11 「トゥモロウ・トゥモロウ」(1969.5)
1 「トゥモロウ・トゥモロウ」(Tomorrow, Tomorrow)
ロビンの脱退から、わずか2か月後に発売されたイギリスで9枚目のシングル。3月にはすでにレコーディングされていたらしい[i]。
もともとジョー・コッカーのために書かれたというから、びっくりする。ビー・ジーズとジョー・コッカー!?結局コッカーがこの曲を受け取らず(それはそうだろう)、スティグウッドがバリーに自分たちで録音するよう勧めた、という。この提案にバリーは、コッカーを念頭に書いたもので、ビー・ジーズのスタイルに合わない、として難色を示したらしい[ii]。なるほどとも思うが、かといってジョー・コッカーにぴったりとも思えない。
しかし、出来栄えはそう悪くもなく、曲自体も今までにない新しさがあり、それがビー・ジーズらしくないかどうかは一概に言えない。出だしは確かにロック風、というよりフォーク・ロック風で、ホーンも入って賑やかなアレンジ。ギター・ソロでも入れば、よりロックらしくなっただろう。しかしコーラスになると、一転スローなワルツになり、ピアノの伴奏にシンフォニックなオーケストラが加わり、クラシカル・ポップになってしまう。ジョー・コッカーがこのアレンジで歌ったらどうなったのか、興味深いところだが、このアップ・テンポからバラードへのダイナミックな展開は、これまでになかった試みで、シングルで4分を越えるというのも初めてのことだった。
残念ながら、全米チャートでは54位と、「ジャンボ」以来の不振だった。全英でも23位にとどまった。かろうじてドイツでは6位と、ドイツのファンは忠実だった[iii]。
思うに、シングル・ヒットするには構成が複雑すぎ、アップ・テンポからバラードへの変化も唐突すぎた。またアレンジが派手な割に全体のインパクトは強くない。もっとタイトなサウンドを目指すべきだったかもしれず、急いでレコーディングしたのだとすれば、それが災いしたのかもしれない。
2 「サン・イン・マイ・モーニング」(Sun in My Morning)
こちらもくすんだようなフォーク・ソング。ドラムはなし。ベースとアコースティック・ギターのみをバックに、バリーとモーリスがデュエットする。まるでサイモンとガーファンクルの線を狙ったかのようだが、洗練度が段違いである。
それでも曲は彼ららしく美しい。ひなびたオルガンや枯れたストリングスの響きも抒情をかきたてる。モーリスは、温かみがある、と強調している[iv]が、確かにほのぼのとした柔らかなサウンドとハーモニーは捨てがたい。しかし野暮ったさは拭えない。
ロビン・ギブ「救いの鐘」(1969.6)
1 「救いの鐘」(Saved by the Bell)
ロビン・ギブの初のソロ・シングルは1969年6月にリリースされた。
3月にロンドンのいつもと異なるド・レーン・リー・スタジオで録音されたという。モーリスがベースとピアノで参加したほかは、ロビンがギター、オルガンのほかにドラム・マシーンを使ってレコーディングしたというから、まさにソロ・レコーディングに近い。テープはこれもビー・ジーズ時代と異なり、ビル・シェパードではなく、ケニー・クレイトンというアレンジャーに送られ、オーケストラが加えられた[v]。モーリスの参加にバリーはお怒りだったらしい[vi]。
荘重なオーケストラに導かれ、ロビンがゆったりとしたリズムに合わせて霧の中から聞こえてくるかのような繊細なヴォーカルを聞かせる。四分音符と二分音符を基礎に音数を抑えた彼らしいシンプルなメロディは、まさにロビン・ギブのバラードの極致ともいうべき作品に仕上がっている。これまでの代表作である「そして太陽は輝く」や「ランプの明かり」に比べても、純度100パーセントのロビン・ギブ・ミュージックで、まったく雑味を感じさせない(バリーやモーリスが雑味というわけではない)。讃美歌のような曲想も予想に反せぬロビン・ギブ調で、バラードといっても、聞き手を切ない思いにさせるというよりも、そうしたセンチメンタリズムを排した、ある種硬質なバラードである。よく言えば「孤高の美」だが、リスナーを寄せ付けないような壁を感じさせないでもない。
ロビン・ギブの一つの到達点ではあるが、ここからどこへ向かうかというと、その後のロビンの活動を見ても、難しい地点に立ったと言わざるを得ない。
2 「マザー・アンド・ジャック」(Mother and Jack)
Aサイドとは打って変わって、軽快なリズムでロビンがリラックスした歌声を聞かせる。
彼らしい風刺的な歌詞は童謡のようでもあり、辛辣なようでもある。どこかラテン風なサウンドは明るい雰囲気で、のびのびとしたヴォーカルも心地よい。しかし強い個性があるわけではなく、聞き流されそうではある。やや長すぎて間延びするのも気になる。
しかし、後述のアルバム『救いの鐘』のなかで聞くと、意外なアクセントになっている。スローな曲ばかりで、アップ・テンポの曲がひとつもないせいでもあるが、B面ながらアルバムに収録された意味がわかる。
[i] Tales from the Brothers Gibb: A History in Song 1967-1990 (1990).
[ii] The Bee Gees: Tales of the Brothers Gibb, p.224.
[iii] Ibid., p.705.
[iv] Tales from the Brothers Gibb: A History in Song 1967-1990 .
[v] Joseph Brennan, Gibb Songs, Version 2: 1969.
[vi] Cf. The Bee Gees: Tales of the Brothers Gibb, p.223.