ビー・ジーズ1985(2)

ロビン・ギブ「ライク・ア・フール」(1985.11)

1 「ライク・ア・フール」(Like A Fool, R, B. and M. Gibb)

 2枚のソロ・アルバムの延長線上にある作品。しかし、本来のロビンらしい哀愁を帯びた歌声が戻ってきた感がある。彼らしい絶叫も一部聞かれる。

 曲は、シンプルなヴァースとコーラスの組み合わせによるポップ・ナンバーで、「ライク・ア・フール~」の繰り返しもいつもながらというところか。ただ、前作にあったような、どこか無理をしている感じが薄れて、この機械的サウンドにどのように自分の声を乗せるか、掴んできたようにも思える。実際、この後の90年代にかけてのビー・ジーズのアルバムでも、このスタイルが取られている。

 

2 「ポゼッション」(Possession, R, B. and M. Gibb)

 B面のこの曲も、いかにもプログラミングされたサウンドに乗せて、ミディアム・テンポで歌う。相変わらずタイトルを執拗に連呼するのもお馴染みというか、聞き飽きた。

 ロビンの声はリラックスして、中盤では伸び伸びと声を張って、あまり悲壮感を出さないのはよい。新鮮味はないが、出来はまずまずか。

 

ロビン・ギブ『ウォールズ・ハヴ・アイズ』(Walls Have Eyes, 1985.11)

 ロビンの80年代では3枚目のソロ・アルバムは、基本的には前作前々作を踏襲した作品だった。

 プロデュースはトム・ダウドで、1枚目のモーリスとの「兄弟アルバム」から、2枚目とこの3枚目は脱却するかたちで、新しい方向を模索する意欲が感じられるが、その割には、これまでと変わりばえがしない印象なのはどうしてか。制作予算も限られ、レコード会社からの指示も厳しかったというが[i]、そうした外部的な要因のせいなのか。

 80年代の3枚のなかでは一番優れている[ii]、との評価もあるが、確かに、「ゴーン・ウィズ・ザ・ウィンド」のような会心のバラードもあるし、バリーが参画した「トイズ」のような注目作もある。『ハウ・オールド・アー・ユー』では目立っていたチープなサウンドもある程度改善されて、80年代のサウンドも板についてきたようにも感じられる。

 あとは好みの問題になるだろうが、セールスは思わしくなく、1枚目の「ジュリエット」のような大ヒット(ドイツのみだが)も、2枚目の「ボーイズ・ドゥ・フォール・イン・ラヴ」のようなアメリカでの小ヒットもなく、先細りの感は払しょくできない。

 とはいえ、結果的に、ロビンの全曲オリジナルによるソロ・ヴォーカル・アルバムがこれで最後になってしまったことを考えれば、この時期、精力的に3枚のアルバムを制作してくれたことは、彼のファンにとっては何よりの贈り物だったといえるだろう。

 

A1 「ユー・ドント・セイ・アス・エニモア」(You Don’t Say Us Anymore, R. and M. Gibb)

 いかにもコンピューターでプログラミングしました、といったサウンドで、前作をほぼ踏襲したかたち。いきなり低音で始まるのは意外性があるが、すぐに高音のいつものロビンの歌声になる。後半ファルセットのパートが一瞬入るなど、ロビンの声を楽しむという点に限れば、ファンなら楽しく聞けるが、それ以上の魅力となると説明に窮する。

 

A2 「ライク・ア・フール」

A3 「ハートビート・イン・エグザイル」(Heartbeat in Exile, R, B. and M. Gibb)

 ややスロー・テンポだが、サウンドは変わらずのテクノ・ポップ風。ロビンの高音ヴォイスもおなじみだが、途中でサックス・ソロが入ってくるところは、多少変化をつけたということだろうか。ムーディな雰囲気を加味しようとしたということか。

 

A4 「レミディ」(Remedy, R, B. and M. Gibb)

 これもまた例によってのテクノ風リズムで、もはやどう見分け、いや聞き分けをつければよいのか。快調なリズムに乗って、ロビンの珍しいファルセットのサビが聞けるのが唯一の特徴か。あとは、ファンならおわかりの、彼の独特の「こぶし」が聞かれる。

 

A5 「トイズ」(Toys, B, R. and M. Gibb)

 バリーが加わって書いた曲のひとつだが、それだけではなく、彼がサビのヴォーカルを担当していて、まさにビー・ジーズそのものだ。そのせいか、アルバムのハイライトだ、との評価もある[iii]

 そこまでとは思えないが、確かに他の曲では果たせないアクセントになっている。サウンドは他と同工異曲だが、重々しいシンセサイザーのイントロに始まり、ロビンの淡々とした無表情なヴォーカルからバリーのささやくようなリードへと、ひときわ神秘的なアレンジが施されている。

 

B1 「サムワン・トゥ・ビリーヴ・イン」(Someone to Believe In, B, R. and M. Gibb)

 サウンドは代わり映えしないが、ロビンの歌唱が他に比べて、多少異なる。意識的に強い歌い方をしようとしている。それがややオーヴァアクション気味ではあるが、本アルバムでは珍しいギター・ソロを含めて、そこが印象に残る。

 

B2 「ゴーン・ウィズ・ザ・ウィンド」(Gone with the Wind, R. and M. Gibb)

 本アルバムでは群を抜く出来栄えの一曲。ピアノを基調とした力強いバラードで、なぜこの曲だけ、他とまったく異なるアレンジなのかが不思議。

 かつてのロビンの歌うビー・ジーズのバラードが甦ったような作品で、とくに、ギター・ソロを交えた後半の「ゴーン・ウィズ・ザ・ウィンド~」のハイ・トーン・コーラスには息を呑む。

 タイトルは説明するまでもないが、名作映画から採られた表題にふさわしい久々の快作だ。

 

B3 「ジーズ・ウォールズ・ハヴ・アイズ」(These Walls Have Eyes, B, R. and M. Gibb)

 タイトル曲だが、とくに際立った特徴があるわけでもなく、他と同じようなテンポ、アレンジ。本アルバムの全体の特徴である冷ややかなサウンドというか、熱気のないクールな印象は変わらない。曲も中くらいの出来というところだろう。

 

B4 「ポゼッション」

B5 「ドゥ・ユー・ラヴ・ハー」(Do You Love Her?, R, B. and M. Gibb)

 ラストは、軽快なテンポのポップ・ナンバー。サウンドはこれまでの楽曲と大差なく、なんとも形容のしようがない。曲そのものはまずまずか。ロビンのファルセット気味のフレーズも耳に残る。さりげない曲で最後を締めくくるのは悪くないが、特に盛り上がることもなく終わってしまった、という感も否めない。

 

[i] Joseph Brennan, Gibb Songs, Version 2: 1985.

[ii] Ibid.

[iii] Ibid.