2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

エラリイ・クイーン『スペイン岬の謎』

(本書および他の「国名シリーズ」作品の内容に触れています。) 『スペイン岬の謎』(1935年)をもって、「国名シリーズ」は幕を閉じる。しかし、「読者への挑戦」は次の『中途の家』(1936年)でも踏襲され、それなら、もう一冊、国名を冠した長編を書いて…

エラリイ・クイーン『チャイナ橙の謎』

(本書のトリックやアイディアに触れているほか、『帝王死す』の犯人、G・K・チェスタトンの短編小説のトリックについて、言及しています。) 『チャイナ橙の謎』(1934年)は、作者(といってもフレデリック・ダネイのほうだが)が自作ベストに挙げた作品と…

J・D・カー『引き潮の魔女』

(本書の犯人やトリックを明かしてはいませんが、ほのめかしてはいます。また、『帽子収集狂事件』、『白い僧院の殺人』のトリックに言及しています。) 本書は1961年出版のディクスン・カーの歴史ミステリである。1957年の『火よ燃えろ!』、1959年の『ハイ…

J・D・カー『雷鳴の中でも』

(本書および『ハイチムニー荘の醜聞』の内容に触れています。) ディクスン・カーの小説技法というか、悪癖というか、演出のひとつに、緊迫感を高めるために天候を利用する、というのがある。事態が急転したり、登場人物のひとりが「明日までに、私たちのう…

J・D・カー『ハイチムニー荘の醜聞』

(本書の犯人とトリックを明かしているほかに、アガサ・クリスティの『オリエント急行の殺人』の内容について、注で言及しています。) フェル博士のカムバックを祝した、前作『死者のノック』(1958年)から一転して、再び歴史ミステリに戻ったのが本書であ…

J・D・カー『死者のノック』

(トリックや犯人は明かしていませんが、ちょくちょく暗示的なことは書いています。) 9年ぶりのフェル博士シリーズで、博士はアメリカで探偵の腕を振るう。『墓場貸します』(1949年)のヘンリ・メリヴェル卿に続くアメリカ上陸だが、H・Mのようなおちゃら…

J・D・カー『火よ燃えろ!』

(犯人やトリックは明かしていません。) 第五作『火よ燃えろ!』(1957年)[i]で、ディクスン・カーの歴史ミステリは新たな段階に入ったといえる。 いわゆる「スコットランド・ヤード三部作」[ii]の第一作で、イギリス近代警察誕生秘話(フィクションだが)…

カーター・ディクスン『恐怖は同じ』

(本書のトリックを明かしていますが、犯人は明かしていません。) 『恐怖は同じ』(1956年)は、『騎士の盃』以来、三年ぶりのカーター・ディクスン名義の長編だった。そればかりではなく、同名義の最後の長編小説となってしまった。しかも、ヘンリ・メリヴ…

J・D・カー『喉切り隊長』

(犯人を名指しはしていませんが、気づかない人はいないでしょうね。) 『喉切り隊長』(1955年)は、ディクスン・カーの歴史ミステリのなかでも、もっとも「ミステリ」らしい作品といえそうだ。ただし、パズル小説ではなく、スパイ小説である。ジョゼフ・フ…