ビー・ジーズ1965

S06 トレヴァー・ゴードンとビー・ジーズ「ハウス・ウィズアウト・ウィンドウズ」(1965.1)

A 「ハウス・ウィズアウト・ウィンドウズ」(House without Windows, B. Gibb)

 「君たちの書いた曲じゃヒットは無理だね」と言い渡されたものの、「でも、他の歌手のバックで歌うなら、書いてもいいよ」と言われたのか。どういう理屈かわからないが、トレヴァー・ゴードンとの共演で発表したのが本作である。ゴードンは、いうまでもなく、3年後にマーブルズとしてギブ兄弟作の「オンリー・ワン・ウーマン」をイギリスでリリースしている[i]

 それにしても、オーストラリア時代のレコードが日本でも発売されるようになった1968~1970年頃は、こんな曲があったことは知らなかった。もっとも、当時のバリーはビー・ジーズ以外にも、というより、ビー・ジーズのレコードはほんの一部というぐらい、大量に曲を書いて他のアーティストに提供していたのだが、そのことは、なんとなく聞いてはいた。まさに息をするように曲を書くのがバリー・ギブ。ソング・ライティング・マシーンなどという生易しいものではなく、メロディ・モンスターといったほうがよいくらい化け物じみている(メロディがつくと、なんだか可愛らしいが)。

 それはともかく、この曲の入ったCDはもっていないので、ユー・チューブで初めて耳にした(つくづく良い時代になったものだ)。そして、聞いて驚いた。これほど巧みに、当時のポップなバンド・ソング風の曲が書けるとは。ゴードンの声に合わせたのだろうが、『1960年代のビー・ジーズ』では、ピーターとゴードン(こっちもゴードン?)の「愛なき世界(A World Without Love)」(レノン/マッカートニー作)とのタイトルの相似について述べている[ii]。「窓なき家」。確かに、いまどきウィンドウズが使えない家では生活も不便ですね。でもマックが使えれば(え、違う?)。気を取り直して、なるほど、ビートルズが書くポップ・ソングを連想させる。「ラーラララララララー」や「ウー・ワー」のかけ合いも楽しく、達者な出来栄えだ。なんで、これでヒットしないの、と思うくらいだが、やっぱり本当にヒットしなかったらしい。

 

B 「アンド・アイル・ビー・ハッピー」(And I’ll Be Happy, B. Gibb)

 B面のこちらもユー・チューブで試聴。ギターをバックにしたフォークっぽい軽いタッチの曲。何ということもない、いかにものB面にふさわしいナンバー。

 しかし、何度か聞き返したら、すっかり感心した。なんとなく聞き続けていると、脳にじわじわと沁み込んでくるメロディで、否応なく虜になってしまう。といっても、それほどオリジナリティがあるわけではない。ビートルズの初期のアルバムに入っているポップな曲を忠実に真似たような楽曲で、たとえば「ノット・ア・セカンド・タイム」(『ウィズ・ザ・ビートルズ』)などを思わせる。あるいは、むしろタイトルからして「アンド・アイ・ラヴ・ハー」(『ア・ハード・デイズ・ナイト』)を意識しているのかもしれない。

 そうだとしても、実にチャーミングなメロディで、この時点までのビー・ジーズの楽曲のなかでも一、二を争う出来だ。なんで、これが既発のアルバムに入っていないのだ!さあ、入れろ、すぐさま、入れろ。・・・え、もう出てるって?[iii]

 どうも、バリーは他人が歌うのを想定したときのほうが、自由に傑作が書けるらしい。この調子では、オーストラリア時代にも、まだまだ素敵な曲が眠っていそうで、むしろ憂鬱になる(探すのが大変だ)。やっぱり、もう一度、新しい編集版を出してくれ!

 

S07 ビー・ジーズ「悲しみはいつの日も」(1965.3)

A 「悲しみはいつの日も」(Every Day I Have to Cry, A. Alexander)

 「なんだね、バリー。また、ビー・ジーズの曲を書きたい?駄目だね、君のじゃだめだ」などと言われたのか、またしても、他人の曲を歌わされるギブ兄弟。「悲しみはいつの日も」、って、どうです、これ。えっ、ふざけるな?

 原曲は、アメリカのリズム・アンド・ブルース・シンガーのアーサー・アレグザンダー(すごい強そうな名前ですね)が1962年に書いて、同じ1965年に他のシンガーが歌って、全米チャート46位にランクされたという[iv]。なかなかキャッチーなメロディで、こっちのほうがヒットするはずだ、と考えたレコード会社は、あながち間違っていない。バリーのヴォーカルも曲に合っていて、生き生きしているし、何よりも、ロビンが後年得意とするようになった、エンディングでのアド・リブ風シャウトを聞かせて[v]、彩りを添えている。

 それでもヒットしなかったのだから、やっぱり「ぼくは毎日泣かずにいられない」?

 

B 「知っちゃいない」(You Wouldn’t Know, B. Gibb)             

 A面で他人の曲を歌わされたバリーの憤懣を邦題にするとは、日本のレコード会社もなかなかやりますね。

 で、その「知ったことか」じゃない、「知っちゃいない」は、再びバリーのオリジナル。B面なら、と、しぶしぶ認められたのか。しかし、『1960年代のビー・ジーズ』によれば、A面より、はるかにコンテンポラリーでジョン・レノンの影響がある、という[vi]

 確かに、リヴァプールサウンドといっても、初期のビートルズより、『フォー・セール』(1964年)あたりの、フォークの影響を取り入れ始めたころのレノンの楽曲を思わせる。

 軽快ななかにも、しゃれたメロディ展開がみられるバリーの意欲作だ。

 

S08 ビー・ジーズ「ワインと女」(1965.9)

A 「ワインと女」(Wine and Women, B. Gibb)

 自分たちで書いた曲でも駄目、他人の曲を歌っても駄目。いよいよ廃棄処分が近づいてきたギブ兄弟の前に現れたのがビル・シェパード。そうです、あのシェパード大先生です。ビルをプロデューサーに迎えて、ビー・ジーズが放った起死回生の一曲[vii]、それが「ワインと女」だった。やはり、シェパードの存在は60年代のビー・ジーズにとって、何よりも大きな力となったようだ。

 「ワインと女」は、ビー・ジーズのシングルで初めての三拍子の楽曲だが、優雅なワルツではない。性急な前のめりのテンポで、歌詞に「車とバスとトラムと・・・」とあるように、ガタンゴトンと路面電車が転がるような勢いですすむ。日本盤『オーストラリアの想い出』(1969年)[viii]の解説では、ビートルズの「ベイビーズ・イン・ブラック」(『フォー・セール』)のようだ、と書かれていた(ビートルズの曲も三拍子)[ix]が、発表当時のオーストラリアの批評でも、ビートルズの影響が指摘されていた模様だ[x]

 本作はビー・ジーズの初のヒットとなったが、実はギブ兄弟が(数少ない)ファンを動員して、レコードの買い占めを実行したらしい。そのかいあって、シドニーのラジオ局のチャートに入り、小ヒットとなったという[xi]。これなどまさに、「今でこそ言える話」ですね。

 とはいえ、「ワインと女と・・・」という冒頭の爽快なコーラスに、後半のロビンのソロ・ヴォーカルが、これまでのシングルに欠けていた陰影を与えて、曲の個性がはっきりしてきた。バリーの作曲とヴォーカル、ロビンのヴォーカルにモーリスのハーモニー、と、ビー・ジーズ陣営の戦力がついに整ったことを実感させる。

 

B 「風にまかせて」(Follow the Wind, B. Gibb)

 B面は、これまでで、もっとも典型的なフォーク・ソング・タイプの楽曲。シーカーズの影響という指摘[xii]も、なるほどと思える。

 だが、そんなことはどうでもよいくらい、素晴らしいメロディをもったナンバーで、A面以上に、バリーのメロディ・メイカーとしての飛躍を感じさせる。「ぼくは風を追いかけていく、風はぼくを故郷に届けてくれる、冬が訪れる前に」というコーラスは、数あるフォーク・ソングの名曲に負けないメロディの魅力をそなえている。

 

S09 ビー・ジーズ「アイ・ウォズ・ア・ラヴァー」(1965.12)

A 「アイ・ウォズ・ア・ラヴァー」(I Was A Lover, A Leader of Men, B. Gibb)

 ビー・ジーズ初のオリジナル・アルバムからのシングル・カット。

 明らかに「ワインと女」の二番煎じを狙った曲で、三拍子でダンダンダン、ダンダンダンと、さらに重量感を増したサウンドは、まるでオートマティック工場で瓶にビールを詰めている工程を見せられているようだ(何という例えだ)。

 しかし、演奏時間は3分半を越えて、自己最長記録を更新、それなりに大作で、サビのコーラスは、奥行きと広がりで既にあのビー・ジーズのコーラスに近づいている。途中、かき鳴らされるギターはモーリスだという。

 曲自体はさほどの出来でもないし、前作ほどのヒットにさえならなかったようだが、サウンドとコーラスのクォリティは加速度的に上昇していることがわかる。

 

B 「子供たちの笑顔」(And the Children Laughing, B. Gibb)

 いきなりの「アーアーアー」のコーラスから、バリーの落ち着いた内省的なヴォーカルが聞こえてくる冒頭が、まず素晴らしい。

 次第に言葉があふれて字余りになる歌詞といい、ギターを中心としたリズミカルな演奏といい、明らかにボブ・ディラン以降のフォーク・ロックを模倣した楽曲[xiii]だが、それを彼らしいメロディで巧みに自分のものにしてしまう才覚は、さすがバリー・ギブと思わせる。

 ここまで彼の書いた楽曲のなかでも、最上位に来る曲のひとつだろう。

 

A01 バリー・ギブとビー・ジーズビー・ジーズ、バリー・ギブが書いた14曲を歌う』(Barry Gibb and the Bee Gees, The Bee Gee’s Sing and Play 14 Barry Gibb Songs, 1965.11)

 苦節3年、ついにビー・ジーズのデビュー・アルバムが発売された。全14曲、すべてバリー・ギブのオリジナル。しかし、9曲はすでに発表済みのシングルAB面曲。まあ、ビートルズ以前は、これが普通だったのだろう。日本でも、かつては、LPレコードといえば、ヒット曲が出ると、それまでの既発のシングル曲や他人のカヴァー曲などを織り交ぜて制作するのが常だった。

 とはいっても、本作でヒット曲と呼べるのは「ワインと女」ぐらいで、それなら、もっと新曲を入れても(あるいは全曲新作でも)よかった。それでも、すべてバリーの楽曲で、他人の曲を含めていないのは、バリーの気持ちを尊重しているようにも見える。それとも、このアルバム・タイトルを思いついたので、全曲バリーのオリジナルでよし、としたのだろうか。「バリー・ギブとビー・ジーズ」というグループ名と「ビー・ジーズ、バリー・ギブを唄う」というアルバム・タイトルを並べると、なかなかしゃれてるじゃないか、とレコード会社が思ったのだろうか。それにしては、タイトルの「ビー・ジーズ(Bee Gee’s)」にアポストロフィが付いているという意味不明さだが。

 アルバムの構成は、AB面1曲目に最新シングル両面をそのまま配し、A2からは新曲3曲を続け、あとは、既発のシングル曲をアト・ランダムに並べるというもの。デビュー・シングル両面(とトレヴァー・ゴードンとのシングル)を除くバリーのオリジナル作品がすべて網羅されている。「ワインと女」で初めてビー・ジーズに興味をもったリスナーにも、これ一枚だけ買えばいいよ、という、なるほど、大変親切なレコードになっている。

 

A1 「アイ・ウォズ・ア・ラヴァー」(I Was A Lover, A Leader of Men)

A2 「おかしいなんて思わない」(I Don’t Think It’s Funny, B. Gibb)

 ギターの弾き語りによるフォーク・バラード。感傷的な美しいメロディをもった佳曲で、ロビンの初めてのソロ・ヴォーカル・ナンバー。これほど素朴なアレンジで、しかもロビン一人に歌わせるというシンプルさは、逆に、楽曲に対するバリーの自信とも読める。

 この曲でのロビンは、低い音がやや苦しげだが、まだ十分高音が出なかったのだろうか。しかし、それを埋め合わせるだけの魅力をもった作品で、バリーが書くフォーク調の一連の作品は、彼のメロディ・メイカーとしての優れた資質を証明する作品が並ぶ。

 

A3 「恋は真実」(How Love Was True, B. Gibb)

 コーラス主体のスロー・テンポのムーディなバラード。日本盤『オーストラリアの想い出』では、ビートルズの「ミスター・ムーンライト」との相似が指摘されていた[xiv]が、確かに、サビのロビンのヴォーカル・パートは雰囲気がよく似ている。もっとも、「ミスター・ムーンライト」はビートルズのオリジルではない。

 そうした元ネタはあるにしても、この曲でもメロディの美しさは際立っている。サビでロビンの声を使ったのも正解だった。

 

A4 「トゥ・ビー・オア・ノット・トゥ・ビー」(To Be or Not To Be, B. Gibb)

 新曲のうち、唯一のロックン・ロールだが、これまでで一番というほどの激しいビート・ナンバーになっている。途中に入る「ウェーエーエーエー」や「イェー」のかけ声も、いかにものビートルズ風。ピアノが使われているのも特徴だが、モーリスかどうかは不明なようだ[xv]

 

A5 「ティンバー」(Timber!)

A6 「閉所恐怖症」(Claustrophobia)

A7 「クッド・イット・ビー」(Could It Be)

B1 「子供たちの笑顔」(And the Children Laughing)

B2 「ワインと女」(Wine and Women)

B3 「さよならは言わないで」(Don’t Say Goodbye)

B4 「ピース・オヴ・マインド」(Peace of Mind)

B5 「あの星をつかもう」(Take Hold of That Star)

B6 「知っちゃいない」(You Wouldn’t Know)

B7 「風にまかせて」(Follow the Wind)

 

[i] The Marbles (Repertoire Records, UK, 2003)。

[ii] A. M. Hughes, G. Walters & M. Crohan, Decades: The Bee Gees in the 1960s (Sonicbond, UK, 2021), p.75.

[iii] Assault the Vaults: Rare Australian Cover Versions of the Brothers Gibb (Festival, 1998)がありました。見たことないけど。

[iv] Decades: The Bee Gees in the 1960s, pp.76-77.

[v] Ibid., p.77.

[vi] Ibid.

[vii] Ibid., p.81.

[viii] Rare, Precious and Beautiful 3 (1969).

[ix] ザ・ビー・ジーズ『オーストラリアの想い出』(ポリドール・レコード)、うちがいと・よしこ氏による解説。

[x] Decades: The Bee Gees in the 1960s, p.82.

[xi] Ibid., pp.82-83.

[xii] Ibid., p.82.

[xiii] 『1960年代のビー・ジーズ』では、バリー・マクガイヤの「イヴ・オヴ・デストラクション(Eve of Destruction)」(1965年)の影響が指摘されている。Ibid., p.88.

[xiv] 『オーストラリアの想い出』解説。

[xv] J. Brennan, Gibb Songs, Version 2; 1965.