ビー・ジーズ1970(1)

ロビン・ギブ「夏と秋の間に」(1970.1)

1 「夏と秋の間に」(August October)

 ロビン・ギブの第三弾シングルは、前作から間を置かずに1970年早々に発売された。

 前作の「ミリオン・イヤーズ」があまりに重々しいバラードだったことを反省してか、こちらはもう少しとっつきやすい三拍子のバラードになっている。ロビンの曲を形容する際の常套句、童謡のように単純で覚えやすいメロディで、3枚のシングルのなかでは、もっともキャッチーともいえる。しかし70年代の音楽としては保守的に過ぎ、おとなしすぎると思われたのだろう。全米ではランク・インせず。それでも、ドイツでは、前作の14位に次いで、12位に上昇したというから、ドイツのファンは優しい。イギリスでは45位がやっとだったが、チャート・インしなかった前作よりはましだった[i]

 

2 「ほほえみを僕に」(Give Me A Smile)

 前作のB面だった「ウィークエンド」同様、親しみやすいスロー・バラードになっている。それ以外にはとくに言うことはない。

 

ロビン・ギブ『救いの鐘』(Robin’s Reign, 1970.1)

 ロビン・ギブの初のソロ・アルバムは、ようやくというべきか、1970年初頭に登場した。しかし発売された正確な時期は不明瞭で、1970年1月、2月、3月と情報は錯綜している[ii]。発売時期が確定しないのはシングルも同じで、「ミリオン・イヤーズ」なども1969年の発売なのか、1970年なのかはっきりしないが、ここでは2015年に発売された『救いの鐘 ロビン・ギブ作品集1968-1970年』に拠っている。この画期的な集成によって、『救いの鐘』前後のロビンの音楽活動の成果を容易に聞くことができるようになった。

 『救いの鐘』は原題がRobin’s Reign、Reignとは君主の統治期間のことだが、いかにも中世趣味の彼らしい。アルバム・ジャケットでは、中世の騎士というより、むしろバッキンガム宮殿の衛兵のような衣装を身に着けてポーズを取っている。日本盤ジャケットは、2015年の『救いの鐘』に付録として再現されているが、こんな突飛なデザインではなかった。

 ジャケットも1970年代に相応しいとは思えないが、内容もある意味時代を裏切っている。『救いの鐘』は、ロビン・ギブが自身の音楽的才能を傾けて制作した渾身の一作だが、同時に彼の限界も示している。それは2015年盤に付された膨大なボーナス・トラック、その半数はセカンド・アルバムに予定されていたSing Slowly Sistersのためのセッションからだが、それらを合わせて聞くことで、よりよくわかる。彼の場合、作曲のレンジが狭い。言い換えれば、何を書いても同じような曲になってしまう。まあ、それは極端としても、ビー・ジーズ時代から、彼の書いた(と思われる)楽曲は、明らかによく似たメロディ展開や共通の曲調が認められた。四分音符と二分音符を組み合わせて、サビではトップから音が下降する、というのが、ロビンが繰り返し用いたパターンだが、2015年盤で聞かれる楽曲はまさにそのような曲のオンパレードなのだ。同じことは『救いの鐘』についてもいえる。

 アルバムの楽曲は大きく二、ないし三通りに分けられる。ひとつは、「救いの鐘」のような教会音楽風の朗々と響き渡るバラードで、まるで讃美歌のような曲もある。いま一つは、もう少し小味でなじみやすい「ウィークエンド」や「秋と冬の間に」のような曲だ。しかしこの両者も根本的に異なるわけではなく、一括すれば「バラード」ということになる。やや例外的なのが、もっとリズミカルで、より普通のポップ・ソングに近い「マザー・アンド・ジャック」のような曲である。しかし全体として見れば、似たような曲ばかりで、ロビン・ギブのファンか、よほどのバラード好きでなければ、通して聴くのは苦痛だろう。

 しかしそれでも、いやそれだからこそ『救いの鐘』は、現在でも注目に値する作品ということができる。この見事に時代の流行を無視して、聞き手の気分を高揚させようなどということとはほとんど無縁な、あまりにも静謐なバラードばかり集めたアルバムを1970年に発表するということ自体、ある意味アヴァンギャルドとも言える。

 こうしたことを考えると、この作品をつくったとき、ロビン・ギブがまだ20歳だったというのは、やはり驚くべきことである。あるいは逆に、20歳という若さだったからこそつくることのできたアルバムといえるかもしれない。

 

A-1 「秋と冬の間に」(September October)

A-2 「ゴーン・ゴーン・ゴーン」(Gone Gone Gone)

 これはまたシンプルにもほどがある。ほとんどワン・フレーズを延々と、延々と、延々と繰り返す。ようやく”Gone, gone, gone”というフレーズで変化をつけるが、このしつこいまでの繰り返しは、何か特別な狙いがあるのかと勘繰りたくなる。

 あるいは「夏と秋の間に」を前奏として、アルバムの本格的なオープニングを飾るファンファーレかなにかのつもりで置いたのかもしれない。案外、初のソロ・アルバムということで、自身の感情の高ぶりを表現しているのだろうか。

 

A-3 「街で一番悪い娘」(The Worst Girl in this Town)

 アルバムのメインとなる曲のひとつ。全編にわたって分厚いコーラスがヴォーカルをかき消すかのように空間を埋め尽くす。オーケストラを含めた、この広がりとスケールはまるでプログレッシヴ・ロックのようだ。

 2015年盤の『救いの鐘』には、B面の「ファーマー・ハドソン」の原型となった未発表曲“Hudson’s Fallen Wind”が収められているが、この三部構成の組曲の2番目のパートを書き換えたものが本作になっていることが判明した。

 

A-4 「ほほえみを僕に」(Give Me A Smile)

A-5 「沈みゆく太陽」(Down Came the Sun)

 前曲に続いて、とっつきやすいメロディの小品。どことなくカンツォーネ風というか、イタリアっぽい雰囲気の曲。そういえば、「ミリオン・イヤーズ」と「夏と秋の間に」は(なぜか)イタリア語ヴァージョンが作られていたことも、今回の集成に収録されたことでわかった。

 

A-6 「マザー・アンド・ジャック」(Mother and Jack)

B-1 「救いの鐘」(Saved by the Bell)

B-2 「ウィークエンド」(Weekend)

B-3 「ファーマー・ハドソン」(Farmer Ferdinand Hudson)

 アルバムのメインとなる曲。というか、そうなるはずだった曲である。「街で一番悪い娘」のところで述べたように、この曲は本来12分を越える大作“Hudson’s Fallen Wind”の一部なのだった。

 『救いの鐘』のリマスター盤にボーナス・トラックとして付け加えられた“Hudson’s Fallen Wind”は、ファーディナンド・ハドソンという農民と村を襲った嵐をテーマにした、ロビンお得意の叙事詩で、最初、語りから始まる。その後、「街で一番悪い娘」のもとになるメロディが歌われると、残る7分以上が、ロビンのア・カペラのヴォーカルで嵐の擬音を交えて歌い継がれる。そのうちの終盤の3分足らずを抜き出したのが「ファーマー・ハドソン」となる。

 ギターもベースもドラムも、ドラム・マシーンもなし。リズムもテンポもあったものではない。およそキャッチーでも、ポップでもない曲を12分以上にわたって歌うというのは、相当な荒業だが、結局この曲をアルバムに収録しなかった理由はよくわからない。

 もちろん単純に考えれば、このような冒険的な曲をアルバムに入れても、売り上げに貢献するとは思えないからだろう。原曲を分割して、「街で一番悪い娘」と「ファーマー・ハドソン」に分けて聞きやすくしたのは、商業的な観点からの妥協だったのだろうか。しかし、結局セールスが好ましいものではなかったことを考えると、“Hudson’s Fallen Wind”をそのまま入れてもよかったようにも感じる。少なくとも、インパクトはあっただろう。

 

B-4 「神の恵み」(Lord Bless All)

 『救いの鐘』はB面後半に進むにしたがって、いよいよマニアックになっていく。「神の恵み」はタイトルから想像がつくように、ほとんど讃美歌のような曲だ。ロビン・ギブのファンでも、さすがにここまでくると戸惑うだろうが、後年クリスマス・キャロルを集めたアルバム[iii]を出したように、いやそれ以前に「ランプの明かり」や「救いの鐘」を聞けば、ロビンに中世音楽というより、教会音楽への嗜好があることはわかっていたことだった。

 さらに2006年に発表された『ホリゾンタル』と『アイディア』のボーナス・トラックのなかには、数曲のクリスマス・ソング(オリジナルとカヴァー双方を含む)が収録されていて、それらはほぼロビンのヴォーカルである。この当時のポップ・ミュージックにおけるクリスマス・ソングというと、サイモンとガーファンクルの「7時のニュース/きよしこの夜」が思い浮かぶが、ギブ兄弟が、というよりロビンがこれだけオリジナルのクリスマス・ソングを書いていたとは驚きだ。なぜ一曲でも公式発表しなかったのだろうか。

 とはいえ、そうしたロビンの好みであれば、この曲のような作品が生まれるのも不思議ではないということだろう。

 

B-5 「モースト・オブ・マイ・ライフ」(Most of My Life)

 最後の曲は、比較的普通のバラードである。『救いの鐘』には、セカンド・シングルの「ミリオン・イヤーズ」が収録されなかったが、この曲と同タイプということではずしたのだろうか。3枚のシングルのB面曲はすべてアルバムに収められているのも、考えてみると意外な気がする。膨大な数のレコーディングを進めていたのだから、代わりの新曲はいくらでもあったと思われるが、この3曲「マザー・アンド・ジャック」、「ウィークエンド」、「ほほえみを僕に」に自信があったのだろうか。それともこれらの親しみやすい曲がアルバムに必要と考えたのだろうか。

 本当のところはわからないが、この曲ではベースが使われている。これはモーリスだろうか。ジョセフ・ブレナンの解説では、セッション・ミュージシャンらしいが、モーリスだとすると面白い。バラードにもかかわらず、かなり自由に飛び跳ねるベースで、またそれには全く無関心に歌い続けるロビンのヴォーカルとの対比は、かなりシュールだ。

 

[i] The Bee Gees: Tales of the Brothers Gibb, p.705.

[ii] The Bee Gees: Tales of the Brothers Gibb, p.704; Joseph Brennan, Gibb Songs, Version 2: 1970; Saved By The Bell: The Collected Works of Robin Gibb 1968-1970.

[iii] Robin Gibb, My Favourite Carols (2006).