)解説。

[iv] The Bee Gees: Tales of the Brothers Gibb, p.615.

[v] ビー・ジーズ「サイズ・イズント・エヴリシング」解説。

[vi] 同。

[vii] 地球最後の男オメガマン - Wikipedia。原作は、リチャード・マシスンの『地球最後の男』。って、「オメガ・マン」て『地球最後の男』だったのか!

[viii] ビー・ジーズ「サイズ・イズント・エヴリシング」解説。

[ix] 同。

[x] 同。

[xi] 同。

[xii] Joseph Brennan, Gibb Songs, Version 2: 1993.

[xiii] The Bee Gees: Tales of the Brothers Gibb, p.615.

[xiv] The Ultimate Bee Gees (Reprise Records, 2009), Disc 3.

[xv] ビー・ジーズ「サイズ・イズント・エヴリシング」解説。

[xvi] これを書いていて初めて気がついたが、「デカダンス(Decadance)」とは、いかにも狙って付けたタイトルですね。