ビー・ジーズ1989

ビー・ジーズ『ONE』(Bee Gees, One, 1989.4)

 『E・S・P』に続く二年ぶりのアルバム『ONE』は、アンディ・ギブの死によってもたらされた中断期間を挟んで1989年4月にイギリスで、7月にアメリカでリリースされた[i]。このアルバムから、CDでは恒例のボーナス・トラックがつくようになった。「ウィング・アンド・プレア」がそれに当たる。

 日本盤の解説を書いている大友 博氏によると、本アルバムは1989年のツアーに合わせて、ライヴでの演奏を想定してオーバーダブなどを極力避けたのだという[ii]。確かに、『E・S・P』以上にロック・アルバムっぽい内容で、サウンドも全体にシンプル、ぜい肉を落としてシェイプ・アップした印象である。それが彼らに合っているかは別として、随分元気はつらつとしているようにも聞こえる。それが本心からなのか、それともアンディの死を乗り越えるためのカラ元気だったのかどうかは、また別の話だが。

 秋には来日して、15年ぶりのコンサートが開かれた。久々に見る彼らの姿に感激したが、そのときからも三十年以上たつ。「オーディナリ・ライヴズ」のなかで、「時は止まっている」と語ったバリーだが、いやいや、つくづく時のたつのは早い。

 アルバム・ジャケットは、三人の顔が重なるように並んでいる、こちらもストレートなデザイン。ビートルズの『ウィズ・ザ・ビートルズ』(1963年)のパロディっぽいが、年月を刻んだ三人の顔が味わい深く、『スピリッツ・ハヴィング・フロウン』のイキッたようなポートレイトよりもよかった。

 

A1 「オーディナリ・ライヴズ」(Ordinary Lives, B, R. & M. Gibb)

 何やら荘重なイントロからゆったりしたリズムに乗って、バリーのリラックスした声で始まるポップ・ロック・バラード。声が出なくなっているのでは、と心配された(筆者だけ?)が、この曲では伸びやかなヴォーカルを聞かせる。3月にイギリスで先行シングルとして発売された[iii]

 『キューカンバー・キャッスル』(1970年)収録の「ゼン・ユー・レフト・ミー」以来の語り入りの楽曲で、「賽がどう転がろうと、数を当てるのは別の誰か」という意味ありげなフレーズが引っ掛かるが、全体としてはテンポも軽快で快調な出来だ。どこといって不満の起きない耳に優しいスマートなポップ・ソングだが、惜しむらくは際立った必殺のフレーズがない。「ユー・ウィン・アゲイン」と比べても、イギリスであまり受けなかったのは、その辺りに原因がありそうだ。

 

A2 「ONE」(One, B, R. & M. Gibb)

 「オーディナリ・ライヴズ」に続き、6月にイギリスで、7月にはアメリカで発売された[iv]アメリカでは第一弾シングルで、実に十年ぶりにトップ・テンにランクされた(ビルボード誌、7位)。同時に、最後のトップ・テン・シングルともなった。「獄中の手紙」から数えて、通算15曲目。うち9曲がナンバー・ワンで、最高7位というのは「ブロードウェイの夜」(1975年)と同じ。

 あまりに久しぶりのトップ・テン・ヒットなので、あれこれ記録を引っ張り出したが、曲自体は、1980年代版「ジャイヴ・トーキン」といった趣。サビのメロディでヴァースを挟む構成で、テクノ・ディスコ風?ただ、「ジャイヴ・トーキン」よりはしゃれたメロディで、あんなに下世話ではない。7位止まりだったのは、時代もあるが、むしろ、「ジャイヴ・トーキン」ほど下世話ではなかったのが原因か。あの安っぽいシンセサイザーとタララララ~、タララララ~の間奏が懐かしい。

 アルバム・タイトル曲だから、それなりに手ごたえがあったのだろう。1989年の来日コンサートでも披露し、バリーの両手の人差し指を交錯させる妙なポーズが記憶に残っている(『ワン・フォー・オール・ツアー』のDVD[v]でもおなじみ)。なんか、「ダメダメ」と言われているような気になったりもするが・・・。

 最後のトップ・テン・シングルと考えると、少々物足りない思いもあるが、トゥー・コーラス後の間奏の「ぼくらはひとつだ」と繰り返すハーモニーは相変わらず美しい。

 

A3 「ボディガード」(Bodyguard, B, R. & M. Gibb)

 こちらも、かつての「ラヴ・ソー・ライト」(1976年)を思い出させるソウル・バラード。しかし、はるかにコンテンポラリーというか、瀟洒にそつなくまとまった作品となっている。

 とくに耳に残るのはロビンのヴォーカルで、40歳を迎えて、成熟した味わいの歌声を聞かせるようになった。年相応の貫録を感じさせる一方で、バラード・シンガーとして艶のある、新たな声の魅力を身につけ始めたようだ。

 曲のほうは、「止めてくれ、戻れなくなる前に」の決めのフレーズを執拗に繰り返して、そこが聞かせどころなのはよくわかるが、その前のメロディがやや単調で、絶賛とまではいかないのが惜しい。やはり、ロビンが歌うヴァースに救われているという印象である。

 

A4 「イッツ・マイ・ネイバーフッド」(It’s My Neighborhood, B, R. & M. Gibb)

 『E・S・P』の「ギヴィング・アプ・ザ・ゴースト」と同タイプのソウル・ロック風の作品。どちらも同じA面4曲目で、1989年のツアーでも、両曲ともセット・リストに入っていた[vi]。ただし、前者はロビンのヴォーカルでエキゾティックな風味が強かったが、本曲はバリーのリードで、より力強いサウンドになっている。

 明らかにライヴ用につくられた楽曲で、上記ツアーでは、ほかに「ハウス・オヴ・シェイム」が終盤で演奏されていた[vii]。確かに『ONE』は、『E・S・P』以上に、ロックン・ソウルの印象が強まっており、それが1980年代後半にビー・ジーズが目指した方向であったのは間違いないようだ。

 

A5 「ティアーズ」(Tears, B, R. & M. Gibb)

 一転して、バリーのソロによるロマンティックなバラード・ナンバー。まさに彼の真骨頂とも言えるヴィブラートを効かせた甘い歌声が堪能できる。こちらは「ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ」の80年代版か。

 ロビンの「ボディガード」と対比されるかのように、ともにAサイドに収まっているが、どちらもきれいにまとまりすぎている気がしなくもない。なんとなく、60年代のブリティッシュ・ポップ風のメロディが恋しくなるのは、ないものねだりというものだろうか。

 

B1 「TOKYOナイツ」(Tokyo Nights, R. & M. Gibb)

 60年代が恋しいといったら、本当に60年代っぽい陽気なポップ・ソングが出て来た。しかも「トーキーオ」って、沢田研二か!(あれは70年代か。)沢田(タイガース)とビー・ジーズとは古い因縁(?)があるので、この「トキオ」繋がりは何だか面白い(ロビンと沢田は会っていないだろうけれど)。

 解説にもあるように、ビーチ・ボーイズ風でもある[viii]。つまり、ブリティッシュ・ポップではない。こっちは「ホリデイ」みたいのが聞きたいんだよ!というのは無茶なお願いか。

 ロビンとモーリスの共作とも、三人の共作とも言われているが、確かにバリーの個性はあまり感じられない。ロビンのソロ・アルバムとも、また違った雰囲気だが、曲構成はロビンらしい、あるいはモーリスっぽい。まあ、あれこれ詮索せずに、楽しく聞ければ、それでよいでしょう。

 

B2 「フレッシュ・アンド・ブラッド」(Fresh and Blood, B, R. & M. Gibb)

 これまた解説にあるように、スティーヴ・ウィンウッドの影響を受けたような楽曲[ix]で、ロックとソウルが無理なく融合した80年代ポップを充分意識したナンバーといえる。

 ロビンのリード・ヴォーカルだが、「イッツ・マイ・ネイバーフッド」がバリー、このあとの「ハウス・オヴ・シェイム」がモーリスのリードで、ライヴ向きの楽曲を1曲ずつ担当したらしい。後半で、例のロビンの絶叫ヴォイスが聞かれるが、どうどう、落ち着いて。

 「ギヴィング・アップ・ザ・ゴースト」が演奏されたので、こちらはツアーでは演奏されなかったが、ライヴでちょっと聞いてみたかった曲である。

 

B3 「ウィッシュ・ユー・ワー・ヒア」(Wish You Were Here, B, R. & M. Gibb)

 アルバム『ワン』は、やはり、この曲に尽きるだろう。

 アンディ・ギブの追悼曲だが、曲調はまったく異なるものの、構成は11年前の「シャドウ・ダンシング」を思わせる。8小節のヴァースのあと、8小節のコーラスに続いて、「ウィッシュ・ユー・ワー・ヒア」と繰り返すセカンド・コーラスが来る組み立てで、最初のサビの哀切なハイ・トーンのハーモニーが耳をとらえて離さない。「君がここにいてくれたらなあ」のリフレインまで、意識して「シャドウ・ダンシング」に似せたわけでもないだろうが、ビー・ジーズにとっても(ファンにとっても)華やかだったあの時代を思い起こさせる切ない一曲である。

 

B4 「ハウス・オヴ・シェイム」(House of Shame, B, R. & M. Gibb)

 モーリスのファンにとっては、お待たせの曲。

 といっても、同じメロディを繰り返すだけのソロ・パートで、本人も(ファンも)物足りなかったのでは。

 「イッツ・マイ・ネイバーフッド」、「フレッシュ・アンド・ブラッド」と同タイプのロックン・ソウルだが、それらに比べると、よりストレートなロック寄りの楽曲といったところか。サビなどは、ちょっと60年代ロックにも聞こえるキャッチーなメロディで、ゲスト扱いのアラン・ケンドールのギターもあからさまに安っぽいところが素敵だ。

 80年代に入ってからのビー・ジーズのロック・ナンバーのなかでは、代表作のひとつに数えてよいのではないだろうか。

 

B5 「ウィル・ユー・エヴァ・レット・ミー」(Will You Ever Let Me, B, R. & M. Gibb)

 最後は強烈なビートのダンス・ミックス・ナンバー。イントロのホーンのメロディと最後の決めのフレーズ「ぼくを受け入れてくれるかい?」が肝の曲で、これをしつこく繰り返す。

 しかし、そこに至るまでは、80年代のバリーが歌う楽曲の特徴で、メロディがあるのかないのか、よくわからない、アドリブ風にシャウトし続ける作品で、例によって、効かせすぎたヴィブラートでモゾモゾ歌う。最後の曲だからということなのだろうが、延々繰り返す最後のリフレインはやっぱり長すぎるんじゃないの?

 

B6 「ウィング・アンド・プレア」(Wing and Prayer, B, R. & M. Gibb)

 CDではボーナス・トラックだが、イギリスでは「オーディナリ・ライヴズ」の、アメリカでは「ONE」のシングルB面だった[x]。「シェイプ・オヴ・シングズ・トゥ・カム」と同様に、1988年のロス・アンジェルス・オリンピックの協賛曲として書かれたのかと思っていたが、そうではなかったのだろうか。

 アルバム収録曲以上にストレートなロック・ナンバーで、ロックが苦手とはいっても、この頃になると、さすがにこの手のナンバーも堂に入ったものだ。バリーのヴォーカルは、(すっかり気に入ってしまったらしい)語りを交えて、サビではファルセットを駆使してシャウトする、風を切る疾走感を感じさせるシャープなナンバーである。

 

B7 「シェイプ・オヴ・シングズ・トゥ・カム」(Shape of Things to Come, B, R. & M. Gibb)

 オリンピック記念アルバム(とでも言えばいいのか?)『ワン・モーメント・イン・タイム(One Moment in Time)』(1988年)に収録された曲。2014年に出たワーナー・ブラザース時代のアルバムのボックス・セットで『ONE』に収録されているので、まとめて寸評[xi]

 「ウィング・アンド・プレア」と同じストレートなロック・コーラス・ナンバーで、かつてのビー・ジーズのロックには欠けていたスピード感が備わるようになってきた。正直、コーラスのメロディ以外は、たいした出来でもないように思えるが、「ウィング・アンド・プレア」とどちらが、オリンピック・アルバムに相応しかったかは、・・・まあ、好き好きでしょう。

 

[i] J. Brennan, Gibb songs, version2, 1989.

[ii] ビー・ジーズ『ONE』(1989年)。

[iii] Gibb songs, version2, 1989.

[iv] Ibid.

[v] Bee Gees Australian Tour 1989 (Immortal, 2009).

[vi] Ibid.

[vii] Ibid.

[viii] 『ONE』(1989年)。

[ix] 同。

[x] Gibb songs, version2, 1989.

[xi] Bee Gees, The Warner Bros. Years 1987-1991 (Warner Music Group Company, 2014).