横溝正史『魔女の暦』

(本書のトリックのほか、『幽霊男』、人形佐七シリーズ短編、アガサ・クリスティの長編小説の内容に触れていますので、ご注意ください。) 『魔女の暦』は、1958年に東京文芸社から刊行された『金田一耕助推理全集3』に「鏡が浦の殺人」とともに収録された…

横溝正史『スペードの女王』

(『スペードの女王』および原型の「ハートのクイン」のほか、『真珠郎』、『夜光虫』、「神楽太夫」、『夜歩く』、「黒猫亭事件」、『悪魔の手毬唄』、『白と黒』の横溝作品。エラリイ・クイーンの『エジプト十字架の謎』、クレイトン・ロースンの『首のな…

横溝正史『悪魔の降誕祭』

(本書の犯人等のほか、『白と黒』、『仮面舞踏会』、『病院坂の首縊りの家』、『悪霊島』の犯人にも触れています。またジョン・ディクスン・カーの『囁く影』を比較対象にしていますので、未読の方はご注意ください。) 『悪魔の降誕祭』[i]は、1958年1月に…

ジョン・ディクスン・カー『カー短編集2/妖魔の森の家』

(本書収録の短編小説の内容に、かなり立ち入っていますので、ご注意ください。) ディクスン・カーの短編集が翻訳されたのは1970年で、創元推理文庫で一気に三冊がまとめて刊行された(第三集は少し遅れた)[i]。それでも積み残した短編は多かったし、その…

エラリイ・クイーン『エラリイ・クイーンの新冒険』

(収録作品の犯人等を明かしています。またモーリス・ルブランの長編小説に注で触れていますので、ご注意願います。) 『エラリイ・クイーンの新冒険』[i]はクイーンの第二短編集だが、一番目立っているのが中編の「神の灯」である。同作は、江戸川乱歩が惚…

J・D・カー『カー短編集1/不可能犯罪捜査課』

(収録短編の幾つかの結末を明かしていますので、ご注意ください。) ジョン・ディクスン・カーの初の短編集は、1940年にカーター・ディクスン名義で刊行された。処女作刊行から十年目というのは、早いのか遅いのか。もっとも、カーは最初の五年間ほどは、ほ…

エラリイ・クイーン『エラリイ・クイーンの冒険』

(短編によっては、犯人等を明らかにしていますので、ご注意ください。) 先頃(といっても、2018年)新訳が出た『エラリイ・クイーンの冒険』(1934年)[i]は、作者の最初の、そして代表的な短編集との定評がある。 『クイーンの定員』(1951年)にも選出さ…

クリスチアナ・ブランド『疑惑の霧』

(本書の犯人およびアイディアを明示していますので、ご注意ください。) クリスチアナ・ブランドの代表作といえば、昔は『はなれわざ』(1955年)、近年は『ジェゼベルの死』(1948年)だが、『疑惑の霧』(1952年)[i]も一貫して代表作のひとつに挙げられ…

クリスチアナ・ブランド『ザ・ハニー・ハーロット』

(なるべく種明かしはしないようにしますが、保証はできません。) クリスチアナ・ブランドの『ザ・ハニー・ハーロット』[i]を読んだ。 随分昔に買ったが[ii]、そのまま放りっぱなしだったのは、(これでも)仕事があったし、のんびり原書を読んでいるゆとり…

クリスチアナ・ブランド『はなれわざ』

(本書の犯人、トリック等を明かしていますので、ご注意願います。) クリスチアナ・ブランドの代表作は、『はなれわざ』[i]というのが通り相場だった。 都筑道夫が日本語版『エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン』のコラム「ぺいぱあ・ないふ」(1956…

クリスチアナ・ブランド『ジェゼベルの死』

(本書のトリックに間接的に触れていますので、ご注意ください。) 『ジェゼベルの死』(1948年)[i]は、クリスチアナ・ブランドの第五長編であるとともに、我が国では最高傑作との定評がある。 最初に注目を浴びたブランド作品はといえば、『はなれわざ』だ…

クリスチアナ・ブランド『ハイヒールの死』

(本書の内容に立ち入っています。ただし、犯人は明かしていません。) クリスチアナ・ブランドは、日本ではカリスマ的な人気を誇っているようだ(欧米のことはよく知らない)。 もっとも、アントニー・バウチャーが言った「ブランドに匹敵する作家を探すと…

横溝正史『不死蝶』

(本書のトリック等について言及しています。) 『不死蝶』[i]は、横溝正史の長編小説のなかでも、いろいろな意味で興味深い作品といえる。1953年に雑誌『平凡』に半年間連載され、1958年に長編化のうえ刊行されたが、『平凡』での連載というのがまず珍しい…

横溝正史『死神の矢』

(本書の犯人、トリック等のほか、『獄門島』、『犬神家の一族』、『白と黒』、『仮面舞踏会』、『悪霊島』の基本アイディアに触れていますので、ご注意ください。) 劇的で意表を突く場面から始まるのは娯楽小説なら普通のことで、作家が一番頭をひねるとこ…

横溝正史『悪霊島』

(本書の真相等を明かしています。あと『犬神家の一族』、『仮面舞踏会』についても、トリック等に触れていますので、ご注意ください。) 『悪霊島』は、言うまでもなく、横溝正史の遺作となった長編小説である。1979年から翌年にかけて連載され、1980年7月…

エラリイ・クイーン『盤面の敵』

(本書のほか、スティーヴンソン、ヘレン・ユースティス、ヘレン・マクロイ、ロバート・ブロックの長編小説のアイディアに触れています。) 1963年、『最後の一撃』(1958年)以来のエラリイ・クイーンの五年ぶりの長編ミステリが出版された。しかし、それは…

エラリイ・クイーン『最後の一撃』

(本書の手がかり、トリック等のほか、『アメリカ銃の謎』のトリック等を明かしています。) 1958年出版の本書[i]は、エラリイ・クイーンの30冊目の長編ミステリである。1929年の処女出版から丁度30年目で30冊。多作とはいえないが、順調な作家生活ではあっ…

横溝正史『毒の矢』

(本書の内容やトリックのほか、『神の矢』、「黒い翼」、『白と黒』などの長編短編小説、および、アガサ・クリスティの長編短編小説、ある古典的な密室ミステリのトリックに触れています。) 『毒の矢』(1956年)は、昭和30年代に横溝正史が力を入れた仕事…

ビー・ジーズ・トリビュート・アルバム2004

Maybe Someone Is Digging Underground: The Songs of the Bee Gees (Sanctuary Records, 2004) 2004年に久しぶりにリリースされたビー・ジーズのカヴァー曲集である。タイトルはもちろん「ニュー・ヨーク炭鉱の悲劇」の一節で、「(ビー・ジーズのカヴァー…

ニコラス・ブレイク『秘められた傷』

(本書の犯人を明かしてはいませんが、内容や構成には立ち入っていますので、ご注意ください。) 『秘められた傷』[i]は、ニコラス・ブレイクの第二十作目、最後の長編小説である。 今回ブレイクを順番に読み直そうと思った動機のひとつは、本書を再読したい…

ニコラス・ブレイク『死の翌朝』

(本書のほかに、『死のとがめ』、『死のジョーカー』の真相を明かしています。他のブレイク作品の内容にも、おまけにエラリイ・クイーンの中編小説、J・D・カーとE・D・ビガーズの長編小説にも言及しているので、ご注意ください。) 2014年に刊行された本書…

ニコラス・ブレイク『悪の断面』

(本書の内容をほぼ明かしていますので、ご注意ください。) 原題のThe Sad Varietyは、例によって文学作品からの引用かと思ったが、訳者解説でも何も説明がないので、違うようだ。「嘆かわしい見解の不一致」とは、要するに東西冷戦の西側と東側のイデオロ…

エラリイ・クイーンのハリウッド三部作:『悪魔の報酬(悪魔の報復)』、『ハートの4』、『ドラゴンの歯』

(『悪魔の報酬(悪魔の報復)』、『ハートの4』、『ドラゴンの歯』のトリック等を明かしていますので、ご注意ください。) 『悪魔の報酬』 1930年代末に書かれたエラリイ・クイーンの三冊の長編ミステリは、ハリウッドものとして知られている。そして、ク…

ニコラス・ブレイク『死のジョーカー』

(犯人の名前は伏せていますが、ほぼばらしていますので、ご注意ください。) 『死のジョーカー』(1963年)[i]は、ニコラス・ブレイクの第17長編だが、前作『死のとがめ』(1961年)[ii]と同様の犯人当てミステリである。つまり、それ以前の『血ぬられた報…

ニコラス・ブレイク『死のとがめ』

(本書の結末を明らかにしています。) 『死のとがめ』[i]は『メリー・ウィドウの航海』[ii]に続く、ニコラス・ブレイクの長編ミステリだが、前作同様の犯人当て小説で、しかし、印象は対照的である。 『メリー・ウィドウの航海』は、エーゲ海クルーズ船を舞…

ムーディ・ブルース『セヴンス・ソウジャーン』

ムーディ・ブルースの通算8枚目のアルバムは、『セヴンス・ソウジャーン(Seventh Sojourn)のタイトルが示す通り、『デイズ・オヴ・フューチュア・パスト』から数えて7枚目を意味する。あくまで『フューチュア・パスト』が一枚目だと言いたいらしい。「七度目…

ムーディ・ブルース『エヴリ・グッド・ボーイ・ディザーヴズ・フェイヴァ』

『ア・クエッション・オヴ・バランス』から一年ぶりのアルバム『エヴリ・グッド・ボーイ・ディザーヴズ・フェイヴァ』(1971年7月)は、日本において、もっともよく知られたムーディ・ブルースのアルバムとなった。実際、唯一のヒット・アルバムといってよい…

「密室講義」へと向かう三人の作家:カー、ロースン、乱歩

(『三つの棺』、『帽子から飛び出した死』の密室トリックを、はっきり明かしてはいませんが、かなりばらしています。それ以上に、『黄色い部屋の謎』、モーリス・ルブランの短篇小説のトリックを明らかにしていますので、くれぐれも、ご注意願います。) ジ…

ムーディ・ブルース『ア・クエッション・オヴ・バランス』

第二期ムーディ・ブルースの五枚目のアルバムは、前作から9カ月後の1970年8月にリリースされた。依然、ムーディーズのアルバム制作スピードは落ちていない。 しかし1970年代とともに、ムーディ・ブルースの音楽に大きな変化が生じたことは事実である。ヘイワ…

ムーディ・ブルース『トゥ・アワ・チルドレンズ・チルドレンズ・チルドレン』

第二期ムーディ・ブルースの四枚目のアルバム『トゥ・アワ・チルドレンズ・チルドレンズ・チルドレン』は、前作『オン・ザ・スレッショルド・オヴ・ア・ドリーム』からわずか7か月後に発売された。『デイズ・オヴ・フューチュア・パスト』以来のコンセプト・…